11.揺れる心※


ああ、どんな顔して会えばいいんだろう。私は青峰先生が悪いと思うのですが、でも勝手に飛び出してきてしまったのは私なわけで。しかも黄瀬んちお泊りしちゃったもんだから青峰先生のことあんまり強く批判できなくなっちゃったなぁ。学校で気まずくなるのも嫌だから会うことにしたけど、すごく気が重いです。かと言って会いたい気持ちが1ミリもないと言えば嘘になるんだけど。

あーなんかもうめんどくさい!と投げやりになっていると青峰先生から連絡が来たのでとりあえず家を出る。

「わ、雨降ってるし…」

どんよりした気持ちに拍車をかけるこの雨に八つ当たりしたい。車だしいいか、と走って玄関を飛び出す。勢いよく助手席に飛び乗るとすぐ近くには青峰先生私服ver。まあ休日だから当たり前か。かっこよさと気まずさでなんかよくわかんない緊張が…。そんな私をよそに何も言わずに車を走らせる青峰先生。うう、空気が重い。「じ、自分から呼び出したんだから何か喋んなさいよお!」とツンデレ風に叫ぶ。もちろん心の中で。

「あ、あのー…どこ行くんですか?」
「ん?人気のねえとこ。誕生日のオレ1人残して他の男とよろしくやってるビッチを懲らしめねーとなあ」
「………」

本気で身の危険を感じる。だって先生の目は本気だもん。本気と書いてマジと読むやつだもん!!

ガクガク震えるのを誤魔化し窓の外を眺めて平常心を装っていること数分。先生は公園の脇に車をとめた。辺りはもう暗くなってて、私は思った。これ、ボコボコにされてバラバラにされて埋められるやつ…?

車を降りた青峰先生は助手席のドアを開けると私を引きずり下ろす。こ、殺される…ガチで抵抗しないとマジで殺される!!

「ちょ、先生!謝るから、何でも言うこと聞きますからだから命だけは…!」
「うっせ。じゃあ黙って後ろ乗れ」

私の腕を強く握ると後部座席に押し込み自分も乗り込んでくる。こわいこわいこわいこわい…

身体を丸めて塞ぎ込む私に触れることなく、青峰先生は黙り込む。ん…?どういう沈黙?私殴…られない?

「何で勝手に帰ったんだよ」
「え…」

相変わらず不機嫌なんだけど、なんか殺気立ってるというよりは拗ねた子供のような青峰先生に少しほっとした。てゆーか人のこと傷つけた自覚ねーのかよ。

「言えませんよ…」

もうあのことは忘れたいのに、今更掘り返されたくないんですけど。もう…青峰先生は何がしたいんですか。

「やっぱ黄瀬のこと好きなんじゃねーか。このイケメン好きが」
「ち、違っ…!黄瀬には電車で偶然会って、私が元気ないから慰めてくれてたんです」
「へぇ。元気ねーの?何で?」
「はぁ…。もういいです、めんどくさいから言っちゃいますけど、私先生の言葉に傷ついたんです。好きな人とあんな状況でナカに出していい?とか言われたらそりゃ後先考えずに頷きますよ!なのに先生は私の気持ち知っててわざと傷つくこと言うし…先生と一緒にいるのつらくなっちゃって…」

あの時の惨めな気持ち思い出したら涙出てきた。最悪最悪…なんで私ってこう泣き虫なんだろう。恥ずかしい、かっこ悪い…。

泣き顔を見られたくなくて青峰先生に背を向ける。落ち着かなきゃいけないのに、いろんな感情が溢れて止まんない。

「…悪かったよ」

青峰先生に後ろから抱きしめられてそう言われる。意外だ、先生が謝ってくるなんて。

「ヤッてる時はオレも夢中になっちまって…責任も取れねーくせに悪い…」

そんな言葉が聞きたいんじゃない。私は、後先のことなんて考えられないくらい好きになってもらいたいの。先生は、何もわかってないよ。でも先生の立場とか気持ちを優先して考えてあげられない自分本位な私も、先生を心から愛してるってことにはならないのかな。

