番外編:潜入先の小悪魔(安室透)※

安室side

ある日、ポアロに新しいバイトが入った。名前は苗字名前、高校2年生。最初に彼女を見た時素直に「すごい可愛い子が入ってきたな…」と思った。その上料理は上手だし客ウケも良く(というか明らかに彼女目当ての男性客が増えた)、即戦力が入ってきたとマスターも喜んでいたな。それに彼女は年齢の割に男心をよく理解しているというかなんというか…時々心をくすぐられることがある。例えば…



「安室さん、あの…」
「ん、どうしました?」

僕の服の袖を掴んで困り顔で何か頼みたそうにしている。きっと自然とそうなってしまうんだろうけど、上目遣いの困り顔…かわいい。

「すみません、あれ取ってもらえます?」
「ああ、いいですよ」
「自分で取ろうと思ったんですけど、ちょっと高くて…」

そう言って隣で手を伸ばして一生懸命背伸びをする仕草がまたかわいい。

「無理しないでください、これくらいお安い御用ですよ」
「さすが安室さん、ありがとうございます…!」

ただ物を取ってあげただけでこんなに喜ばれたら嫌な気はしない。こんなことは日常茶飯事で、気付けば彼女が何か困っていることはないかと無意識に目で追ってしまっている自分がいた。


「〜〜〜!」

今日は何やらビンの蓋が開けられないようで1人で格闘している。料理も気配りもできる彼女だが、たまにこういう面があるところが微笑ましい。隙、とでもいうのだろうか。

いつも最終的に僕を頼ってくる彼女が可愛くて、1人で頑張っているのを微笑ましく見守りながら洗い物をする。

「もう…安室さん、見てないで助けてください」
「ふふ、どこまでやれるかちょっと見ていたかったので」
「安室さんのいじわる!」
「開けられないんですか?いつもみたいにお願いしてくれたら開けてあげますよ」
「む…大丈夫です、自分でできます」

少し膨れて僕に背を向けるとまたビンと格闘をしだす。意外と負けず嫌いな面もあるのか、なんて思いながら「まだですか?」とわざと煽ると観念したように「お願いします…」と僕に頼んでくる。そんな姿がいちいち可愛くて、「よく頑張りました」なんて頭を撫でて甘やかしてしまう。本業と組織の任務で疲れている日は特に、こうして彼女と過ごす時間が癒しになっている。


そんな日々を過ごしていると、ある時制服を着た男子高校生がカウンターに1人で座った。背が高く男前、少し柄の悪いその男性客に、「初めて見る顔だな…」と思いつつも水を出すと、「先輩!」と男性に気付いた名前さんが駆け寄る。名前さんの知り合い…?学校の先輩なのか…こんな柄の悪そうな男とつるむなんてけしからん…と思っていると、

「安室さん、この人私の彼氏の三井先輩です」

と紹介され、心のどこかで彼女が自分に気があるのでは…などと思っていた僕はなんだか面白くなかった。

「先輩、この人が私にいつも仕事を教えてくれてる安室さんだよ」

そう紹介され、にこっと即席の笑顔を向けると「へぇ…」と僕を一瞬怪訝そうに見た後、「こいつがいつもお世話になってます」と彼氏面をかましてきた。名前さんなら選びたい放題だろうに、なんでこの男を選んだんだ…としばらく頭はそのことばかりを考えていた。

・・・

それからしばらくした頃。公安の仕事で徹夜する日が続き疲れていたのだろう。ポアロに夕方から出勤し、着替えようとドアを開けると「えっ…!」と声がして、目の前の光景を理解するのに3秒ほどかかっただろうか。着替え途中で下着姿の名前さんが目の前で驚いたように立っている。「きゃっ…」と腕で胸を隠ししゃがみ込む彼女に一気に眠気が覚め、「す、すみません…!」と急いでドアを閉めた。

驚いた…まさか今になって更衣室を間違えるなんて。それにしても…胸、大きかったな…。服の上から見てもわかるしたまにくっついてきた時にも感じていたが改めて見るとなんというか…クるものがある。僕に触れられたら、彼女はどんな反応をするんだろう…って、何を考えているんだ僕は…!ここはあくまでも潜入先、それに彼女はまだ高校生だ。これから一緒に仕事をするというのに、変なことを考えるのはやめろ…と自分に言い聞かせ必死に煩悩を取り払った。

数分後、そんな彼女にジト目で見つめられながら「すみません…確認せずに入ってしまって」と謝ると、「安室さんのえっち」と怒られてしまった。彼女の顔と「えっち」という単語にまた先程の下着姿を思い出し顔に熱が集中する。

