四月の風


こっちへおいでと誘うのか

あっちへお行きとあしらうのか

春の夜風は気まぐれに





「だぁっ!!」

「……どうした?」

「いいや、なんでも」





スカートを暴れさせる。……いやいやそんな色気の無い話じゃなくて。





「まだあまり咲いてさそうだな……。」

「今年ちょっと寒いもんねー、日中も」





花の便りは届いたけれど、思ったより気温は上がらなくて。

出向いたお花見の名所もまだ、花より人のが圧倒的に多い。

……要するにお酒が呑めて騒げればいいのよね。別にね。





「お、おおう手塚、あ〜んまり人混みの方行ったら……」

「大丈夫だ、もう一般人だから。」

「世間ではそれを元有名人と言うのだよ……」

「こんな暗闇の中で俺に気付くのは世田谷ぐらいしかいないだろう。」

「いや!?んなことねーべ!?」

「まぁ、例え気付いたとしても、黙って花見くらいさせてくれ。折角一般人になったんだから。」





軽やかに人の波をすり抜けて

こっちへおいでと手招きする

空を見上げて誰も気付かない

もしこの場で取り囲まれたら

あっちへお行きと逃がす気か

風のように人の髪を揺らして





「おい、世田谷!」

「……うわっ、はやっ!!」

「お前は本当すぐに自分の世界に行ってしまうと言うか……。」

「ああ、はい、ごめんなさい」

「―――やっぱり俺が居ないと駄目だな。」





四月が来た。

気まぐれにあたしを揺らす

君が帰ってきた。





「……あれ?返事は?」

「そんな俺様な台詞、跡部くんが言うヤツじゃん」

「世田谷にくらい威張りたいな。俺も。」

「もう今まで十分威張られてるんですけど」

「そうか?」

「そうよ?」





そうか?ともう一度口にすると、手塚は満足げに笑った。

何かが起こりそうな気がする。

毎日、そんな気がしている。

騒々しい世の中なんか軽くあしらって、君は君の新しい毎日を作り出す。





「ほら世田谷、あの樹だけ結構咲いている。行ってみよう。」

「あのぉ……すみません、もしかして―――」

「……来た!!」

「申し訳ないんですが、今夜は花を見ませんか。僕らも同じなので。」

「あっ、すみません……そうですよね。桜、折角咲いてますもんね、……ごめんなさい」

「……すんばらすぃー」

「このくらいは心得ているぞ俺だって。どうだ。」

「わーホントに威張ったー」




短い季節を逃さないように、その軽やかさであたしをまた誘ってほしい。




四月の風
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170402


- 66 -

*前次#


ページ:



ALICE+