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 どこか驚いている目をした鳥の首の毛を撫でながらぽつりと呟く。

「幸せを運ぶ青い鳥はいるけれど、炎を纏った鳥なんていないもの」

 さすがに「顔がそっくりだもの」とは言わなかった。
 実際炎を纏っているか否かでマルコさんかどうかで判断材料にしたし嘘ではない。この世界に炎を纏った動物なんて一匹もいやしないのだから。
 トリトリの実──── その能力は再生だけに留まるかと思えばよもや鳥にも変身できるだなんて! でもたしかに、“トリトリ”だの動物ゾオン系だのと謳っておきながら、いざ蓋を開ければ回復能力だけだなんて、たしかに食した本人や周りはちょびっと拍子抜けしてしまうかもしれない……なんて、鳥の姿になれる理由に納得しながら、気持ちよさそうにしているマルコさんを見つめながら思った。

 かわいいなあ、と撫でているとふと疑問が浮かぶ。前に一度私が怪我した時は惜しみなくその能力を晒していたが、それ以降は使うことはなかった。使う場面が無かったからと言われればそうなのだが、能力の片鱗すらも彼はおくびにも出さなかったのである。

「ねえマルコさん、どうして急にその姿に?」

 しかもこんな朝から。
 そう尋ねると気落ちしたように鳥は……いや、マルコさんの首が力なくガクリと落ちる。まるで「なりたくてなってるわけじゃない」と聞こえてきそうなほどの気落ち具合に、頭に浮かんだ疑問を投げかける。

「……トリトリの実って、何ヶ月、何年に一度鳥の姿にならないといけない誓約があるとか?」

 そう尋ねるとゆるゆると首を振る。答えは否、と。なれば。

「今日はその姿になりたかった、とか?」

 続けて尋ねてもまたゆるゆると首を振る。
 鳥の姿にならなきゃいけないような決まりもなく、別にその姿になりたかったわけでもない。すると不可抗力なのだろうか。能力の暴走……?

 たしか以前、悪魔の実はその力が絶大ゆえ、食した者は支配コントロールすることから始めると聞いた。能力に使われるのではなく、能力を使いこなすことでようやく自分のものにできるのだと。

 そう話していた当のマルコさんがコントロールできていない、とはとても考え辛いのだけれど。あれだけの知名度と実力を持つらしい海賊団の、一番隊隊長という役職を持つようなマルコさんが。

「……勝手に、その姿になった?」

 だから恐る恐る、まさかね、なんて気持ちを抱きながらそう尋ねると、頷きはしなかったものの、首が更に伸びて、このままじゃ床にくっつくくらいの伸び具合を見せながら、酷く小さな声で鳴いたのだった。

 な、なんでそうなっちゃったの……!



 とにかく原因を解明すべく、矢継ぎ早に質問を投げまくった。

 雨か雷が原因か。──── 否。
 なれば昨日、海に行ったことが原因か。──── 少しの間を置いて、否。
 この世界に来る前は、きちんと能力をコントロールできていたのか。──── 是。
 私の世界に原因があると思うか。──── 今度は傾げたまま。おそらくわからない、という意だろう。
 以前もこういったことはあったか。──── 否。
 原因は、わかるか。──── 否。

 うん、これは。

「…………わっかんない……!」

 そもそも本人に原因がわからないとなると私にはどうすることもできない。二人(今は一匹)してうんうんと唸ってもやはりこうなった原因に心当たりなどなく。どうしたものかと二人同時に溜息を吐いた。

「とにかく、元の姿になってもらわなきゃ会話もままならない……」

 とは言うものの、戻れていたらとっくに人の姿になっているだろう。なにか戻す方法は、と考えあぐねている横でマルコさんが服の裾を控えめに引っ張った。

「マルコさん?」

 一度視線を窓の外に向けて、また私を見る。その動作を何度か繰り返すのを見るに窓の外になにかヒントがあるらしい。
 窓の外たって、あるのは雨と道路と家くらいだけど……。

「…………あ」

 能力者は、海に弱い。そしてその指す海とは塩水だけに限らず湖や水溜まり、とにかく水の溜まる場所であれば例外なく弱点となる。
 雨やシャワーと言った降り注ぐ流水は変化を及ぼさないらしいが、つまり雨以外の水の溜まった場所にマルコさんを放り投げれば能力が解けるということ。

 浴槽……はさすがにこの大きさじゃ入れないが、物置小屋の奥にひっそりしまったままのある物を思い出して立ち上がった。



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