彼女にどうしたら許してもらえるかとタイミングを見計らっていると、「痛っ…」という声が聞こえて、駆け寄ると包丁で指を切っていた。

「大丈夫ですか…!」
「あ…すみません。ぼーっとしちゃって…少し指を切っただけなので大丈夫です」
「ほら、貸してください」

彼女の手を半ば強引に取ると水道水で洗った後消毒して絆創膏を貼った。

「痛いですか?」
「安室さん、心配しすぎです。大丈夫ですよ」
「それならいいんですが…。あの…さっきは本当にすみませんでした」

彼女の顔を見てもう一度そう伝えると、目が合った彼女は視線を下に向けて僕の手をきゅっ…と握った。

「付き合ってくれたら…許してあげます」
「え…?」

突然の彼女の言動に動揺すると、「今日仕事が終わったら少しだけ付き合ってもらえませんか…?」と潤んだ瞳で見つめられた。

なんだ、そういうことか…。と安心したような少し残念なような気持ちになりながらも、何かあったのだろうかと心配になりすぐに「わかりました」と返事をした。


店を閉め、名前さんと休憩室に2人。飲み物を渡して隣に座ると、何があったのかと単刀直入に聞く。正直、あの後「バイトを辞めるんじゃないか」「学校でいじめられたりストーカー被害にでも遭っているんじゃないか」と気が気ではなかった。

「彼氏とケンカが続いてて、上手くいってないんです…」

ああ、あの不良彼氏のことか。そりゃあそうだろう、早く別れなさい。と言いたい気持ちを押し込め、しゅんとする名前さんの話を聞くことにする。

「ケンカの原因はなんです?」
「先輩、私がここでバイトするの嫌がってて…辞めてバスケ部のマネージャーになってほしいみたいなんです」

やっぱりとことんけしからん男だ。ケンカしてまで彼女を自分の思い通りにしようとするなんて…。

「名前さんはそうしたくはないんですか?」
「バスケ部は好きだし先輩は今年で引退だから気持ちはわかるんです、試合は観に行ってるし…。でも、ここのバイトも好きだから辞めたくなくて…」
「ふふ、僕はそう言ってもらえて嬉しいですけど。名前さんは人気者ですから、大変ですね」
「もう…また揶揄ってます?」
「いいえ、揶揄ってません」
「まったく…先輩、安室さんにも嫉妬してました」
「え?」

確かに、前に来た時牽制みたいのことはされたな…

「…きっと、私が安室さんの話をよくするのがいけなかったんだと思います」
「へぇ…僕の話を?」

なんだか嬉しくて、どう話しているのか気になって詳しく聞こうとすると「あ、いや…別にそんな大した話はしてないんですけど…!」と誤魔化されてしまった。

「安室さんは、どう思います…?私、別れたほうがいいですか…?」

どうして僕にそんなことを聞くのか…ただ第三者の意見を聞きたいだけなんだろうけど、僕の服の裾を掴んで涙目で見つめてくる彼女の態度がまた勘違いを引き起こしそうになる。

「んー…そうですねぇ…僕は…」
「あっ…」

言いかけた途端、彼女のスマホが震えた。

「すみません、彼氏から電話が…」
「それは出たほうが良さそうですね、僕は外しますよ」
「ほんとすみません、すぐ終わると思うので…」
「気にしなくていいですよ」

そう言って部屋を出たものの、何の用か気になる。そわそわしながら店内の掃除をして時間を潰していると、通話を終えた彼女がやってくる。

「安室さんごめんなさい。今から彼氏と会うことになっちゃって…」
「え、この時間からですか?」

あの不良彼氏、何を考えているんだ。こんな時間から突然会おうとするなんて…やはりろくな男じゃないな。まあ…バイト終わりで疲れているのにそれでも会おうとするってことは、まだ名前さんも気持ちがあるってことなんだろうけど…。

「彼氏がここまで迎えにくるみたいで…せっかくお時間いただいたのに私の都合でほんとすみません」
「僕は大丈夫ですが…もう遅いですし、気をつけてくださいね。ちゃんと仲直りしてくるんですよ」
「えへへ…はい!」

なんて…いい大人ぶって心にもないことを言ってみたり。本当は心のどこかで2人が別れることを望んでいるくせに…。

・・・

数日後

またも公安での徹夜開け、今日は朝からポアロで夕方から名前さんがシフトに入っている。密かにそれを楽しみに頑張るかと意気込んで店へと向かった。


名前さんがそろそろ来る頃か…と時計を気にしていると、梓さんに「安室さんって意外にわかりやすいですよね」と呆れた顔をされる。

「何のことです?」

と動揺を隠して聞くと、

「名前ちゃんのこと相当気に入ってますよね?さっきから何回も時計見てるし、名前ちゃんを見る目が他の人の時とは違うってゆーか…とぼけても無駄です!」

と詰められる。トリプルフェイスの僕が梓さんにここまで言われるほど態度に出ていたなんて…もう少しここでも気を張らないといけないな。

「まあ…確かに名前さんはかわいいですよね」

変に言い訳をしても逆になんだかんだと言われそうだし、ここはあえてこう言ってポーカーフェイスで乗り切るか。

「安室さん、そんな風に思っててくれたんですか?」
「えっ!!名前さん…!?」
「さっき安室さんがトイレ行ってる間に名前ちゃん出勤してきてたんですよ」
「梓さん…早く言ってくださいよ…」
「じゃ、私はもうあがりなので後はお願いします」
「はい、お疲れ様です梓さん」
「名前ちゃんまたね〜!…安室さん、炎上には気をつけてくださいね?人気者の2人が噂になったら大炎上確定なんで!」
「あはは…」

去り際僕に耳打ちで釘を刺すと梓さんは店を後にした。

「梓さん、最後なんて言ってたんですか?」
「え…!?あー、いや…炎上しないようにって…揶揄われちゃいました」
「あはは、梓さんの口癖ですもんね」

そう言って笑うと、名前さんは特に気にする様子もなく注文を取りに向かった。まあ、そりゃそうだよな…一回りも歳の離れた男のことなんて気にしないか。彼氏とは上手くいったのだろうか…この間と打って変わって今日は元気そうだが、少しやつれたように見えるのが気になる。気のせいか…?



