帰り道
ああしまったな。
最終乗り過ごしてしまった。
今から世田谷の部屋に戻るのもなんだし、このまま歩いて帰ろうか。
「……。」
遠ざかる部屋の灯りを、なんとなく、後ろ歩きでじっと眺めていた。
職質されるぞ、いい加減にしろ。
人通りも車通りもまばらな深夜の幹線道路。
俺が帰って今頃君は、ひとりゆっくり風呂でも入って、その灯りを消すのだろう。
今日という日を終わらせるのだろう。
ガラス越しに夏の虫の音など聴きながら。
「おやすみ。」
ついさっき本人に伝えた言葉をもう一度小さく呟いた。
今ケータイを取り出してしまったら間違いなく掛けてしまうからやめておいた。
暑くも涼しくもない梅雨入り前の夜の道。
名残惜しさに、後ろ髪を引かれる思い。
「俺も寝ないと……。」
前を向いて、次第にスピードを上げていく靴音。
なにも為にならない話を延々するのは昔からだ。
向かい合って、どんなことがあったのか、何を食べたのか、面白かったことムカついたこと。
バラバラのカレンダーをひとつにしていくように。
「走って30分、という所かな。今なら。」
おやすみ世田谷。
また次に会う時まで。
君の部屋の灯りが俺の心の灯りになる。
君に逢えることが俺の、次の目標になる。
今日のことを反芻するには、きっと丁度いい距離になる。
帰り道
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
180527
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