おやすみ
「……眠い、手塚……眠い……」
「もうすぐ家だから。」
ちょっとやそっとで酔うなんて思ってはいない。
きっとそれは普段の疲れがいっぺんに出た証拠だ。
引きずるように階段を昇り、慣れた手つきで鍵を開ける。
雪崩れ込むように玄関に入り、ひとまず鍵を閉めた。
「靴、脱いで。世田谷。」
「ん……」
「風呂は?」
「入りたいけど眠い……」
「入れて来るから中に入れ。」
必要最低限の電気だけつける。世田谷は玄関に座ってごそごそブーツを脱いでいる。
人気のない部屋の中はどこも全部寒い。
暗がりの中エアコンのリモコンを探し当て、遅れて部屋に入ってきた彼女にフリースを渡す。
「誰の部屋だ。」
「……手塚の部屋?」
「ふらついてる。座って。」
素直に絨毯に腰を下ろすと、大きくて重いため息を吐いた。
やや暗かった照明が、やっと本来の明るさに近づいてきた。
「……服は?」
「お風呂入るからこのまんまでいいや」
「なんか飲むか?」
「……誰の家だよ」
「……お前の家だよ。」
別に。
別に下心とかではなく。
フリースを着ても寒そうだったので。世田谷が。
だから。
「あー……ぎゅってされると寝る……」
「……。」
「寝たいてづか……」
「俺も寝たい。」
「うん……」
疲れた日は帰ったら駄目なのか。
どうしてもその仕事は今日やらなければならないのか。
それをこなしてまで酒の席に付き合わなければならないのか。
帰って飯を食って風呂に入って早めに寝たらいいじゃないか。
どうせ明日も仕事なんだから。
しがみついたまま、ごろっと横になった。
もう世田谷は完全に寝るモードに入っていた。
「……お疲れ様。」
ほんのり髪から余所の香りがした。
このまま眠れたらサイコーなんだけどな。
「世田谷、風呂。」
「……んー……」
「一緒に入ってやろうか?」
「……え?」
「髪洗ってやるぞ。」
「……いや、……えー?……う〜ん……」
しばらく世田谷は腕の中で考え込んでいた。
風呂も入ってやるし一緒に寝てもやるぞ。
お疲れの君が望むのなら。
おやすみ
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
1712024
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