仕事が終わり店を閉め片付けをする。

「これ、向こうに運びますね…」
「はい、お願いしま…って、大丈夫ですか…!?」

しゃがみこんで作業していた名前さんが立ち上がるとフラッと倒れそうになり思わず抱きとめた。

「あ…すみません。ちょっと立ちくらみしただけなので大丈夫です…」

そう言って弱々しく僕の腕を掴むと胸の中から離れようとする名前さん。

「あとは僕がやりますから、少し休んでいてください」
「でも…」
「これは先輩命令です。いいですね?」
「ふふ…はい」

さっき抱きとめた時、やはり以前より少し痩せたなと感じた。あの彼と何かあったのか…?


閉店作業を終えた後、心配なので彼女を車に乗せ家まで送ることにした。

「体調はどうです?」
「本当に一瞬立ちくらみしただけですから大丈夫ですよ。もう全然元気です」
「…そうやって無理をするから心配になるんです。彼と何かあったんですか?」

立ち入ったことを聞いているのは自覚していたが、以前相談されたこともあるわけだし僕にも聞く権利はあるだろう。

無理していることを僕が気付いていると知り、彼女は一瞬驚いたように黙り、少ししてから口を開いた。

「あはは…やっぱ安室さんはすごいですね。実はこの間、あの後またケンカになって別れちゃいました」
「え…そうなんですか?」
「はい。ケンカの勢いで私のほうから振ったんですけど…いざ別れると、いい思い出ばかり蘇ってきて…」

話している途中で泣き出す彼女に動揺しつつも停められそうなところが見つからずそのまま車を走らせる。

「大丈夫ですか?すみません、辛いことを聞いてしまって…」

別れたと聞いた時、一瞬無意識に喜んでしまったことを反省する。好きな相手と別れてまだそう経っていない状況であれば辛いよな…それなのに店では気丈に振る舞って仕事をしていたと思うと彼女のことがいじらしく思えた。

「でも、食事はちゃんととらないとだめですよ?」

そう言って横目に彼女を見ると、彼女は眉を下げてまた弱々しく笑った。このままどこか食事にでも連れていくか…けど店だと周りを気にして泣くに泣けないだろうし…

「あれ…安室さん、道間違えてますよ?」
「少し寄り道をして僕の家で休みましょう。この間は相談に乗れませんでしたし、僕で良ければ色々吐き出してください。もちろん、強制はしませんが…」
「ありがとうございます…安室さん」


アパートに着き部屋に名前さんを招き入れる。

「へぇ、ここが安室さんのおうちなんですね。なんだか新鮮です」
「古いアパートですが、よかったら適当にくつろいでください」

ああ…身元を隠すためと寝るだけの家だからとこのアパートにしたがこんなことならもう少しいいところを借りていれば良かった、と彼女にカッコつけたいがために後悔する。かと言って未成年の彼女をホテルに連れて行くわけにもいかないし…いや家に連れ込む時点でだいぶ問題か…。

だが当の彼女は「安室さんって高そうなところに住んでそうって思ってたんですけど、なんかこういう落ち着くところに住んでるの逆に好感持てます」と笑顔を向けてくる。仮にこれが社交辞令であったとしてもなんていい子なんだ…と彼女のことを更に見直した。

「家にあるものになっちゃうんですけど、何か簡単なご飯作りますね」
「やった…!」

さっき泣いた涙の跡が残るものの、彼女が嬉しそうに笑ってくれることに安心する。

最初は部屋で座って待っていた彼女も手持ち無沙汰になったのか隣にやってきて僕の手元を覗き込んでくる。

「何か手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ。今日は頑張ってる名前さんに僕がご馳走したいので」
「えへへ、安室さん優しい。なんかこうしてると、安室さんと同棲した気分になれてちょっと楽しいです」
「じゃあ、高校卒業したらします?」
「もう、すぐそういうこと言う。今のは炎上案件です!」
「はは、失礼しました。名前さんのファンに怒られちゃいますね」
「それはこっちのセリフですよぉ」

なんて楽しい冗談を交わしつつ、少し胸の高鳴りを感じてしまっているのも事実だったりする。名前さんと同棲か…徹夜明けでどんなに疲れていてもこのかわいい笑顔で待っていてくれたら毎日幸せでいられるんだろうな…。

美味しそうに僕が作ったご飯を食べる名前さんを見て僕も嬉しくなる。よく考えたら名前さんが僕の部屋で僕の手料理を一緒に食べてるってすごいことだよな…。誰にも知られていないけど、これはまさしく現実であって、今彼女を独り占めしているのは他でもない僕だ。


