Winner


夜の帳はすっかり下りているのに、コートにはまだ明々とライトが点いていた。

他の者にはこれから長いんだから休めと言ったくせに、自分はまだラケットを握っている。

山の中の冷たい空気が、吐く息をうっすら白くさせる。

迷いながら、もがきながら、それでもやっぱりテニスを諦めきれずにいた。

いつも。

好きではないなんて口にしながら。

#世田谷#にあんな顔をさせておいて。





「跡部、お前はテニスのこと好きか?」

「はあ?……なんだ急に、キモッ」

「選抜合宿に誘われて言われるがままここへ来たが、正直俺は好きか嫌いかなんてはっきりとは言えない。」





それでも選抜に選ばれたいと思っている。

それでもドイツへ行こうとしている。

それでもテニスをやめないで続けている。

傍から見れば俺は十分テニス大好きな人間に見えるに違いない。





「なんでも勝負ってのは勝ったら気持ちがいいもんだ」

「……。」

「違うか?じゃんけんでさえ勝ちゃ気持ちいいだろ?」

「確かに。」

「俺はそれがたまたまテニスだったってだけだ」

「……」

「そこにどーしてもぶちのめしたい手塚国光って奴がいただけだ」

「勝ったじゃないかこの間。」

「うるせえ、1回勝っただけで満足できるかバーカ」





ぽんとボールを放り投げてくる。

俺はそれを無意識に打ち返す。

満ち足りない。飽き足らない。

もっと欲しがり、もっと希う。

求めているのはテニス自身ではなく。

テニスを経て手にする勝利の快感―――

ジャージがしっとりと濡れているのは、夜露が降りているからだ。

#世田谷3がテニスをする俺は楽しそうだと言ったのは、俺も勝利の味を知ってしまっているせいだ。

では、俺は。





「大体負けたくねぇ奴がこんな時間にコートに来るかよ」

「……それもそうだな。」

「勝ちてーだろ、手塚。やるからには勝ちてえ。俺は」





跡部の拳が虚空にある光を掴み取った。

ここへ来たことも、ドイツに行きたいことも、テニスをすることも、全部肯定された。

全部間違いじゃなかった。





「テメーにだって何回でも勝ちてえ」

「俺だってお前に負けるのは嫌だな。」

「そんな奴らが集まってんじゃねーのかここは」

「……少なくともテニスが好きなだけでテニスをしている奴等ではないな……。」





全部終わったら#世田谷#に話そう。

きっと俺はお前を泣かせてしまうだろう。

真実に、辿りついてしまったから。

テニスのその先にある、勝利を掴みとりたいと知ってしまったから。




Winner
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
171203


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