26.それぞれの夏※

緑間side.

「げ、雨とか聞いてないっスよー!」
「うわー…最悪なんだけどー」
「やみそうにねーし走るっきゃねーな」

練習が終わり帰ろうとすると、突然降り出した雨にチームメイトがぼやきながら昇降口を出て行くのを見てフンと鼻を鳴らす。馬鹿め、今は梅雨だぞ。天気予報くらい見ておけというのだよ。おは朝の占いだけではなく天気予報まで抜かりなくチェックしている俺はもちろん傘を持ってきている。なんなら今日のラッキーアイテムでもある。万に一つも俺があいつらのように走って帰ることなど……ない!?いや、おかしい…確かにここに今朝さしておいたはず…なぜ俺の傘がないのだよ!!!

「あ、もしかして真太郎傘パクられちゃった?」

靴を履き替えた名前さんが笑いながら近寄ってくる。パクられただと…誰だそんな卑劣な真似をしたやつは…俺のラッキーアイテムを盗むなど絶対許さないのだよ…

「…そのようです」
「困るよねぇ、そういうの」
「はい…ラッキーアイテムが…」
「え、そっち?じゃあ…はい!ラッキーアイテム」
「え…?」
「近くのコンビニまで一緒に行こ?私の傘は無事だったから、半分こしよう」
「あ、いや…しかし…」

それは俗に言う、相合傘というやつなのでは…!いくら虹村さんが不在とはいえ、ただの名前さんの厚意とわかっていても変に噂が立ったりしないか心配だ。そんな、1つの傘に名前さんと2人で入るなんてこと…

「だって雨やみそうにないし濡れちゃうでしょ。それとも、私と同じ傘…やだ?」
「そんなことは…!」
「あはは、よかった。じゃあ一緒に帰ろっ」
「すみません…ありがとうございます」
「いいのいいの、困った時はお互い様」

とんだ傘泥棒に出くわしてしまったが、俺の運は尽きてはいなかったようだ。隣には女神、そしてラッキーアイテムの傘の意味をこういった形で知ることになるとは。腕を頑張って伸ばす名前さんから傘を取りあげて俺が持つ。そんな当然のことにも「えへへ、ありがと」と嬉しそうに笑う名前さんにかわいい…という感情が爆発する。今日の部活のことやら何やらをさっきから楽しげに話してくれているのがまた可愛くてすごく和むのだが、正直全然話が入ってこない。なぜなら、名前さんと俺の腕が度々触れていて変に意識してしまっているから。これくらいのことで意識してどうする…話に集中するのだよ…!と言い聞かせるも「真太郎濡れちゃってない?ほら、もっとそっちに寄せていいよ」と傘を持つ俺の手を名前さんが握ってくるから完全に思考が停止する。わかるのは心臓がこれでもかというくらい早く脈打っているということ。

「大丈夫…です…名前さんこそ、風邪を引くといけないので…」
「真太郎はスタメン選手なんだから、もっと身体大事にしなさい」
「それを言うなら名前さんは女性なのだから更に大事にしてください」

意地の張り合いのようになってきてどちらとも譲らず傘を押し付けているさまに「…ぷっ、あはは…!」と名前さんが笑い出す。それに俺もつられてふっ…と思わず笑いがこみあげてくる。そんな何気なくも楽しいひと時はコンビニ到着と同時に終わってしまう。学校からここまであっという間だったな…。

「ありがとうございました」

そう言って傘から出ようとすると「ちょっと待って」と引きとめられる。まだ何かあるのか…?と言われた通りに名前さんを見つめて待っていると「やっぱりこっち側濡れちゃってる…ごめんね」と言ってハンカチで俺の肩を拭いてくれる。ち、近いのだよ…!!この向かい合った体勢で傘を持っている状態だと顔を隠すことも背けることも出来ず赤面しているのを隠せない…。どうしても視界に入る至近距離の名前さんをチラリと見ると名前さんも濡れているではないか。俺なりに配慮していたつもりが…さっきの意地の張り合いが原因かもしれないな。