一緒に洗い物も済ませ、ベッドに寄りかかりながら本題である彼女の話を聞く。まあ、ケンカの内容もいつもと同じと言うだけあって結局は彼氏の嫉妬や束縛と自分のやりたいことの板挟みで悩んだ結果別れを選んだって話なんだけど…彼女なら他にもっといい男がいくらでも放っておかないだろうし、本人もわかっているようだが時間が解決してくれるんだろうな。まあ、それまでの期間…つまり今がいちばん辛いっていうことなんだけど…

「先輩にヨリ戻そうって言われてて、でもまた同じことになるってわかってるから断ってるんですけど…それも辛くて」

あの男…なかなかしぶといな。確かに名前さんが彼女だったら束縛したくなる気持ちも手放したくない気持ちもわかるが…

「勢いとはいえ、せっかく勇気を出したんですからヨリを戻すのは僕もおすすめしませんね」
「そうですよね…」
「自分のやりたいことを頑張ってる名前さん、僕は素敵だと思います。辛い時も休まずに笑顔で働くなんて、誰でもできることじゃないですから」

そう言って彼女の頭を撫でると、彼女はまた泣きそうになる。

「次は、安室さんみたいな優しい人と付き合います…」
「………!」

目にいっぱい涙を溜め、困ったような笑顔でそんなことを言われいよいよ自分の理性を保てなくなる。

思わず彼女を抱きしめて、突き飛ばしてくれと願いながらも彼女の気持ちを確かめるようなことを聞く。

「…この状況で、男にそんなこと言うのはやめたほうがいい。みんな自分の都合のいいように勘違いしてしまいますから…」

きっと彼女は顔を赤くして「すみません…!」
とか言って僕から離れ、またいつものように揶揄って笑ってそのまま家に送ることになる。明日からもまたいつもの日常に戻る…そうでなければいけないんだ。なのに…

「安室さんに…勘違いしてほしいから言ったんです」

彼女は僕を見上げてまた理性を壊すようなことを言ってくる。

「自分が言っていることの意味、わかってるのか…?」
「安室さん、彼のこと…忘れさせてくれませんか…?」

ああ…もしこれが誰かの策略で僕を陥れようとしているのならこの一瞬ですべてが終わるな…なんて頭の片隅で自嘲しながら、この時自分の気持ちを強く確信した。僕は彼女に惚れてしまっていると。

抱きしめていた腕の力を緩め、彼女の顔を見つめた後唇を重ねてキスをした。どれだけ彼女をかわいいと思っても、潜入先の同僚でしかも未成年に手を出すなんてありえないだろ…!と今まで何度も自分に言い聞かせてきた。ただ同じバイト先で楽しい時間を過ごし癒され…それで十分だと思わなければと思っていたのに、もう止められない…。

「舌、出して…」
「ん…」

がっつきたい気持ちを抑えて彼女の舌を優しく舐めて絡めとる。彼女を抱きしめつつもう一方の手を後頭部に回して深いキスをしていく。

ちゅっ…ちゅっ…と彼女と僕のリップ音が静かな部屋に響いて、これから彼女を抱くことを考えると自分でもどうしようもないくらい気持ちが高まった。

「おいで」

名前さんの手を引きベッドに座ると、「脱がすよ?」とあえて聞く。

「電気、消してほしいです」
「どうして?」
「ちょっと明るすぎて、安室さんに全部見られちゃうの恥ずかしいから…」

さっきあんな小悪魔みたいな発言をしておいて恥ずかしそうに視線を逸らす。この顔が見たくてわざと聞くなんて、なんだか自分がおじさんみたいで少し嫌になったが作戦は成功だ。

「今日は君を思いっきり甘やかすつもりだけど、そのお願いは聞けないな。他の人には見せない君の全部、僕に見せてください」
「あ…安室さんっ…」

彼女の制服のボタンを外し、リボンを取り払って下着の上から胸を揉む。以前着替え中に出くわし見てしまったことがあったが、近くで改めてみるとやっぱり大きいな…華奢なのに胸だけ大きいのがすごくいやらしくて興奮する。普段一緒に働きながらポアロのエプロンの下にこんなえっちな身体を隠していたのかと思うとたまらない気持ちになった。

キスをしながらそのまま押し倒すと、背中に手を回してホックを外す。下着を上にずらすと真っ白で大きい形の綺麗な胸が顔を出して一気に下半身が熱くなった。こんなに綺麗な身体は見たことないな…と思わず生唾を飲んだ。直接胸を揉みながら舌を当てて舐めると彼女が聞いたことのない声で小さく甘く鳴く。

「…ぁっ…ん…安室さん…」
「気持ちいいですか…?」
「あっ…はぁ…気持ちい…ですっ…」
「ん…名前さんの綺麗なピンク色の乳首が、どんどん赤くなっておっきくなってますよ…」
「やっ…あん…安室さんのえっち…っ」
「誘ったのは名前さんですよ?僕にこうされたかったんですよね…いつからそう思ってたんですか…?」
「んっ…ぁっ…」

彼女の胸を揉みながら優しく舐め、時折乳首を甘噛みしたり音を立てて吸う。制服を中途半端に乱して彼女のいやらしい胸を責める行為に背徳感も加わって僕自身完全に勃起してしまっている。

