She is


「……竜崎先生が、世田谷を俺から引き離したかった理由がわかる。」





夕陽に照らされた駅のホームで手塚は突然そんなことを僕に話し始めた。

僕にとってはそんなの、幾ら聞いたって惚気でしかないんだけど。

……そう言っても良かったけど黙ってしばらく聞くことにした。





「啓といると流石の手塚もテニスが手につかないの?」

「いや……テニスも日常生活も、別段いつも通りに送れているとは思うんだが。」

「……だが?」

「しかし、」

「しかし?」

「なんていうか、その、」

「回りくどいっ!!」





バッグではたくと気を抜いていた体がよろめく。

一瞬横に倒れかけて、慌ててバランスを取る。





「―――っ危ないだろう!!線路に落とす気か!?」

「体幹強いから大丈夫だよ。で?結局なんなの」

「……、ああ、……世田谷といるとなにもかもが楽しいんだ。」

「……じゃあ僕こっちだから。バイバイ」

「ちょっ、待て!!不二!!!」

「手塚が惚気るのなんて珍しいから黙って聴いてたけど、本当に惚気だからムカついちゃって」

「笑いながらそういうことを言うな怖い……。」

「で、手塚は?そんな啓のこと手離しちゃうの?」

「……、」





通過の列車が目の前を、猛スピードで走り抜けていった。

僕が黙って聞いていたのは、キミがいよいよドイツ行きを決めたって知ったからだ。

いろんな人が手塚国光との間にいろんなけじめをつけなきゃいけない。

僕もそうだし啓だってそうだ。

キミはキミの日常を楽しくしてくれる、啓のことをどう決着付けるつもりなんだろう?って。





「啓は言っとくけどいい子だよ」

「……知っている。」

「キミの言うことを聞くいい子だよ」

「知っている、だから困っている。」





5時を回ってホームの人足が増えてきた。

何か秘密の話をするように、端へ端へと寄っていく。





「俺は世田谷を手離したくない。でもそれが、世田谷を悲しませたり苦しませることになるのは絶対に嫌だ。」





いつも自分に楽しいをくれる人に。

悲しみや、苦しみを与えるわけにはいかない。





「……先生が啓を危険視する理由がわかるよ、僕にも」

「……だろう。」

「啓にそのまま伝えてみたら?」

「世田谷は……、」

「啓ならきっと、答えを一緒に探してくれるんじゃないかな」





正解を明示するんじゃなくて。

一緒に考えてくれると思うよ。

僕の知ってる幼馴染は昔から、そういう子だったから。

僕は好きじゃないけどね。意地悪だから。

やさしくされるといじめたくなっちゃうから、好きじゃないけどね。





「もう、惚気なら他でやってよ手塚」

「すまない……。」

「幼馴染だからってなんでも知ってるわけじゃないんだからね」

「そうだな。だよな。」

「って、こないだ啓にも言ったとこだよホント。同じ部活だからってなんでも手塚のこと知ってると思ったら大間違いだよ」

「は!?世田谷も?お前に?」

「本当、キミたち2人って良く似てるよね。面白いくらい」





だから僕はキミたちの行く先をずっと眺めていたいんだ。

このままでも、別れても、きっと面白いことになるよ。

僕が言うんだから間違いないよ。

キミたちはきっと、ずっと、面白いことになる。



She is
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
171105


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