「名前さんも濡れてますよ。ほら、髪にも水滴が…」
「あ…」

拭いてやろうと思い触れた瞬間、キスができそうなほど近い距離に名前さんの顔があることに気付いて思わず見つめ合ったままフリーズしてしまう。

「あー。名前ちんとみどちんじゃーん。ねぇ…何してんの?」
「………!」
「ちょっと緑間っち!抜け駆けは卑怯っスよ!」
「………」

無言で睨むな青峰。怖いのだよ。

「真太郎が傘盗まれちゃってたからここまで一緒に来たんだよ」
「んだよ、俺らだってずぶ濡れで走ってきたっつーのに」
「大輝達は傘持ってきてもなかったんだから自業自得!」
「そうだ、天気予報くらい確認してこい」
「うっせーな、傘パクられたやつに言われたかねんだよ」
「なんだと…!」

本当にタイミングの悪いやつらなのだよ。もしあのまま誰にも出くわさなければどうなっていたのだろうか…。いや、そんなものどうもこうもあるわけないのだが…!けど、顔を赤くして俺を見上げる名前さん、最高に可愛かったのだよ…。


黄瀬side.

「名前せんぱーい!」
「ん?どうしたの涼太」
「俺次の試合からスタメン決まったっス!すごいでしょ〜ほめてほめて〜」
「えー!早っ!すごいね、さすが涼太」

部活中名前先輩にしっぽを振ると「おめでと〜!」と満面の笑みで一緒に喜んでくれた。くぅ…かわいい。リョータ、頑張った甲斐あった…!バスケ部入って最初はまさかの3軍スタートだったけどそっこーで1軍来れたしレギュラーもスタメンも勝ち取って順調順調。ショーゴ君が辞めたからってのもあるかもしんないけど…まあでも結果良かったっスわ。いちいち目の敵にされるしおまけに上手いし名前先輩にひっついてるしで厄介極まりなかったからな。バスケ部辞めてからめっきり見なくなったけど、学校には来てんのかな…俺には関係ないけど。そんなことは置いといて、今日はまたしても俺の見せ場となることが待ってるんスよねぇ。完全に流れきてる、この波に乗って名前先輩のハートをゲットせねば!

「じゃあ、今から撮影始めますね。よろしくお願いします」

そう、今日は帝光に月バスの撮影が来ている。月バスとはバスケをやっている人間なら一度は目にしたことがあるだろうというくらい有名な雑誌だ。その中でも特に高校生プレーヤーにスポットを当てている記事が多いため、うちの部でも誰が買ってきたのかわからない月バス最新刊がご自由にどうぞと言わんばかりに常に部室に置かれている。その月バスが特別号を出すにあたって帝光の特集を組み、更には表紙も飾ってほしいということで今に至るんスけど…ここはモデルの黄瀬涼太の出番っしょ。名前先輩にいいところを見せて惚れさせるっきゃない…!!

「あれ、モデルの黄瀬君だよね?」
「そうっスよ」
「バスケやってるとは噂に聞いてたけど帝光のレギュラーなんてすごいねぇ」
「いやぁ俺なんて全然…春にバスケ始めたばっかなんで」
「春に始めたばっかりでもう帝光のスタメン?そりゃますますすごい…これも記事に書かせてもらうね」
「嬉しいっス!出来るだけ大きく頼むっス!」

やっぱこうなっちゃうよなぁ…春に始めたばっかアピールにも素直に食いついてくれていいスタッフさんっスわ。俺がちやほやされてるとこ、名前先輩見てるかな〜?ってあれ!?虹村サンと写真チェックしてて全然見てない!!てかくっつきすぎなんスよもう…なんで俺が知らないおっさんと話してて虹村サンが名前先輩といちゃついてんだよ…俺のほうがかっこいいのに…納得いかない。

「それにしても帝光は逸材揃いだなぁ」
「ん?ああ…そうでしょ?」

意識が先輩のほうにいっててもはやあんま話聞いてなかったけど確かにうちの部は逸材揃いだと思う。

「少し前まで中学No.1プレーヤーと謳われていた元主将の虹村君に高校バスケット界大注目のスコアラー青峰君、それにあの赤司家の御子息が新主将、挙げたらキリがないくらいだよ。しかもイケメン揃い、これは特別号の売上げ歴代記録更新しちゃうかもなぁ」

うんうん、と聞いていると「あの虹村君と一緒にいる女の子はマネージャー?」と名前先輩について尋ねられる。

「そうっスよ、かわいいでしょ」

彼氏でもないくせに自慢げにそう言うと、「彼女の写真も撮っておきたいな。黄瀬君と2人で表紙とか飾ったらすごい売れそう」とナイスな提案をしてきた。呼んでほしいと言われ名前先輩を連れてくると説明を受けた名前先輩は「え、私もですか…?」と驚いている。

