花火
調子に乗って夜遅くまで連れ回したりとか
シースルーの袖に透けた腕のシルエットとか
あ。
あ。
いかん。
「手塚?」
君は無邪気に訊いて来るから余計に
いかん。
自制心。
だってまだ俺なんにもやってない。
テニスも人生も走り始めたばっかりで、
「世田谷、……そろそろ帰ろうか……。」
「えー……うん」
「顔が思いっきり不満そうなんだが。」
「そんなこと……あっ花火!そうだ手塚花火してから帰ろう!」
君にまだ何もできることが何もないよ。
君をまだ受け入れるものが何もない。
ふたりでやるには少し多すぎるほどの手持ち花火。
ぽつりぽつりと等間隔に街灯だけが並ぶ道を行く。
いつのまにか虫の音が、秋の到来を告げている。
「……世田谷、」
「うん?」
「……スカートもが燃えそう。」
「燃えないよ!だいじょうぶ!振り回したりしないから!」
「鼠花火とかはないのか。」
「そんな物騒なヤツやったことない」
「そうか。……世田谷にはそっちの、普通のが似合うな。」
「フツーでごめんね」
バチバチと細い線が、夜の闇に溶けていく。
デカい打ち上げ花火も綺麗だけど、このくらいの方のがやはり世田谷には似合ってる。
微かな炎で照らされる、顎から首、肩、腕のライン。
……あ。
いかん。
「手塚ももっとやりなよ?」
「世田谷が楽しいなら俺は……、」
「手塚が楽しいとあたしも楽しいから、ねっ?」
渡独してからこっち、ずっと世田谷を悲しませているような気がして、
負けが込んでいるような気がして、
ひとりになると好きでいてもらっていることさえ申し訳ないような気がして
「……世田谷、」
「うん」
「来年もしような、花火。」
「うん。……」
「……なんだ?」
「聞かなきゃ答えてくんない?」
「……楽しいよ。俺も。」
「よかったー」
「だって世田谷といる時が一番楽しいから。俺も。」
「……よかった」
まだ何にも持ってないんだ。
まだ何にも出来やしない。
だからそれまで傍に居て。
感じた衝動を、劣等感で押し殺さずに済むようになるまで。
「あーほっとしたらおなか減ってきた!!」
「まだ食うのか!?」
「……もうちょっとだけ一緒に居て?」
こちらこそ。
まだまだ飽きずに、傍に居て。
花火
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
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