虹を見たかい?
思ってもない人に思ってもない所で会うのってどうしてこんなにも心臓に悪いのか。
「……こんちは。」
「―――わああ!!!会長!?」
危うく持ってたホースそっちに向けて水浸しにするところだったよ!!マジで!!
なんか恰好も適当だし髪の毛も風に吹かれ放題でグッシャグシャだし、完全にスイッチオフだったよ!!
「びっくりした……帰り?今?部活?」
「そう。」
「しんどいから駅まで乗ればいいのに……」
「なんか、夏バテ。……かもしれない。」
「だいじょうぶ…?」
毎日毎日アホみたいに暑いからね。毎年毎年言ってるけどね。
テレビで中継してる高校野球の人たちがマジで気の毒なレベルだからね。
昨今の夏はクーラーの効いた部屋でアイスかすいかでも食べて過ごすのが一番だよ。
「……大丈夫じゃない。」
「えっ」
「のは世田谷の方だったろう?」
「……あハイ、まだ言うか。反省してます」
わたくし前科持ちでして。宮崎で炎天下ノー帽子ノー水分やっちゃって、ぶっ倒れたのはここのコイツです。
だから今は庭の水まきもちゃんと日が傾いてから防止かぶってやってるし!終わったらお茶めっちゃ飲んでる。
同じ轍は踏みませんのよ。
「で、これが世田谷の夏のアルバイト?」
「そーです」
「ふーん。……俺もやっていいか?」
「やんの?」
「水遊びやりたい。」
「誰が遊びだ、こっちは小遣いかかってんだよ!」
そう言い合いながら、会長の表情がやっと緩む。
受け取ったホースを一度捌いて、びゃっと左から右へ勢いよく水を撒いた。
暑いうちにやっちゃいけないんだよ、熱でお湯になっちゃうから。
「マリィの花は元気がいいなあ。」
「そう?」
「学校のとか道端のとか、ぐったりしてるように見えないか?」
「だって人間がこんだけ暑いんだもん……」
草花はあたしの采配なんか気にも留めない様子でぐんぐん背丈を増していく。
雨は降らな過ぎても、降り過ぎてもいけない。生きていけないから。
「……あっ会長なんか飲む!?会長もカラッカラ!?」
「いや、俺は水があるから……なんだったらこれを。」
「アホか!ちょっと待ってて水飲まないから夏バテすんだ
よ〜もー」
走り出した足元に
振り返った君の手元に
額から散った汗にまでも
七色のひかりの粒が生まれて
「わあ!」
「どうした?」
普段を見られないものが突然見えた時、どうしてこんなに心って震えるんだろう。
「虹ー!!!」
指さして笑うあたしに呼応するように、会長も破顔した。
虹の方なんてちっとも見てないのに?
「虹が出てる!すごい!!見て見て会長!!」
なんでそんな嬉しそうに笑うの?
あたし見てなんでそんなに嬉しそうに笑うの?
「元気出た?」
「うん。」
グラスのアイスコーヒーを味わうようにゆっくり飲み干していく。
日は落ちて、草叢に微かに虫の音が聴こえ始める。
屋根の隙間に月が明るく上っている。
「やっぱり世田谷に会いに来てよかった。」
「……元気出た?」
「なんでもう一回聞くんだ。」
「念のため……?」
明日も晴れて暑いぞっていうふうに、明るく月が上っている。
雨は降り過ぎても降らな過ぎてもいけない。生きていけないから。
あたしもあなたに会わないと、生きていけやしないから。
虹を見たかい?
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
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