「表紙になるかはまだわからないけど、他にもうちで好評な全国の美人マネージャー特集ってコーナーもあるからそこには是非大きく載せたいなって思ってるよ」
「おい…こいつは見せもんじゃねぇぞ」

月バスの人が熱い説得をする中不機嫌そうに話を割って現れる虹村サン。この人リーダーシップはすごいし基本冷静なんだけど名前先輩のことってなるとすぐこうなるんだよなぁ…まあ俺が名前先輩の彼氏でも同じような態度するとは思うけど。

「なかなかない機会だし、記念になると思うんだけどなぁ。君達付き合ってるなら後で一緒に見返したりしたら思い出になるし、彼女の記事に彼氏有りってのもちゃんと書くからさ」
「いいじゃない修ちゃん。せっかくここまで来てくれたんだし、帝光の写真がたくさん使われたら応援してくれる人も増えるかもよ?それに私の写真なんてそんな誰も見ないって」
「はぁ…お前は全然わかってねーな。まあ、お前がいいってんならいいけど。でも、変な写真撮ったり使ったりしたら許さねーからな」
「わかってますって。うちはグラビアじゃなくてスポーツ雑誌なんですから」

名前先輩の意見を尊重して渋々許可を出したものの虹村サンはまだ1人でぶつくさぼやいている。確かに虹村サンの言う通り、美人マネージャー特集はバスケット男子にとってグラビアのようなものでえっちなショットこそないものの毎月その話でひと盛り上がりしているくらい大人気のコーナーだ。この子可愛いだの付き合いたいだの妄想のネタにされることはまず間違いない。部室での男子トークを日頃耳にしている虹村サンだからこそ、あまり気乗りしない気持ちはわからなくもない。でも独り占めは良くねっスよ?名前先輩が俺の彼女になったら絶対俺と一緒の以外メディア露出なんてさせないっスけど、今は虹村サンのものだから存分に撮ってもらえばいいんだ。

「じゃあ次黄瀬君と苗字さんのカットいくよー」
「「はーい」」

「いいっては言ったもののポージングとか全然わかんないんですけど…」とあたふたしてる先輩もかわいい。恥ずかしいのか少し顔が赤くなってるし。

「じゃあこういうのはどうっスか」

1つのバスケットボールを一緒に両手で持ってカメラに笑顔を向けるとカメラマンが「おっいいねぇ!可愛いしいい感じ!」と盛り上げてくれる。カメラに写ってないほうの手を名前先輩の手にさりげなく重ねると、先輩が小声で「ねぇ、わざと?」とちょっとむっとしながら聞いてくる。「もちろん、わざとっス」と楽しむ俺に「もぅ…」と膨れてる顔もまじでかわいい…。

「制服もいいけど、マネージャーっぽくジャージ着てるやつも撮りたいな。今持ってる?」
「あ、ちょっと今日は持ってなくて…」
「じゃあ俺の貸してあげ…」
「いらねぇ。俺のを着せる」

さっきから端で睨みきかせながら撮影を見守って…というか見張っていた虹村サンが光の速さで現れる。なんなんスかこの人まじ過保護すぎだし邪魔…子役の現場に来てる親かよ…。

虹村サンのジャージに着替えて更衣室から出てきた名前先輩にそれまで談笑していた部員達も一気にどよめく。

「ね…これ、おっきいんだけど…大丈夫かな?」

クッッッッッソかわいい…!!!!!

ああもう…今すぐ抱きしめたい。こんなかわいい名前先輩を毎日ずっと見てる虹村サンもうなんなんスか…。当然キスもえっちもしてるんスよね?あーもう…嫉妬で気が狂いそうっスよ…

「おい、ジャージのチャックちゃんと上まで閉めろ」
「えーやだ暑いー」
「だーめ。露出厳禁。ほら、さくっと撮って戻ってこい」
「はぁい」

うざい…うざいうざいうざい。俺にはわかる、これが名前先輩へだけのやりとりに見せかけて今体育館にいる全男子生徒への牽制だったということ、そして「こいつは俺のもん」マウントだったということが…!でも俺だって負けない…

