新しい挑戦へ

試合が終了し、誠凛は桐皇にダブル・スコアで敗退した。
雪乃は俯き、表情が見えなく、その場を動けないでいた。



日「行くぞ雪乃。整列だ」

『…はい』



日向の言葉にようやく雪乃は顔を上げる。
そしてセンターサークルに向かって歩きだすと、目の前には青峰がこちらに向かって歩いてきた。
が、二人は一言も交わすことなく、目線も合わすこともなくすれ違った。

その光景に桃井や黄瀬、緑間は悲痛な表情を浮かべる。



審「112対55で、桐皇学園の勝ち!!礼!!」

誠・桐「ありがとうございました!!」





それぞれが控え室に向かうため、ベンチを片付けていた。



青「……ユキ」



そんな中、なぜか青峰は誠凛ベンチに現れ、雪乃の後ろに立つ。
雪乃は青峰に名前を呼ばれるが、振り向かない。



小金「なんで青峰が…?」

日「おい…」



青峰が誠凛ベンチにいること自体に驚きだが、今まで試合をしてきた、しかもボロボロに負かした相手のベンチにいることに日向たちは目を見開き、怒りも覚えていた。
しかし、青峰はもういちど雪乃の名前を呼ぶ。



青「ユキ、分かっただろ。火神(アイツ)じゃお前の光にはならねぇ。アイツの光は淡すぎるってな」

『…それでも私の光は火神君です。もうきみじゃありません』



青峰は雪乃の言葉に眉根を寄せる。
だがそれは怒りというよりも悲しみが含まれていた。



青「…なあ、ユキ。オレは…お前のことを今でも愛してる」



青峰の突然の告白に聞こえていた誠凛ベンチは驚愕した。
ただ雪乃は肩を小さく跳ねさせただけだった。



青「たしかにオレはお前にひどいことをした。だがお前のことを引き出してやれるのは光(俺)だけだ。……一緒にいたい、お前となら…桐皇に来い。またバスケやろうぜ」






青峰の言葉に雪乃は勢いよく振り返った。
雪乃の目からは涙が溢れだし、困惑した表情を浮かべている。
困惑しているのは誠凛メンバーだけでなく、桃井、そして観客席にいて何とか言葉が聞こえた黄瀬と緑間も同様だった。



『私は……私…』



必死に言葉を紡ごうと口を開くが、うまく言葉が出てこない。



『(私も…今でもあなたのことを……でも!!)』



雪乃は涙を流し、混乱している頭の中で必死に答えを出そうとフル回転させている。



『ごめんなさい…大輝君』

青「!ユキ!!」



雪乃は青峰から逃げるように荷物を持ち、控え室へと走ってしまった。
青峰も雪乃を追いかけようと走り出そうとするが、リコが目の前に現れる。



リ「彼女は誠凛高校バスケ部の黒子雪乃よ。あなた達になにがあったかはまだ知らないけど、彼女の意志でないのであれば、これ以上貴方が追いかけることは監督として、許しません」

青「…ちっ」



青峰はもう一度雪乃が走り去った方向を見ると、舌打ちを一つ残すと桐皇ベンチへと帰って行った。



高「ダ・ブ・ル・ス・コ・アだぁ〜〜!?」



試合を観戦していた高尾は不服そうに声を上げた。



高「やばくないすか桐皇!誠凛がこれならウチはもっとボロ負…」

木「なんでだアホ!」

高「いて」

大「そう単純な話でもないがな、緑間にとって火神は最悪に近い愛称だった(とはいえ5番(青峰)を止められるかと言えば…とてつもないな『キセキの世代』のエースは)」



秀徳メンバーも桐皇と青峰の実力に圧倒されていた。



緑「こんな試合を最後まで観るなんてオレもどうかしているのだよ。じゃあな黄瀬」

黄「早っス」



緑間は出口の扉へと歩き出す。



黄「ちょっとはショックとかじゃないんスかー?この結果に」

緑「オレの心配するぐらいなら雪乃の心配をした方がいいのだよ」

黄「え?」

緑「スコア以上に…青峰に雪乃のバスケは全く通用しなかった。精神的にも相当なダメージだろう。それに最後の青峰の言葉…誠凛はまだ若いチームだ。この修正は一晩でするのは容易ではないのだよ。残り2試合に影響がなければいいがな」

黄「雪乃っち…」



黄瀬と緑間は先ほどの青峰からの言葉を受けた雪乃の表情を見て確信してしまった。
やはりまだ雪乃は青峰のことを



愛していると…





『新しい挑戦へ』