乳首を舌先でいじめながら、「喘いでるだけじゃわかりませんよ?ほら、教えてください…」と意地悪を言うと、「やっ…教えません…」と恥ずかしそうにするのを見てまた密かにテンションがあがる。今日だけじゃなくて、彼女も以前から僕とこうなることを望んでいたということなのか…?と思わず本当に勘違いしそうになる。

片方の手で身体を撫でつつそのままパンツの中に滑り込ませると名前さんが僕の手を掴む。

「安室さん…そこは…っ」
「あー…もうびしょ濡れですね」
「だめ…あっ…」

彼女はすごくかわいいしきっと経験豊富だ。なのに無意識なのかわざとなのか初々しい反応をするのが制服効果もあって男心を刺激される。もっといじめて照れさせてえっちな姿を見たくなる…。

すでに蕩けきったソコを撫でながらナカに指を入れると僕の手を掴む手に力がこもる。

「安室さんっ…」
「恥ずかしい?でも、気持ちいいんですよね…?だってこんなに音が響くほど君のえっちな愛液が溢れているんですから…」

ぐちゅっ…ぐちゅっ…と卑猥な音を立てて指を動かすと彼女は僕の腕を掴んで快感に耐える。

「あぁっ…安室さ…きもちっ…」
「パンツの中に手を入れられて僕に好き勝手されてるのにそんなに感じて…いけない子だ…」

そんな君がたまらなく好きなんだけど…と思い唇を重ねて舌を絡めながら指を増やす。

「んっ…んん……」

彼女のナカが僕の指をギュウギュウ締め付けてきてそろそろ大丈夫か…と思いながらも感じてる彼女の顔が可愛くて見下ろしながら出し入れをしばらく繰り返す。

「イきそう…?」
「んっ…イく…」
「まだだめですよ?」

また意地悪をして指を抜くと彼女は息を乱しながら僕を見上げてくる。

「僕のでイってほしいので、ちょっと待っててください」

ハニトラ用で使用しているゴムを取り出し装着して再び彼女の上に重なる。

「安室さん、こういうこと…よくするんですか?」
「え…?」
「彼女いないって言ってたのに、ゴムあるから…」

組織の任務で…なんて言えるはずもないし、かと言って急にそんなことを言われて頭が回らない。

「もしかして…妬いてくれてます?」

なんて笑顔で揶揄って言うと僕の首に腕を回して抱きつき、

「安室さんの特別になれた気がしたのに…ちょっと寂しいなって思っただけです」

なんてまたかわいいことを言って拗ねるもんだから結局僕が自制心と戦うはめになった。

「この家に女性をあげたのは名前さんが初めてですよ」
「えっ、そうなんですか?嬉しい…!」
「ふふ、かわいい…。僕にどうしてほしいですか?」
「安室さんので…私の奥、いっぱい気持ちよくしてほしい…」

そう言って僕のガチガチに大きくなったソレをそっと握りながら見つめてくる名前さん。ああ…君は本当にっ…!

「いいですよ…じゃあ、僕のことだけ考えて…」
「ん…あっ…安室さんっ…」
「くっ…あ…君のナカ…すごく熱いね…」
「安室さんのも…おっきくて熱い…っ」
「………っ」

彼女と繋がれたというだけでいつ限界がきてもおかしくないのに、彼女は更に煽ってくる。

「あんまりそういうこと言わないでください…優しくする余裕なくなっちゃうんで…」
「ん…安室さんが…先に言ったんじゃないですかっ…」
「だって本当に…君のナカが気持ちいいから…」
「んっ…あっ…」

激しく突きたい気持ちを抑えてゆっくりと腰を動かす。甘く優しく彼女を愛して僕の虜にしたいから。自分勝手にただ激しくする高校生との差を知ってもらわないとな。

「ゆっくりされるの好き…?」
「ん…きもちいっ…」
「さっきから、君のナカがすごい締め付けてくるよ…」
「あっ…だって…安室さんの…なんかすごいえっちな気持ちになるっ…」
「かわいい…僕しか見てないですから、名前さんのえっちなとこたくさん見せてください」
「安室さ…ぁっ…キス、して…」

彼女から求めてくるのが嬉しくて、動きに合わせて濃厚でねっとりとしたキスをする。彼女のほうも僕を引き寄せ自分から舌を絡めてえっちなキスをしてきて僕のソレもまた大きさを増す。

「んっ…安室さんの…またおっきく…っ」
「いちいち言わなくていい…君だってさっきからすごい締め付けてるくせに」
「だって…」
「生意気な口が聞けないように…少し動き早くしますよ…?」
「あっ…あんっ…」

大きくなったソレで彼女の奥を突くと彼女はさっきより大きい声で鳴いた。ずっとゆっくり焦らされ待ち侘びた快感にシーツをぎゅっと掴んで僕からの刺激を受け止める。

「あっ…あぁあっ…奥だめっ…」
「奥気持ち良くしてほしいんですよね?ほら…ここ、好きでしょう?」
「あぁっ…そんなっ…安室さんっ…やあっ…」
「あー…すごい締まるっ…」