「おお、ジャージもいいね。彼シャツみたいなオーバーサイズ感に指先しか見えない萌え袖。これはうちの読者にも刺さるだろうなあ」

なーにがうちはグラビアじゃないだよ、このカメラマンしっかり名前先輩のこと女として見ちゃってんじゃないっスか。こうなれば…

「名前先輩、ボール持ってて」
「ん?こう…?ってちょっと…!」

ボールを両手で持った名前先輩をバックハグしてカップル風にキメてみる。「ほら先輩、笑って?これは撮影のポージングなんスから」なんてずるい言葉をかけてその後も頬をくっつけてアップで撮ったり肩を組んだりお姫様抱っこしたりと職権濫用してやりたい放題した結果、「黄瀬〜?ちょ〜っと話あっから部室行こっかあ」「あー、俺もお前に話あんだわ」「俺もー」「俺もあるのだよ」「僕もあります」「僕もだ。涼太、いいからさっさと来い」と集団リンチにあったのは言うまでもない。


虹村side.

最近名前の様子がおかしい。灰崎の件でこの間まで元気がなかったと思えば今度は俺と距離を置くような何か隠し事をしているような不審な態度が目立つ。最近また親父の体調が落ち着いて学校や部活に普通に出れてるから余計目についてるだけか…?それとも俺の留守中に他の誰かに心変わりでも…?あるいは主将じゃなくなった俺に興味が失せた…はさすがにないか。

「なあ」
「え!!何!?」
「いや、別に…呼んでみただけ」
「そ、そっか」

ほら、明らかにおかしい。以前なら休み時間になるたびに俺のほうを向いて楽しそうに喋ってたってのに最近は俺に背中を向けたままずっとスマホばっかいじってる。誰と連絡とってんだよ…気になんだろうが…

後ろからチラッと覗き込もうと試みるも気配に気付いたのかバッとスマホを裏返し「何見てんの!修ちゃんのえっち!」と怒られてしまった。おかげで教室中が「え、虹村何したの?」「教室でえっちなことしてんの?」「いくら虹村君でもそれはちょっと引く…」とあらぬ噂でざわついている。なんで俺がこんな目に…


「…はぁ」
「どうした修造、最近ため息が多いな」
「別に…何でもねぇよ」
「何でもあるだろ、こっちまで暗い気持ちになるじゃないか。いいから父さんに話してみろ」
「うるせぇな、何でもねぇって」

親父に恋愛相談なんかできっかよ。しかも内容が内容だけにそんなちっせぇことで悩んでんのかって絶対笑われる。きっと考えすぎなんだろうけど、なんかもやもやする。

さっきから何回スマホチェックしてもラインの返事すらきてねぇし…つか既読もついてねーじゃん。もうすぐ夏休みに入るってのに、まさか俺フラれる…?

それからというもの、俺は名前を疑いの眼差しで見るようになった。俺以上に親しくしている男はいないか、あやしい動きはないか。今日も部活中監視対象をじーっと観察する。

「虹村さん、怖いです」
「……あ?おお、赤司か。いつの間に」
「もう随分前からここにいましたよ。大丈夫ですか…ヤバい目してましたけど」
「わり、ぼーっとしてたわ」
「自分の彼女を見つめすぎです。そんなストーカーみたいに…。お2人がラブラブなのはわかっていますが全中も控えているわけですし…」
「ラブラブ、ねぇ。なんかそんな時もあったよなぁ…遠い昔のことだけど」
「上手くいってないんですか?」
「んー…わっかんねぇ。なんか距離取られてるっつーか避けられてるっつーか…」
「元ヤンの虹村さんも好きな子の前ではただの男なんですね」
「うっせえ」
「なんスかなんスか!ついに破局したんスか!?」
「えーじゃあ名前ちん今フリーってことー?」
「勝手なことばっかぬかしてんじゃねーぞお前ら!俺は絶対別れねぇ!」
「え…修ちゃん…?」

思いの外デカい声でこの上なく恥ずかしいことを叫んでしまいその日部活が終わるまでいじられるはめになった。

「どうしたの修ちゃん、最近変だよ?」

帰り道、少しでも名前と一緒にいたくてちょっと寄り道してこうぜと公園に誘った。ブランコに並んで乗りながらなんとなく漕いでいると突然そんなことを聞いてくる名前。全部お前が原因だってのに、能天気にそんなことを聞いてくることにイラッとする。

