呪術高等専門学校。
東京と京都に1校ずつ存在する四年制の呪術教育機関。表向きは私立の宗教系学校とされているみたいだが、多くの呪術師が卒業後もここを活動拠点としており、教育のみならず任務の斡旋やサポートも行っている呪術界の要だそう。
まさしく今、その敷地内を歩きながら夜蛾さんから説明を受ける。一応、父の母校ということもあり名前とどういう学校かくらいは知っていた。しかし私は、呪術師になるつもりなど毛頭なかった。そもそもその世界のことはあまりよく知らない。そういう職業がある、ただそれだけで。自分にも呪力があり、術式が使える、それを使って暗躍するのを生業としている人がいる、私にとっての呪術師とはそのくらいの認識であった。
まあそんな私が、この学校に来ることになったわけなんだが。
義務教育である中学校を卒業後、私は正式に皇家の当主となり、高校へは進学せず、これまで以上に家のことに集中していこうと思った矢先のことだ。進学しないということを聞きつけた父と大喧嘩。その日、たまたま父が対応中だった来客こそが父の高専時代の同級生であり友人で、私のことも古くから知っている夜蛾さんだった。目の前で突如繰り広げられた親子喧嘩に、特に戸惑う様子を見せることなくたった一言。高専へ来ないか?そう告げた。昔からの知人ということもあり、私の特異体質や術式を皇家の人間以外でよく知っているのは夜蛾さんくらいのもので、兼ねてより呪術界隈へのスカウトを検討していたという。家を訪れた理由もその目的だそうで、絶好のチャンスと言わんばかりに高専入学のメリットを熱弁された。信頼していた夜蛾さんからの推薦ということもあって、急遽高専への入学が決まった。
普通の高校への進学を望んでた父は多少渋りながらも入学を許可。私はというと、普通の高校と違い、通学しながら自分の腕を磨け、任務をこなせば給料を貰える、そして、階級が上がればそれだけ強い化け物(基、呪霊)と戦える点が魅力に感じ、入学を了承した。───そして今に至る。
「ここまでで何か質問はあるか?」
あぁ、そういえば今、説明を受けていたなと我に返る。正直、あまり聞いてはいなかったが、気になっていた疑問を投げかけた。
「何故、私を高専へ推薦したのんですか?呪術界とはほぼ無縁の人間ですよね。」
視線を夜蛾さんへと向ける。顎を掻きながら、斜め上を見やる夜蛾さんは何と答えようか考えている様であった。
皇家は何も呪術界に精通している家柄というわけではない。簡単に言えば裏で悪事を働く者のお掃除係なわけで、その取引先は多岐に渡る。だから呪力を持った者もいれば、呪力を持たない者も数多く存在する。稀に呪詛師なるものの葬りの任務が入ることはあるが、それは呪力の持つ人間だけで遂行されるため、今まで任務に支障をきたしたことはなかった。この世界でも十分に生きていける。
「無縁、というわけではないだろう。お前は稀に見る紫眼と物質変換呪術の持ち主。人手が足らないこの世界においても喉から手が出るほど貴重な存在だ。だから俺は高専へ招いた。」
「なるほど。でももう貴重な存在なら既にいますよね?うん百年ぶりの逸材が。」
「…悟のことか。」
「入学した手前、今更あーだこーだ言うつもりはありませんが…五条悟とは必要以上に関わらせないでほしいのです。」
「…まぁ、そうなるよな。満瑠の生い立ちを知っている身としてそれは、吞まざるを得ない要求だが…」
矢張り恨んでいるか、悟を。
夜蛾さんに直接私の幼少期時代を話した覚えはないが、知っているっていうことは恐らく父親伝なのだろうと予測する。いや、もうそれしか考えられないのだが。
六眼を持って生まれた彼、紫眼を持って生まれた私。この関係性には両者がお互いを認識する以前に周りからの認識の方が早く、私は対五条悟戦闘要員として、家中以外の者から囃し立てられた。それはそれは色々なことがわずか数年で起こり、この特異体質はここ数年まで皇家の極秘情報として守られていたほどである。だからといって彼を恨んでいるかというと、それは違う。それがあったから強くなれた自分も確かにいた。むしろ感謝しているぐらいだ。つまりは…
「恨んではいません。ですが、彼が強いのは承知の上で本能に抗えず殺してしまいそうです。」
私はそれを危惧しているんですよ、夜蛾さん。これは忠告です。
不敵に笑う満瑠を目の当たりにして夜蛾はため息をつきながら天を仰ぐ。
「それは困る。お前ならやりかねん。」
「…ということで、今日から1年に新しく新入生が来るが、変にちょっかいは出すなよ。悟!!お前は特に!!」
満瑠の忠告通り、夜蛾は2年に警告した。五条は、は?と疑問府を浮かべ、隣に座っている男に肩を竦めるが、その男も意味が分からず、苦笑しながら首を傾げた。
「つうか何で俺だけ強く言われんだよ。意味分かんねー」
「それだけ繊細な子なんだろ。五条は確かにいじめかねない。」
「はぁ?俺は七海達いじめてねぇだろ、梢子。まぁでも、そんなセンサイ?なやつ別に興味すらわかねぇけどな。なんか弱そうだし」
「だけど、特別な家の子なんだろう?何だっけ…確か皇家?の当主…とかなんとか」
皇家、その言葉に五条がぴくっと反応する。それを、梢子と呼ばれた女と髪を結っている男は見逃さなかった。
「何。新入生ってあの皇家の当主かよ。ハハッ…前言撤回。面白くなってきたじゃねーか」
先の態度と打って変わりにっこりと笑みを浮かべる五条に今度は2人が顔を見合わせて首を傾げた。
「なになに、悟。その子のこと知っているのかい?」
「皇家は、まぁ簡単に言うと戦闘一家。一族皆戦闘好きな変わり者。当主ってことはその中でも一番強い。特に今回の当主はここ数百年、一番その血を濃く受け継いだ戦闘狂と聞いている。」
「それって都市伝説じゃないのか?」
「いや?ちゃんと実在している。その家柄、表向きには出てこないから、そういう風に言われているけどな。」