「もう、やめるか」

先生の言葉に心臓がドクンッと鳴った。ゆっくり振り返ると先生が珍しく真面目な顔をしていた。私がうんと頷けば簡単に終わる関係。先生との今日までの出来事は過去になって、いつかそれも忘れてお互い違う人とまた結ばれる。私はもっと歳の近い男の子と付き合って、青峰先生にはもっと大人の…お似合いの奥さんができたりして。明日から、もうこの距離で見つめ合うことも、筋肉質な腕に抱きしめられることもなくなるのか。

やだなぁ…

好きって言葉は伝えてるし、傷ついたことも伝えた。あと何て言えば、この気持ち伝わる?どうやったら上手くいくのかわかんない。ただただ好きで、青峰先生と普通の恋人になりたい。望んじゃいけないのに、少しでも先生の近くにいたい。

「もうやめるかって聞いてんだけど…その顔、やめたくないって捉えていい?」

抑えきれない感情は全然隠せてなくて、終わりを覚悟した私を先生がまた引き寄せる。涙を流しながら首を縦に振ればその瞬間きつく抱きしめられて後頭部を押さえた激しいキス。

「…んっ…ふぅっ…」

息もできないくらいの噛みつくようなキスにまた思考が停止する。こうなるともう他のことなんて考える余裕もないくらい、先生に夢中になってしまう。だめだ、昨日シたばっかだしあんなこと言われて頭にきてるはずなのに、先生が欲しくてたまらない。

「ぁっ…」

舌を絡められたまま押し倒されると覆いかぶさってくる青峰先生にブラウスのボタンを外されていく。その間もキスを止めることはなく、チュクッ…チュクッ…と車内にいやらしいキスの音が響く。

ブラウスを脱がしブラを取ると胸を揉みながら耳を舐めて中に舌を入れてくる青峰先生に思わず変な声が出る。

「ぃあっ…んんっ…」

ぬるぬるしたものが入ってくる感覚と唾液の音がダイレクトに伝わってくるのがすごくいやらしい。青峰先生の腕を掴んで抵抗するも青峰先生は動きを止めない。いつもなら「耳、感じんの?」とかからかってきたり言葉攻め的発言をしてくるのに今日はずっと無言で、お互い夢中でセックスしてる。

ショーパンも脱がし私の胸をきゅっと掴むと乳首を口に含み口内で舌に責められる。

「ああっ…いやあ…ん…あぁんっ…」

気持ちよすぎていやらしい声を抑えられない。快感に耐えるように青峰先生の腕を掴む。

青峰先生の腕は私の身体をなぞってスルリとパンツの中に手を進入させると割れ目を数回なぞってナカにグチュ…と音を立てると指を入れた。

「んんっ…」

胸をちゅぱちゅぱ吸いながらナカに入れた指は私の良いところを執行に責め続ける。中の動きはそのままに、いやらしい液がからまった親指で外側の突起をグリグリ押し潰されどうにかなりそう。

「いやあっ…だめ、先生…そんなことっ…ああっ」

青峰先生は自分も服を脱ぐと、キスをしながら自身を挿入してきた。先生のがおっきくて熱くなっててすごく気持ちいい。先生は腰を動かしながら私の首筋に噛みつくように強く吸い付いた。先生は最近同じ場所によくキスマークを付ける。何だかマーキングされているみたいでそれが少し嬉しかったり。

身体を抱き上げられると対面座位の状態で揺さぶられる。先生は揺れる私の胸を揉みしだきながらまたキスをする。ああっ…やばい…奥にすごいくる…先生の、また熱くなってる…

思わずナカがきゅんっと締まり先生の眉間に皺が寄る。先生の感じてる顔とか声、すごく好き。いつも強気な先生がたまに見せる隙。先生と生徒じゃなくて、この瞬間だけは男と女だって感じられる。

再び押し倒され、膝裏を持った先生に突き上げられる。

「あっ…ぁん先生っ…強いっ…あぁっだめえっ…!」

濡れた肌が激しくぶつかる音、揺れる車、乱れた息で曇る窓ガラス…全部が私たちを煽って余計に熱くさせる。外に聞こえてしまいそうなくらいの私の喘ぎ声は、激しく降り続く雨に掻き消された。