「変なのはお前だろ」
「え、私…!?」
「学校いてもスマホばっかいじって…なんか避けられてる気するっていうか…せっかくまた会える時間増えたのに…って何言ってんだ俺…ごめん今の忘れて…」
「そっか…そんな風に思わせちゃってごめん」
「…他に、好きな奴でもできた?」

ずっと気になって聞きたかったこと。女々しい男だって思われるかもしんねぇけど、もう限界だ。本人に聞かなきゃ何も始まんねぇし。

「私の好きな人は…修ちゃんだよ?」
「本当に…?」
「情でだらだら付き合うほど私暇じゃないもん」

まあ、それは確かに…。じゃあ本当にただの俺の考えすぎだったってことなのか?もっと詳しく問い詰めたい気もするが、俺を好きだって名前が言うなら信じようと思った。それが本当なら、他に何があろうと俺にとって大したことじゃねぇし。

名前が乗っているブランコの鎖を掴んで目の前に立つとかがんで名前にキスをした。絶対手放したくない…この唇も、名前の心も。

今すぐ名前を抱いて繋がって自分の腕の中にちゃんといるって実感したいのに、「今日、この後家来る?」という俺の誘いに名前は「ごめん、今日は帰ってやることがあるから」と断ってくる。信じると決めたはずなのにまた押し寄せてくる不安に俺は打ち勝つことができるのだろうか。


数日後、放課後いつものように親父の病室を訪れる。今日の学校の出来事だったり部活の話も一通り話し終わって会話も尽きてきた頃、名前にラインしようかとスマホの画面を見てふと気付く。俺、今日誕生日じゃん…。別にもう子供じゃねぇしたかが誕生日って思うけど、名前に忘れられてんのちょっとショックかも。だってあいつ俺どころか部員の誕生日まで覚えてるし去年なんか合宿の時ケーキとか作って出してたのに…薄情者め。というかうちの家族まで忘れてね?親父も何も言ってこねぇし今朝も誰にも何にも言われなかったな…帰ったらケーキくらいあったら許すけど。ああ…誕生日なんてクソ食らえだ。そんな暗い気持ちとともに病室の電気まで突然消え、もはやギャグだなと自嘲ぎみに入口のスイッチを確認しにいこうとすると、

「「「HAPPY BIRTH DAY TO YOU〜」」」

と歌いながらローソクに火を灯したケーキを持って現れる名前とうちの家族。どこに隠し持っていたのか個室というのをいいことにパァンッとクラッカーを鳴らす親父がうざい。病院なんだからそれはやめろ…!

「は…?お前今日用事あるって…」
「そうだよ、大事な用事。修ちゃんのサプライズ誕生日会〜!」
「「いぇ〜い!!」」

いや、急展開すぎて何が何だか…。チビ達は名前と一緒で心底楽しそうだし、名前も当然のように家族に馴染んで笑っている。

「修ちゃんにバレないようにみんなで連絡取り合ったり準備するの緊張したー…!」
「連絡って…あれうちの家族とだったのかよ」
「そうだよ、それなのに修ちゃんってば私が浮気してるんじゃないかって疑ってさぁ…ひどくない?」
「はは、確かに病んでたな。ここ数日見舞いにきてもため息ばかりついて」
「う、うるせぇよ」
「男らしくないわよ修造」
「「やーきもち!やーきもち!」」
「あーもう!うぜぇ…」

まさかのサプライズにすごく嬉しい反面調子を狂わされる。うちの家族と名前って組み合わせになるとどうも普段の俺じゃなくなるっていうか…シンプルに恥ずい。

「あーうざいって言うならプレゼントやんねーぞ!」
「プレゼント…?」
「はい、お兄ちゃん。これ、みんなで作ったんだよー!」

紙袋に入れられた分厚い本のようなものを広げると、たくさんの写真や寄せ書きが貼られたアルバムになっていた。随分前に家族で撮った写真、名前と何気なく学校で一緒に撮った写真、バスケ部の奴らと写ってる写真…つーかあいつらの寄せ書きまであんじゃん。赤司と黒子以外コメント短ぇなおい。

「見て見て、修ちゃん嬉しそう!」
「作戦成功だな!」
「やったぁ!」

ハイタッチして喜ぶチビ達と名前を微笑ましく見つめながら誕生日プレゼントをぎゅっと抱きしめる。これ作るために、隠れて色々頑張ってくれてたんだな…。家族と名前のことだけは絶対俺が守ってやらねぇと…と心の中で誓ったことは俺だけの秘密にしておく。


