未来の記憶


水滴を吹き飛ばすように、アクセルを踏み込んだ。

がくんとスピードが上がる。

いやなことも、いいことも。

全部、流れていけばいい。





「……あたしは」





夏の終わりの職員室で。

握りしめた拳の力強さを今も覚えている。

普通に暮らしているだけで。あたしがいるだけで。

大袈裟に言えば生きてるだけで。

君の輝かしい未来の邪魔になるんだって。

まだ人類史上誰も見たことのない、未来の。





「あたしは手塚のこと、諦めたくないです」

「……。」





すぐ横で、息を飲む音が聞こえたの、覚えてる。

目の前で、ジャージの竜崎先生が目を見開いたのも覚えてる。

もうずっと、それから。

もうずっと、何度も何度も言われ続けてきた。





「あたしは手塚の、邪魔になるんだって……」





改めて自分で口に出したら涙が自然と溢れた。

こんなに、想ってるのに。こんなに好きなのに駄目なんだって。

それが君の邪魔になるんだって。

嘘でしょ?





「ごめん、邪魔してばっかごめんね、てづか……」





いやなこともいいことも、全部流れゆけ。

涙も笑いも吹っ飛んでゆけ。





「ただーいまー」

「おかえり。世田谷。」

「雨酷くなってきたよ。やっぱ夜に来るのかな、台風」

「天気予報では明日の0時過ぎとか言ってたぞ。」





毎日吹っ飛んで行け。





「―――なら、お互い邪魔にならないように、俺はずっと世田谷の隣に居ます。」





いいことも、いやなことも。

笑ったことも泣いたことも怒ったこともムカついたことも。

全部大事にして。

全部覚えてたい。





「雷が怖かったら抱きついてもいいぞ。世田谷。」

「その前に停電したら嫌だからごはん食べよ」





今までも

これからも

まだ誰も見たことのない、未来も。

君の隣で全部過ごしていきたい。



未来の記憶
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
171029


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