この瞬間、きっと夢じゃない


窓から手を出すと冷たい風が指の間をすり抜けてった。

太陽はとっくに落ちて今日の残り火がかすかに空を明るくしている。

それももう時間の問題だろう。





「ケーキ食べる?手塚」

「……。」

「なーに難しい顔してんの?寒いから窓閉めていい?」

「……サンタが、」

「は?」

「サンタクロースが来ないかなと思って……。」





雪の予報は今年も外れて、それどころか例年よりもずっと暖かいクリスマスだ。

白いケーキに白いセーター。

ふわふわの、うさぎみたいな君の髪飾り。

撫でると何とも言えない感触が指先をくすぐる。





「……良い子の手塚国光くんは何が欲しかったの?」

「なんだろう、……うーん。」

「そんなんだからサンタさん来ないのよ」

「……なら世田谷は、」

「”良い子の世田谷啓ちゃん”」

「……。」

「”良い子の世田谷啓ちゃん”でしょ。ちゃんと言ってよ」

「……。”良い子の世田谷啓ちゃん”は何か欲しい物があるのか?」





遙か北の彼方

厳寒の国からトナカイに乗ってやってくるという

赤い衣装を纏ったその人は、君に何を齎すのか。

願うカタチは人それぞれで、物だけに留まらず概念だったり、感情だったり、いろいろだけど。

君の欲しいもの





「いま」

「……、」

「この瞬間」





窓とカーテンをさっと閉めると、部屋の中はキャンドルの灯りに照らされた。

白いセーターの腕が僕の左腕に巻きついて、ぎゅっと顔を埋める。

髪飾りは微動だにせず。

息をする音だけが聴こえていた。

君の欲しいもの

もし叶えられるのならば、僕が、それを、





「―――メリークリスマース!手塚」

「……メリークリスマス。キリスト教徒じゃないけどな。」

「神様は懐深いから許してくれるよ」

「……そうだな。」

「許してくれたから、ここでこんなこと出来てんだよ」

「……神の思し召し?」

「そう」

「いやぁ……?これは俺の意思だと思うけど。」

「手塚も逢いたかったの?」

「……逢いたかったよ。世田谷に。」



君に手渡すことが出来ないだろうか。

僕の欲しかったもの

サンタがスルーして、昨日の夜に枕元へ置けなかったもの

今、この瞬間。

世界が夜に包まれても、朝が来るのが絶えないように。

佇む僕の横に、寄り添う君がいる。

微笑む僕に微笑み返す君がいる。





「ずっと逢いたかったよ。」




待つ君のもとへ、帰る僕がいる。




この瞬間、きっと夢じゃない
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
161225


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