春眠
助手席の窓を開けると
春の風
「うわっ、すごっ」
君の髪が風に踊って
香りが舞い上がる
「眠いんなら寝てもいいよー手塚」
「……絶対に嫌だ。」
「そうすか……」
「折角帰って来てるのに……。」
貴重な時間を睡眠に費やすわけにはいかない。
信号待ちの横顔はくすくすと声をあげて笑う。
大人っぽくなった、と思う。ハンドルを握っているせいだけではなく。
「手塚昔っからあたしといると矢鱈寝るよねぇ」
「それは……。」
「うんうん、知らない頃はさ、あたし嫌われてんのかってマジ思ってたよ」
「……。」
「……でも結構初期から……好きって言う前から寝てなかった?」
「だからそれは、」
「手塚はいつからあたしのこと好きになったの?んで安心して寝てたの?」
世田谷の傍は心地がいい
寄せては返す波のように
青空を流れる雲のように
春の午後の窓辺のように
不思議と心地がいい
だから
「……わからん……けど……おぼえてない……。」
信号が青に変わって世田谷がアクセルを踏み込む。
軽いエンジン音と共にゆっくり景色が動き出す。
梅は咲いたか、桜はまだか。
穏やかな晩冬の道を、速度を上げて駆け抜けていく。
「けど、」
「けど?」
「……ずっとここにいたい。」
「ずっと?」
「うん。」
「ほんとに?」
「今は離れてるけど。」
「ずっとあたしの横で寝てくれるの?マジで?」
世田谷の傍は心地がいい。
助手席でも、教室でも、何処でも変わらず心地がいい。
だから本当に、君の傍らで眠ったならば。
「……俺死ぬかもしれない。」
「失礼な!安全運転でいきまっせ!!!」
「あ、そういう意味ではなくて。」
あまりにもしあわせすぎて。
「ずっと起きられないかもしれないなぁ。」
「春眠暁を覚えずってヤツ?」
「三千世界の烏を殺し……。」
その続き、世田谷には聞こえただろうか。
吹き込んでくる風が上気した君の香りを舞い上げて、僕を甘く擽った。
春眠
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
180218
- 46 -
*前次#
ページ:
ALICE+