「あ〜ほんといい写真」
「さっきから何回見てんだよ」
「だって嬉しいもん」

病室で看護師の人に撮ってもらった俺の家族との写真が相当気に入ったのか名前は家に着いてもずっと眺めている。

「…いつもの感じに戻ったな」
「ん?」
「あ、いや…何でもねぇ」

やべ、つい気が抜けて思ったこと口に出しちまった。そんな俺を名前が見逃してくれるわけもなく、「いつもの感じってこういう感じ?」と俺の膝に乗ると抱きついてくる。かわいい…。俺も名前の腰に腕を回して見つめ「プレゼント、もう1個貰っていい…?」と強請ると「うん、だって今日の主役だもん。修ちゃんの好きなようにしていいんだよ…?」なんて言うから思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。

「じゃあ…いっぱいするけどいい?」

少し照れくさそうに頷いたのを合図に名前の唇に自分のを重ねた。ぎゅっと抱きしめて名前の口の中に舌を入れると絡め合ったり吸ったりする。濃厚なキスを続けながら名前の服を脱がせていき下着姿にすると首筋に顔を埋めてちゅっ…ちゅっ…と何度もキスを落とし時折強く吸い付いては俺のだって印をつけた。胸も同様に、揉みながら真っ白な膨らみに濃くて赤い印をいくつもつけて所有欲を満たしていく。

背中に手を回しホックを外してブラを取ると大きな膨らみにすでに赤く充血した乳首が目の前に現れる。こんな綺麗でエロい胸に俺の印が痛々しいほどついていて背徳感から余計に興奮する。胸を揉みあげながら乳首を口に含み舌で責めると名前が「ぁっ…」と声を漏らす。今日は家族がいるからあまり大きな声を出さないように気を付けているのか、快感に耐えようとしている姿が余計に俺を煽ってもっと鳴かせてやりたい気持ちになる。舌で乳輪をなぞったり乳首を甘噛みしたりして反応を楽しんでいると名前の腰が動き出す。

「どうした?もう欲しい…?」
「ん…欲しい…」
「そっか…かわいい…」

名前の後頭部を引き寄せて唇を重ねると胸を揉みながらまた濃厚な口付けをする。部屋に響き渡るリップ音でさえ外に聞こえるんじゃないかってほどそれは鳴り止まなくてそのまま抱き上げるとベッドにおろして押し倒した。邪魔な衣類を全て脱ぎ去り名前に覆いかぶさると続きのキスをしつこいくらいに深くして息苦しくなったところで唇を離すと糸を引いた。名前の唇から漏れた2人の唾液が光っていていやらしい。お腹や脚にもたくさんキスをして、最後に熱くなっているソコにキスを落とすと散々焦らされた名前は待ちわびた快感に「あんっ…!」と大きい声をあげて身体を震わせた。

「まだ触ってねぇのにケツまで垂れてるぞ」
「修ちゃんが…いっぱいキスするからっ…」
「じゃあ、ここにもたくさんしてやらねぇとな?」
「あっ…あぁあっ…んんっ…ふっ…!」

強い刺激に手で必死に声を抑えてるみたいだけど、全然漏れてるって…

「ほら、もっと舐めてほしかったら脚いっぱい開いて?」
「んっ…はい…こう…?」
「おりこーさん。じゃあお望み通り…」
「ぁあっ…んんっ…はぁ…あぁあっ…」

ナカからどんどん溢れてくる熱い蜜を舐めあげてソコを吸うと名前の身体がビクビクッと震えた。

「イった?」
「ん…イっちゃった…」
「かわいい…」
「修ちゃん…お願い…早く繋がりたい…」
「じゃあ俺のも舐めてくれる…?」
「うん…いっぱい気持ちよくしてあげるね」

玉を優しく撫でながら裏筋に舌をあてて丁寧に舐められ、それだけで声が出そうになるほど気持ちいい。

「気持ちいい…?」
「ん…気持ちいい…」
「ふふ、修ちゃんもえっちなの出てるよ…?」

そう言って名前は俺の先端から出る液をペロペロと舐めると「おいし…修ちゃんの…えっちな味する」と俺のを握って舐めながら見上げてくる。えっろ…!心臓のバクバク止まんねぇんだけど…。口に含んで俺のに名前の唾液が絡みついてじゅぶじゅぶエロい音立てられてんのがやばい…あぁ…出そう…