腰を打ち付けながら大きく揺さぶられる胸も口に含んで吸うとまたぎゅうっとナカがきつくなった。

「あんっ…安室さんっ…それだめっ…!」
「またイきそうになってますよね…?」
「んっ…イきそ…」
「勝手にイっちゃだめですよ…まだ君のこと味わい足りないですから」

彼女の脚を持ち上げてより深く奥まで自身を押し込むとグリグリナカを刺激してそのままパンッパンッパンッと腰を打ち付ける。

「ああっ…!」
「どうですか、奥は…」
「安室さ…の…すごいっ…当たって…っ」
「わかります?ここまで入ってるの…」
「ん…わか…る…」
「もっと僕のこと感じてください…っ」
「あぁっ…あんっ…」

奥へ何度も自身を突き続けると彼女が僕に抱きついてきて、僕の突き上げで感じる声が耳元にダイレクトに届く。

「あっ…やぁっ…んんっ…安室さ…もうだめっ…」
「ん…出すよ…っ…君のいちばん奥に…っ」
「んっ…あっ…ああっ…あぁあっ…!」

気持ちの入ったセックスをしたのはいつぶりだろうか。ゴムをしているとはいえ、未成年の彼女の奥に自分でも恥ずかしくなるくらいたくさん出してしまった。

彼女から自身を抜くとゴムを縛って処理をする。

「すごい…いっぱい出てる」
「あっ…こら見るな」

高校生相手に大の大人が…とこっちは恥ずかしい気持ちもあるというのに彼女は後ろから抱きついてきて楽しそうに覗き込む。いや、終わったばかりとはいえ胸が当たってるんだが…!

「だって…安室さんが私に興奮してこうなってくれたって思うと嬉しいんだもん」
「はぁ…君って子は。あんまりそういうかわいいこと言うの禁止…さすがの僕も抑えがきかなくなる」
「はぁい…」

僕を見つめる彼女のかわいい顔に手を添えて優しく唇を重ねた。今すぐ、君に好きだと伝えられたらいいのにな…。

・・・

「名前さん、トマトの切り方少し大きいですよ」
「え〜、そうですか?」
「ほら…ちょっと貸してください」

あの後も彼女とは変わらずポアロで共にバイトを続けている。やはりどうしても彼女のことは特別な目で見てしまうし、彼女からもなんとなくそんな雰囲気は感じるが…この間のことはあくまでも元彼を引きずる彼女の寂しさをまぎらわすための応急処置みたいなもので、どうこうなるわけにもいかないとわかっている。

そんな葛藤をしながら名前さんと店のキッチンに立っていると入り口が開き、見知った顔に思わず顔が引きつる。

「よぉ、売上げに貢献しにきたぜ」
「ちーっと久しぶりになっちまったけどな」
「もう来ることはないと思ってたよ…」

警察学校時代の同期、松田と萩原。以前ポアロで事件があった際鉢合わせ、偽名を使って潜入捜査していることを話した。それから冷やかしに何度か客として来ていたが、しばらく見なかったからもう来ることはないと思っていたのに。

「いらっしゃいませ。安室さんのお友達ですか?」
「え!君新人さん?超かわいいね!!名前は??」
「えへへ、苗字名前です。よろしくお願いします」
「俺萩原研二、よろしくな」
「ひゃ!あ、あの…」
「萩原…!」
「はは、悪い悪い」

手を差し出した萩原に握手しようとした彼女の手ではなく二の腕を握った萩原に一瞬殺意がわいた。

「おい萩、早速ナンパかよ」
「彼女はまだ高校生なんだ、そういうのはやめてもらえるか」
「名前ちゃん高校生なんだ?学校どこ?」

こいつ、本当に反省しているのか。

「湘北高校です。わかりますか?」
「湘北っていやぁヤンキー校じゃねぇか」
「名前ちゃん大丈夫なの?」
「確かに見た目はイカつい人多いですけど、みんないい人ですよ」
「名前さん、その中でも特に有名な不良達と仲がいいですもんね」
「もう、安室さん!そう言うとなんか誤解されちゃうじゃないですかぁ!」
「ふふ、だって本当のことですから」
「へぇ…名前ちゃん、見かけによらずそっち側なんだ?」
「萩原さんまで〜!もう、全部安室さんのせいですからね?」
「すみません。あ、すみませんついでに裏から取ってきてほしいものがあるんですが」
「はいはい、わかりましたぁ」
「お願いします」

彼女を裏に行かせ調理をしていると、2人がカウンターから前のめりになって問い詰めてくる。

「なんだよ零、潜入捜査すげー楽しそうじゃねーか」
「あんなかわいい子入ったとか聞いてないけど?」
「別に言う必要ないだろ」
「しかもおっぱいもデカくて愛嬌もあってまだ高校生とか…すげーいいじゃん」
「確かに、あんな子が新人で入ってきたら間違いなく狙うな」
「松田…君まで何を言ってるんだ」
「そういう降谷ちゃんだって、名前ちゃんのこと意識してるように見えたけど?」
「え…」

萩原のやつ…昔から洞察力に長けてはいたがこうなると厄介だな…。

「おい零…まさかあのおっぱいもう揉んだんじゃねぇだろうなー?」
「は、はぁ!?そんなわけないだろ!店で変なこと言うなよ…!」
「はは、ムキになると余計怪しく見えるぜ?ま、あの真面目な零が、萩じゃあるまいし未成年に手出すわけねぇか」
「俺は彼女が成人するまで隠し通せる自信あるもんねー」
「もう刑事やめちまえ」

