第32話
ユキノも眠っている間、8年前の夢を見ていた。
8年前―――
『今回はいつ頃戻られるんですか?』
カ「今日中には戻る」
ユキノは任務に出かけるカタクリの支度を手伝っていた。
カタクリは淡々と支度をしており、質問をしても一言二言しか返ってこない。
荷物をカタクリに渡すと、そのままカタクリは何も言わず部屋を出て行ってしまった。
『いってらっしゃいませ』
小さなユキノの声だけが誰にも聞かれずに、部屋に響いた。
『はぁ…』
ユキノは緊張の糸が切れ、椅子に座りこんだ。
『(あの人に嫁いで2年。こういう夫婦のことを仮面夫婦というんですかね)』
ユキノはため息をついた。
『(私たちはただママが決めた夫婦。別に愛があって結婚したわけではないけど…少し寂しい)』
ユキノは寂し気に窓の外を見る。
町で見えないが、向こう側には海がある。
『(魚人島に帰りたい。みんなに会いたい。いっそここを抜け出したい。無理でしたけど)』
1年前、嫌気がさして抜け出そうとしたことはあったが、すぐに捕まってしまいさらに部屋の階を上げられた。
それだけではなく、一人では外に出ることも出来なくなってしまった。
そんな生活だが、唯一の楽しみがある。
プ「カタクリ兄さんに頼んでみたら?」
『カタクリさんに?』
プリンとのお茶だ。
結婚した時、城の案内役がプリンだった。
それから義兄妹の中でも一番仲が良く、お茶をしたり買い物に出かけたりする。
魚人島に帰りたいとプリンに相談をすると、そう返事が返ってきた。
プ「魚人島だと白髭のナワバリだから無理だと思うけど、たまには外に出たいっていえば多分兄さんのことだから了承してくれるんじゃないかな?」
『どうでしょうか』
プ「やってみなければ分からないでしょ?いつ帰ってくるって?」
『今日中には帰ると』
プ「じゃあ今夜言ってみたら?」
『聞くだけ聞いてみます』
暗い表情のユキノにプリンは疑問を持った。
プ「兄さんとはあまり話さないの?」
『必要最低限のことだけです』
プ「(兄さんはああ見えて不器用だからなぁ。本当は義姉さんのことが大事すぎて、どう接していいか分からないんだろうね)」
プリンは不器用な兄に苦笑いしていた。
*