とある渋谷の廃ビル。補助監督の運転する車に乗り込み、私たちは今そこに向かっていた。
「でも本当に大丈夫なんですか?あなた、今日初めて高専に来たんでしょう。初日からいきなり任務だなんて」
心配そうに健人が呟く。私は数時間前、彼らと初めて対面した。七海健人と灰原雄、この二人が私の同級生だ。健人はどちらかというと静かなタイプだが、雄は元気で明るいタイプで、見た感じの雰囲気と自己紹介の仕方もまるで対照的。これほどまでに対照的な同級生なんてそうそういないだろう。初対面ながら思わず声を出して笑ってしまった。私は皇満瑠、どうぞよろしく。そう言って彼らと握手を交わし、これから任務なんだろう?頑張って。そう言って彼らを見送ろうとした矢先のこと。その場に居合わせていた担任の先生から任務に同行するよう指示が出た。今回の任務、どうやらメインは私だったらしい。既に任務をいくつかこなしていた彼らと違い、私は高専へきての初の任務だ。本当に呪術師としてやっていけるのか、適正と実地を兼ね合わせた試験だという。
「戦いには慣れている。等級もそう高くないみたいだし、初めての任務としては打ってつけなんじゃないか?折角なんだ、精一杯楽しむよ。」
楽しむ?健人は怪訝な顔をした。
「任務を楽しむって皇さん変わってるね!皇家の当主って聞いていたから、怖い人がきたらどうしようかと思っていたんだけど、僕皇さんとなら仲良くなれそうだよ!」
「数少ない同級生だ、仲良くいこう。あと、私のことは満瑠でいい。」
うん!よろしくね、満瑠!にこっと花が咲いたように笑う雄につられてこちらも笑顔になる。雄はなんというか本当に素直って感じで可愛い。
「着きました。こちらが報告にあった現場です。呪霊の等級は低いですが、もし何かあったら連絡してください。」
補助監督と別れ、どんよりした雰囲気の廃ビルの中に入る。
「満瑠、呪霊を祓ったことは?」
「数回。そもそも家業のついでで祓ったことがあるくらいで、それ目的は今回が初めてだ。」
「そうか。あまり無茶するなよ。」
「分かってる。健人は本当に心配性だな。」
フッと笑うと健人が視線を外して頬を掻いた。安蛍光灯の点滅した光が心許ない階段を上る。しかし、呪霊というやつは薄気味悪い場所を好むのかねー無意識に祓っていた現場を思い返すと、そこは墓地だったり路地裏だったりで、日の全く差さないような場所だった。
「ざ…ざんぎょ…あて、つき…つき」
「おっと、お出ましか。」
言葉として認識しづらい音を発する化け物に遭遇。動きの鈍そうなそれに恐らく報告にあった呪霊だろうと、拳に呪力を纏わせ、ぶん殴る。
「まだ来るぞ、満瑠」
「オーケイ」
健人に言われる間もなく、気配を察知していた私は続いて登場してきた三体をなんなくぶん殴って祓った。
「難なく終わったな。」
「まぁ、こんなもんだろう。報告にあった呪霊は全部祓えたか?」
「あぁ。補助監督と合流しよう。」
「満瑠呪術師のセンスあるよ!帰ったら歓迎会しないとだな!」
にかっと笑った、雄の背後に、今祓った呪霊と桁違いの呪力を持った化け物が姿を現す。
「灰原!後ろ!」
「えっ───」
刹那、満瑠が地面を蹴って、先程殴った拳よりも重い打撃をその呪霊にぶつける。数mあった距離をたった一蹴りで間合いを縮め、一瞬でその呪霊を消失させた。
「凄いな…その呪霊、多分1級だぞ」
「1級?こいつが?張り合いないな。もっと強いと思っていた。」
本当に1級?不思議そうにする満瑠に2人は唖然とした。これが皇家当主の実力なんだと、見かけによらないそのあまりの戦闘力の高さにその事実を実感する。”化物”その二文字がぴったりだった。