春が来た
……今日はあったかいからコートいいか。
「いってきます」
明らかに、伸びた、髪の毛を。
少し肌寒い春の風に靡かせて。
「おはよう」
「おはよう。」
いつもの席に、いつもの時間。
いつもの顔で、いつも君がいた。
ここに。
「世田谷、髪、」
「ん?」
「……肩についてないか?」
「いや〜?……ギリセーフ?」
「結ばなきゃいけない奴じゃないか?」
「もうちょっとだけ!今寒いからもうちょっとだけ!!ねっ」
「だいぶ暖かくなったぞ。」
手塚がすっと窓を開ける。
カーテンが舞い上がって風が吹き込む。
まるで会長みたいだ。
すっとあたしの中に吹き込んできたんだ。
今みたいに。
突然なのに何の疑いもなく。
「……髪が伸びたらまた三つ編みにする?」
「そんなに伸ばさないよー、あれめんどいもん」
「……。」
何か言いたげな様子で手塚は外に目をやった。
窓を開けていても降り注ぐ太陽のお蔭で寒くはなかった。
グラウンドには誰もいない。
がらんとしている。
手塚は口を開かない。
あたしはもうそれに慣れている。
いつの間にか慣れてしまっている。
「……髪の長い世田谷も見てみたい。」
「そっか」
「高校の制服も見てみたい。」
「写真送れって?」
「……。」
「てづか」
なにをどうしてどうやっても、君と離れる寂しさには変わりはない。
「……なんだ。」
「なんでもない」
「……。」
「……」
「なんだ、って聞けるうちに、いっぱい聞いとけよ。」
「……うん」
春が来たよ。
空の色に
風の匂いに
君の髪にも
あたしの首筋にも
春が来たよ。
君と離れる寂しさには変わりはない。
「てづかー」
「なんだ。」
「おなかへったー」
「……お前の場合大体それだよな、世田谷。」
変わる物なんてなにもない。
春が来た
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
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