行為の後、先生は「お仕置き終了」と一言言うと私を抱きしめてまたディープキスをしてきた。さっきまでとは違う、優しいディープキス。甘くて、深くて、ゆっくり舌を味わうような大人のキス。

「……ふ……んん…」

くちゅ…くちゅ…と唾液が混ざるやらしいキスの音、先生の舌遣いに骨抜きにされる。

唇を離した後、青峰先生はぽーっとする私を見てふっと笑みを漏らすと「あんまびびらすなよ。起きたらお前いねーし電話したら黄瀬が出るしで焦っただろーが」と私の頭をペチンと叩いて運転席へ戻っていった。先生が言ったことを想像して、胸が苦しくなるくらい嬉しくなった。ああ、やっぱりこの人が欲しい。していることは恋人と大差ないのに、その肩書き一つないばかりに「帰りたくない」の言葉を飲み込んだ。

・・・

「おはよう名前っち、昨日は姉ちゃんが振り回しちゃったみたいでごめん」
「おはよ。ううん、楽しかったよ。家まで送ってもらっちゃって、むしろ感謝してる」
「よかったぁ…なんか姉ちゃんが名前っちのことすげー気に入っちゃっててまた連れてこいってうるさいんスよー」
「あはは、じゃあまたお邪魔しちゃおうかな。お姉さんに会いに」
「え〜オレは〜?」

いつもの調子の黄瀬に朝から笑えば拗ねていた黄瀬が優しく微笑む。

「ん?」
「いや、思ったより元気でよかったなって。すごい落ち込んでたからずっと心配してたんスよ」
「あ、ああ…」

あれからずっと心配してくれてたんだ、黄瀬。相談に乗ってもらって、私のことを思って青峰先生はオススメしないって言ってくれた黄瀬に、昨日のことは言いにくい…。

「大丈夫?もう少しで青峰っち来るけど気まずくない?」
「う、うん!大丈夫!」
「………」

黄瀬の目線が少し下がると何かに気づいたように表情が変わった。視線の先に思い当たる節があることに私も気づきバッと首元を髪で隠すも結局墓穴を掘る形となってしまった。

「もしかして…あの後青峰っちと会った?」
「……うん。家帰ったら連絡きて…一応仲直り、した」

一瞬黄瀬の顔が強張った気がして申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、次に目が合った時にはいつもの笑顔の黄瀬に戻っていた。気のせい、かな…?

「なーんだ、心配して損したっスよー!朝から見せ付けられたっス、キスマーク」
「あっ、こ、これは…その…なんてゆーか…なんかごめん…私本当にバカだよね…」

黄瀬には知られたくなかった。あんな風に優しく慰めてくれたのに申し訳ないって理由と、あと単純に青峰先生とのこと隠したかった。私って本当にずるい人間だ。

「仕方ないっスよ、名前っちは青峰っちが好きなんだから。あんなに泣くほど好きな相手から誘われたら、大抵の人間は断れないっス」
「黄瀬…」

黄瀬器でかすぎるよ。私だったら、あんだけ相談乗ってあげたのにその翌日にこんな性懲りも無いことされたら頭にくると思う。

「ごめん…ありがとう。そうだ、よかったらお昼何か奢らせてよ。こんなんじゃお礼にならないけど、黄瀬の好きなもの何個でも買ってあげる!」
「名前っちが奢るとか激レア中の激レアっスね!スーパープレミアムワンダフルクリティカル…」
「ねえ、私ってそんなにケチい?」
「あはは、ジョーダンっスよ。でもごめん、今日は他の子と約束してるんスわ。だから名前っちもオレに気なんか遣わないでアモーレとごゆっくりどうぞっス」
「え…」

珍しい。黄瀬が他の女の子とお昼食べるなんて。それゃ黄瀬は年中モテモテだから断ったところで誘いは絶えないだろうし、黄瀬の気分ひとつで誰かと食べることなんてあるだろうけどさ。なんで私、ちょっと妬いてるんだろう…そんな資格ないし、私は青峰先生が好きなのに。ワガママも大概にしろよ私。好きな人も親友も自分だけのものにしたいなんて、欲張りにもほどがある。てゆーかアモーレって…内心遅すぎるツッコミを入れながら自分のモヤモヤした気持ちを掻き消した。