思い出
こんな経験ありませんか?
以前連れて行ってもらったテニスコート。
しばらくぶりに訪れてみたら。
「こっ……コンビニになっとる……!!!」
向かいのマンションも、四つ角のお地蔵さんにも確かに見覚えがある。
なのにそこはコンビニエンスストア。
或いはデイサービスセンター。
若しくはアパート。
意表をついてドラッグストア。
……最悪、見渡す限りのソーラーパネル。
「思わずおでん買って帰ったよ」
「おでん買ったんすか……」
「だって遠回りして帰ったんだもん。おなか減ったよ」
桃の話によるとどうも今年の春に建ったらしい。あたしの日常には手塚のいない今テニスはほぼ関係ないので全然知らなかった。
持ち主とかはわからないけれど、タダのテニスコートでほっとくよりもコンビニでもしといた方が
まだ儲かるのかもしれない。
高校生にはピンとこない話だけど。
「休みの日とかに急にテニスやりたくなった時とか、結構便利だったんすけどね」
「……桃でも急にテニスやりたくなることあるんだ」
「何気に俺ディスられてます?啓先輩」
「いや、手塚だけなんじゃないかなその妙な感覚……って思ってたんでつい」
「越前なんか家にテニスコートあったし」
「は!?なにそれどーいうこと?」
「家って言うか、アイツんち寺じゃないすか。寺の脇にテニスコートあったんすよ」
「はえぇ……」
……まぁそれは特殊ケースとして。
なんかちょっぴり寂しいのだ。
”知ってる場所が知らないうちに変わっていた”以上に。
あそこは手塚との思い出のある場所だったから。
「よし、世田谷、お前そこの土地を買ってテニスコートを作れ。」
「なにがよし、だ」
「このご時世余った土地は色々狙われているらしいぞ。」
「あのさぁ……シムシティじゃないんだからさぁ……」
土地購入なら手塚さんの方がよっぽど現実的なんじゃありませんか?
資本的な意味で。なんなら今すぐコンビニのオーナーにだってなれちゃう!!
「……手塚はコートが欲しいだけでしょ?あたしはあのコートがなくなったのが寂しいんだもん」
「……良く通ったもんな。あそこ。」
「……うん」
テニスしないあたしが足繁く通ったテニスコート。
あそこに行けばなんだか、あの頃のあたしたちもそこにいるような気がして。
ずっと留まっているような気がして。
手塚が渡独してからはなんだか亡霊を求めるような気分で立ち寄ったりしてた時期もあった。
落ち着いて、行かなくても大丈夫になったのはいつだったっけ……?
「今度帰国したらおでんでも買いに行くか……。」
「……なんで?おでん?」
「世田谷が好きそうだから?」
「もう買ったよ……」
「ほらな、やっぱり。おでんでも食いながら資金繰りと土地活用の事でも話そうか。」
「まーだ言うか!!」
「大丈夫だあとはハンコを押すだけだから。経営は全部こっちがやるから。」
「しかもなんか悪徳っぽい……!!」
「それで今度は、ああ昔はあそこコンビニだったなって言えばいいんだよ。」
「……」
「そうしたらまた、新しい思い出。」
「……手塚は寂しくないの?手塚の方がもっと前から使ってた場所なのに」
「寂しいが……世田谷が居るし。」
「……」
「寂しかったと思ったことも、後から見れば思い出になるんじゃないか。」
きっとそこここに上書きされてる街並みがあって。
それぞれに上書きされない思い出がある。
そうやって人は生きていく。
そうして街もまた、生きている。
思い出
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
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