八月の朝


……ああそうだ。

今日からあなたはいないのだった。

目覚ましがてら開けたカーテンから、腹が立つほど突き刺さる朝の光。





「―――んん……っ」





思いっきり伸びをして、でも心まではシャキッとしなくて。

昨日までが楽しいと途端に今日が不安になる。

ふたりで居ることのよろこびを。

孤独という名の淋しさを。





「今日は……どこだっけ……?」





紛らわすようにケータイを手に取る。

紛らわすようにテレビを見たり、新聞を読んだり。

パンが焼けたよ。牛乳を飲もう。

それともコーヒーの方がいい?

花を飾ってくれよ。





「どこに……」





いつもの部屋に。





「……」





今日からあなたはいないのだった。

目が覚めてもひとり。

ご飯を食べる時もひとり。

いってきますもただいまも空しく響くだけ。

いってらっしゃいもおかえりなさいもない。

そこここに、今だ体温だけは残っている気はするのに。





「……世田谷……?」





今日からあなたはいないのだった。

燦々と降り注ぐ夏の光が、誰もいない部屋を次第に明るく照らしていく。

俺は溜め息を吐いて。

着替えて。

鍵をかけて。

出掛けた。





「いってきます。」





律儀にマボロシの世田谷に声をかけて。

帰ったら、花を飾ろう。

それをあなたに写真で送ろう。

あなたはどんな顔をするだろうか。

驚いて、あの部屋に飛んできたりしてくれないものだろうか。




八月の朝
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170813


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