笑わせるな

一方浜辺では、昨日と同じように誠凛高校がフットワークを行っている。
すでにみんなは汗だくで息を切らしていた。



伊「相変わらずしんどい…けど」

日「ちょっとは慣れてきた…かな」

伊「にしても何かやると思ったら、何考えてんだカントク?」

日「そりゃたぶん砂浜練習(これ)のアトだ」



浜辺でのメニューが終わり、体育館へと移動する。
すると体育館にはまだ秀徳高校がいた。



リ「今日から体育館練習は予定変更で、秀徳高校と合同練習よ」



突然のリコの言いだしに、誠凛も秀徳も驚く。



誠「えええ!?マジで!?」



誠凛高校の驚愕の声が体育館に鳴り響く。






日「よく許可してくれたな」

リ「そりゃあ…」

中「むしろありがたい話だ。お互いの手の内をさらすことになるが、こちらのメリットの方が大きい。情報の価値が違う。王者と呼ばれる秀徳(ウチ)は昔から周りに研究されている。…が、誠凛(むこう)は新設で情報が圧倒的に少ない。

どんな思考があるかは知らんが、冬にリベンジすべき相手の方からわざわざさらしてくるんだ。遠慮なく乗らせてもらおう」

木「賭けだな正直」

小金「え?」



木吉もこの意図を分かっていた。



リ「(なぜなら…逆にウチに確実なメリットはない…!けどウチの課題である各選手のスタイルの確立…王者との合同練習はそのためのきっかけになるかもしれない。でもきっかけにできるかどうかは、みんな次第だからね…!ここから先は頼んでわよ…)」

日「よおし、じゃあ始めるぞ」

リ「あ、火神君はちょいまち!」



火神も練習に入ろうとした時、リコが火神を止める。



リ「ちょっとみんなの分の飲みもの買ってきて!」

火「は?」

リ「砂浜走って500m先のコンビニまで!」

火「なんで!?」

リ「でも思いだろうから一本ずつでいいわよ♡」

火「それ何往復!?」

リ「みんな練習しているんだから早くね!」

火「じゃあパシりさせんなよ!!」



リコと火神のやり取りを中谷は静かに見ていた。





誠凛高校と秀徳高校の合同練習は今は5対5の試合形式の練習をしていた。



伊「改めて見るとすごいな…一人一人の動きのレベルが違う」



その時雪乃にボールが渡り、雪乃はいつものタップパスではなくボールを持った。
目の前には緑間がディフェンスをする。



緑「!?」

高「(は!?アイツ1対1とかしたっけ!?)」



緑間も高尾も驚く。
雪乃はドリブルをつくが、いつも簡単に緑間にカットされてしまった。



高「(なわけねーか…つかパス以外は引くほど弱いなマジ…)」



攻守交替で緑間にボールが渡ると、いつも通り高弾道の3Pシュートを決める。



日「(スッゲ…試合じゃねぇとマジみとれる…3Pに関しちゃまぎれもなく天才だ…!)」

緑「どういうつもりなのだよ雪乃…?」



緑間は雪乃に声をかけた。



緑「ふざけたプレイをするようになったな」

『ふざけてません。ただ…私自身がもっと強くなりたいんです』



雪乃の言葉に緑間は目を見開き、そして口元を緩めた。
しかしそれも一瞬のことで、冷たい目を雪乃に向ける。



緑「笑わせるな。青峰に負けて何を思ったか知らんが、多少上手くなろうがオマエの力などたかが知れているのだよ。それを自覚したバスケをしていたはずだが…それでももっと頑張ればなんとかなると思ったか?

一人でっ戦えない女が一人で強くなろうなどできるものか。思い上がるなよ」



緑間はそう言い放つと雪乃から離れていった。



中「誠凛はずいぶんと動きがよくなったな」

大「そうですね、ただなぜか火神だけは外に走りに行ったようですが、何か隠してるかも…」

中「…違うな。とゆうか大したモンだ。17歳の娘とは思えんな」

大「?」

中「火神(かれ)の武器は跳ぶ度に高さが増す跳躍(ジャンプ)力だ」

大「はい…しかも試合中に」

中「あれは気合や根性といった精神論ではなく、ちゃんとタネがある。それに気づいての仕込みだろう」



中谷はそこで木吉を見る。



中「(……しかもあの男は…木吉鉄平…おそろしい奴が戻ってきたな…)」











1日の練習メニューも終わり、合宿所に戻ってきた高尾はお風呂に浸かる。



高「だっはー、生き返るわー。つーかいつまでふくれてんだよ。さすがにそろそろウゼーから」



高尾は隣で湯につかっている緑間に声をかけた。



高「しかし雪乃普通とかのプレイはからっきしだなー。ミスディレクションなんて反則技持ってんのに…」



そこで高尾は気づいた。



高「つーかミスディレクション(それ)抜くとき使えばいーじゃん!見えないドリブルムテキじゃね!?」

緑「それはムリなのだよ。雪乃がなぜタップパスしかしないかわかるか?」

高「?」

緑「ボールから意識をそらすことができないからだ」

高「!」

緑「試合中、最も目を離してはならないものはボールだ。つまりコートで最も存在感のある物体なのだよ。だから雪乃はボールを決して持たない。もし持てばミスディレクションが発動できず、たちまちDFにボールを奪われてしまうだろう……

だが逆に、もしその弱点を克服する方法があるとしたら、恐ろしい進化を遂げるかもしれん」

高「それはいいけどさっきから喋ってる相手、それライオン」

緑「む?」



緑間はお風呂のため、メガネを外しているからか高尾だと思って喋りかけていたのは、お風呂に設置されている口からお湯が出るライオンだった。









リコもお風呂から上がり、廊下を歩いていると突然旅館の入り口が開いた。



火「だー終わった…!」

リ「ギャ―――」



入り口から入ってきたのは汗だくで息を切らした火神だった。



火「ギャーじゃなくて今買い終わったんだよ…!」

リ「今まで!?」

火「どーせ飲むためじゃねーけど…はい」



火神は手に持っていたジュースが入ったビニール袋を乱暴に落とす。

リ「(ちょっ…これまさか秀徳の人達の分も…!?誠凛の人数分のつもりで言ったのに…20…30以上…っていったい何km走ってきたのよ!?)」



火神が買ってきたのは30個以上のジュースの山だった。
リコは身体能力が見れる目で火神の肉体を視る。



リ「(言われた量をこなすどころか完全に超えてる…!!成果が出るのはまだ先…でもこのまま鍛え続ければ、彼はとんでもない選手になる…!!)」





『笑わせるな』完