「挿れよ…気持ち良すぎてイきそう…」
「うん…じゃあこのままシてあげる」
「え、マジ…!?」

名前は俺のから口を離すとそのまま俺の上に跨り腰を落とす。お互いびしょ濡れになった場所をぐちゅぐちゅと擦りつけると卑猥な音を立ててずぷぷっ…と俺のを飲み込んだ。

俺の上で腰をゆっくり上下に動かして見下ろしてくる名前に視線も主導権も奪われる。俺って実はMなのかって思うくらい、名前にこういうことされんのすげえ好きかも…

「修ちゃん…気持ちいい…?」

身体を倒して俺の顔の横に腕をつくと腰をゆっくり打ち付けながらそう問われる。

「気持ちいい…そのままキスして…?」
「いいよ、じゃあ舌出して」
「ん…」

名前は俺の舌に自分のを合わせるとペロペロと舐めて絡ませる。口の中でそれを繰り返したり、俺の乳首を撫でながら上も下もねっとり絡まれてすげえムラムラする…

「俺ももっと突きたいから、体勢変えていい?」

名前の動きに合わせて下からゆっくり突き上げつつそう言うと、「いいよ…?」と微笑む名前にちゅっとキスされる。

名前を下に組み敷いて自身を再びナカへ沈めていくと「んっ…ああっ…」と名前も気持ちよさそうに声を漏らす。あー…あったかくて気持ちいい…

何度かゆっくり動かした後、「そろそろ…いい…?」と声を掛けて今まで我慢してた分をぶつけるかのように次第に激しく奥へと突き上げる。

「あっ…あんっ…すご…奥にっ…あぁっ…」
「あー…やばい…名前ん中良すぎ…っ」
「私も…修ちゃんのおっきいので…いっぱい突かれて…気持ちいっ…」
「はぁ…マジでかわいい…」

ここ数日悩んでた分余計に名前が愛おしくて、やっと繋がれた喜びと快感に幸せを噛み締めていると、「修造ー、先にお風呂入っていいわよー」と階段を上がってくる母親の声が聞こえて一瞬フリーズする。それは名前も同じでどうしようかと焦るが今のこれを途中で止めるなんて無理だ…こんなに盛り上がってんのに。

「名前…声出すなよ?」

そう言って名前の口を手で塞ぐとまた激しく腰を振る。

「……んん………んっ…ふうっ…」
「修造?返事くらいしなさい…」
「あー…悪い。今ゲームしてっから俺ら最後でいいわ…」
「そう?じゃあ先入るわねー」

母親の足音が消えたのを見計らって名前の口から手を離すとぎゅうっと抱きしめて腰を打ち付ける。

「もうっ…バカ…!」
「はは、バレたかな…?」
「んっ…お母さんの顔、見れないよっ…」
「ごめん、許して…?」

きつく抱きしめてキスをすると激しく奥へと突き上げる。パンッパンッと肌がぶつかり合う音と結合部から漏れるずちゅっずちゅっ…という音も激しさを表すかのように部屋に響き渡る。名前も限界が近いのか俺にぎゅうっとしがみついてきて耳元で可愛く鳴く。ああ…それやばい…!

「…んっ…あぁっ…あんっ…修ちゃん…修ちゃんっ」
「はぁ…あぁ…出るっ…名前…っ……くっ…」


息を整えて名前の身体にかけた精液を拭き取るとぎゅう…っと布団の中で抱きしめる。

「…好き…マジで好き…苦しいくらい」
「私も…修ちゃんのこと大好きだよ。誕生日おめでとう」
「こんな幸せな誕生日初めてだわ、ありがとな」
「ん…」

こんなんじゃ全然お礼にならないけど、感謝の気持ちを込めて名前の唇にキスをした。来年も、その先も…サプライズとかケーキとか何も用意してくれなくてもいいからずっと俺のそばにいてほしい。名前がいない人生なんて、もう考えらんねぇかも…

「風呂出たら、もっかいシよ…?」
「ふふ、みんなのこと起こさないように気をつけなきゃね」
「出来るだけ…気をつけるわ」

この世に誕生日ほど最高のものはないな、なんて安易に浮かれてしまうほどその後もケーキより甘い時間を存分に2人で楽しんだ。