初めて松田と意見が一致した気がした。まあ…人のことを言える立場では全くないのだが。この2人でさえ一瞬で虜にするくらいだ、学校や僕の知らないところでも色んな男に狙われているだろうな。はぁ…一度抱いただけでこうも以前より独占欲が増すとは想定外だった。女々しい自分が嫌になる。

「お待たせしました。頼まれてたもの、これで合ってます?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「名前ちゃんさぁ、彼氏いるの?」
「え?」
「かわいいから絶対いるだろ」
「ふふ、お2人みたいなかっこいい人にそう言ってもらえるのは嬉しいんですけど…実は少し前に別れちゃいました」
「え!てことは今フリー?今度俺とデートしようよ」

まずい…僕の知り合いの中でもいちばん女性にモテる萩原が本気で狙ったら名前さんのほうも好きになってしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ…

「おい萩原、いい加減に…」
「いいんですか?でも…私今気になってる人がいるんです。向こうの気持ちはわからないんですけど…」

そう言いながら、2人に見えないよう僕の手をきゅっと握ってくる彼女に一気に鼓動が早くなる。

どういうつもりだ…?彼女の気になっている人って僕のことなのか…?

「へぇ…そいつはラッキーだな。まだ付き合ってないんだろ?じゃあ俺も候補に入れてよ、これ俺の連絡先」
「んじゃ俺も」
「は?そりゃねーだろ陣平ちゃん」
「いいだろ別に。お前こそ何人女掛け持つつもりだよ」
「俺は本命ができたら一途になるんですー。陣平ちゃんだって人の姉ちゃんにゾッコンだったくせに」
「あ?んな昔話今持ち出してくんなよ…!」

まだ何も始まっていないというのにアラサー男2人が何を揉めているんだ…。

「ふふ、面白いですね安室さんのお友達」
「はぁ…ちょっと来てください」

呑気に笑う彼女をバックヤードに連れて行くと壁と自身で彼女の逃げ場を塞ぐ。

「さっきのあれ…どう言う意味ですか?」
「あれって…」
「僕の手を握ってきたでしょう?」
「ふふ、そうでした」
「気になってる人がいるって…初めて聞きましたけど」
「それは…安室さんには言えないです」
「どうして…?」
「どうしてもです」
「教えてください…」
「あ…安室さん…まだ仕事中ですから…ん…」

尋問しながら距離を縮めていき、困っている彼女の唇に自分の唇を押し付けた。

「…んっ……ん…」

僕の目の前で口説かれて満更でもなさそうに話したり、かと思えば僕に思わせぶりな態度をしてきたり…本当に君はいけない子だ。

そんな小悪魔にお仕置きとばかりにちゅっ…んちゅっ…と音を立てて舌を絡める深いキスをした。…まあ、お仕置きというより僕の嫉妬心が剥き出しのキスと言ったほうが正しいかもしれないが。

「今日、一緒に帰ろう…いい?」

唇を離してそう聞くと、意味を理解した彼女が少し照れながらもコクンと頷いた。


・・・


「はぁ…」

あの日店を閉めてから彼女を自宅に連れ帰って思いのままに抱いた。色んな感情が重なって最初の時以上に余裕がなくてつい激しくしてしまったが…正直すごく良かった。

結局彼女は最後まで答えを言ってくれなかったが、2人で甘い時間を過ごせたことに満足してこれ以上問い詰めるのはやめることにした。仮に僕が彼女の気になる存在だと言われても立場上今すぐ付き合うことは難しいし、しつこくして嫌われるのだけは避けたい。それに…聞かなくても一連の出来事とあの夜の彼女の反応からして…僕に気があるのは間違いないだろうからな。

今日は少し久しぶりに名前さんとシフトが一緒の日だ。彼女もバスケ部の部員達との勉強合宿があったり僕も組織の任務があったりですれ違っていたし…早く会いたいな。



夕方、制服姿の彼女が出勤してくる。僕を見るなり照れくさそうに微笑んで手を振ってくる姿とかたまらない。あー…かわいい。この間えっちして以来だもんな…あの時の名前さんすごく乱れていたし、あんなに可愛く僕に何度も甘えてきて…恥ずかしがるのも無理はないか。けどそれは逆効果というか…可愛すぎてもっといじめたくなってしまうから困る。

「おはようございます」
「おはようございます名前さん」
「おはよー名前ちゃん。あれ、メイク変えた?かわいいー!」
「わかります?嬉しい〜!久しぶりの出勤なので気合い入れちゃいました!」
「女子力高いねぇ、私も見習わないと。じゃ、お先に〜」
「「お疲れ様です」」

梓さんが店を出て名前さんと2人になる。確かにいつもと少し雰囲気が違うな…こっちもかわいい。もしかして、久しぶりに僕に会うから気合いを入れてくれた、とか…?なんて浮かれそうになる自分をどうにか抑える。

「もう…安室さん見過ぎです。変ですかね?」
「いえ、可愛すぎて見惚れてました」
「もう〜いつもそうやって揶揄う」
「ふふ、本当に思ってます」
「…じゃあ、素直に喜んでおきます」

そう言って僕を見上げて微笑むと注文を取りに行く名前さん。かわいい…。


忙しい時間帯を乗り切り少し落ち着いた頃。入り口が開いてガタイのいい、そしてガラの悪い学生が数名来店する。名前さんの学校のバスケ部員達だ。何度か来てくれたことがあるため今日のメンツもほとんどが見た顔だ。1人を除いては。

「流川くん…!どうしたの?みんなとご飯くるの珍しいね」
「腹減ったから来た」
「練習の後だもんね、お疲れ様」
「うす」

なんだこのイケメンは…話の内容からするに名前さんの後輩か?店内にいる女性客も「湘北の流川くんよ…!」と色めき立っているところを見るとちょっとした有名人らしい。

「こらキツネ!テメェだけなーにちゃっかり名前さんと喋ってやがる!誘ってもねーのについてきやがって!」
「ついてきてねー。目的地が一緒だっただけ」
「嘘ついてんじゃねぇ!」
「あ、花道ー!練習お疲れ様、座って座って」
「名前さん…!今日もエプロン姿イカしてます」
「あはは、ありがと。今お水持ってくるね」
「はい…!なんなら俺も手伝いを…」
「花道、いいから黙って座ってろ」
「む…りょーちん、彩子さんが来ないからって俺に八つ当たりして意地悪してるだろ」
「はぁ?お前が好き勝手しすぎてんだよ。大体なぁ…」

仲が良いのか悪いのか…そんなやりとりに慣れた様子の名前さんは水を取りに戻ってくる。

「すみません騒がしくて」
「いえ、男子高校生なんてあんなもんですよ。お水、人数分用意しておきました」
「さすが安室さん!ありがとうございます」

お水を運びに行く彼女を見送っていると視線を感じ、目をやると先程の流川くんとやらがカウンター席に座って僕のことをじっ…と見ている。

「…?」

なんなんだ…水が欲しいのか?でも彼の分も名前さんにまとめて渡してしまったし、なんかそれではなさそうな…

「あれ、流川くんこっちでいいの?」
「うるせーからこっちで食う」
「あはは、そっか。何食べたい?」
「先輩が作ってくれんなら何でもいい。弁当も美味いし」
「ふふ、了解」

弁当、とは…?もしかしてこいつに手作り弁当を作っているのか?ということは昼休みを一緒に…?え…まさか名前さんの気になる相手って…

「今日、何時に終わる?」
「お店閉めて後片付けしたら終わりだよ」
「じゃあ待ってる」
「うん、わかった」

なんなんだこのクソガキ…突然現れて僕の目の前で随分と見せつけてくれるじゃないか。

「安室さん、後輩の流川くんです。バスケすっごい上手なんですよ」
「へ、へぇ…それは一度見てみたいですね」

今度名前さんをデートに誘って一緒にテニスでもするか。そしたら僕のいいところをまた見せられるし彼女に手取り足取り教えることもできる…なんならバスケを練習して彼より上手くなることだってこの僕ならできる。素性を晒せないのが歯痒いところだが、僕が日々どれほどのタスクをこなしていると思っているんだ…こんなちょっとバスケが上手くてガタイがいいだけのイケメンに僕が負けるはずがない。

「流川くん、この人が安室さんだよ」
「へぇ…あんたが」
「どうも、安室透です」

あんただと…?僕がその気になれば君を誰にも知られることなく消すことだってできるんだぞ、とつい大人気ないことを一瞬考えてしまったが名前さんが彼の前でも僕の話をしてくれていることに免じて目を瞑ることにした。


結局閉店時間まで居座った彼らを見送り名前さんと閉店作業を始める。が、あのクソガキが一丁前に名前さんを送ろうと待っていると思うとやはり面白くない。

「名前さんの気になる相手って…もしかして流川くんですか」

聞くか聞くまいか悩んでいたが聞かないと気になって眠れない気がして唐突に聞いてみた。まあ、彼女のことだからどうせいつものように上手いことはぐらかすんだろうけど。

「え…!私そんなに顔に出てました…?」
「…は、はは…それはもう」
「えーどうしよう…恥ずかしいな」

え…ちょっと待て。……まじか…浮かれすぎるのも良くないなとか思いつつ心のどこかで「もし告白されたら断り切れるかな…」なんて無駄な心配までしていたというのに本当に恥ずかしいほど無駄な心配だったなんて。

「でも、これも安室さんのおかげです」
「え?」
「安室さんが先輩のこと忘れさせてくれたおかげで、他の人に目を向けることができたんです。ありがとうございます」

いや…そんな純真無垢な目でまっすぐ見つめてお礼とか言われるともう何も言えないじゃないか。…けど、意外と負けず嫌いなんだよ僕は。

「いえいえ。あとは僕がやっておきますから、彼のところに行ってあげてください」
「いいんですか?えへへ、安室さん大好き!」

きっと今だけだ。どうせまた上手くいかなくなって彼女は僕を頼ってくるに違いない。

その時はうんと甘やかして、僕じゃないと無理ってくらい好きにさせてみせますから…覚悟していてくださいね、名前さん。