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アーサーが育ったのは、アイルランドの田舎町だった。

閉鎖的で、町というよりは村というような、ただただ広大な牧草地ばかりの広がる、何も無い村。外界の社会から孤立したその僻地にあるちいさな村で、彼を育てていたのは、善良な老夫婦だった。親戚の子供を引き取った、としてアーサーを育ててくれていたけれど、彼らとの血の繋がりは何もなかった。アーサーは、両親に捨てられたのだ。
彼が魔法界へ来てから本当の両親の存在を知る事となったのだけど、彼の両親は魔法界では有名な上流階級の一族だった。一族で婚姻を繰り返し、血の繋がりを濃くして、決して純潔を失わないようにする、古代から続く名門。


一族の髪色は、皆、金髪だった。けれど、アーサーの瞳も、髪も、黒色だった。

アーサーの父親は、妻の不貞を疑った。
一族皆金髪の中に、突然黒髪の息子が生まれたのだ。自分の子供ではない、とまだ赤ん坊だったアーサーをマグル界の何も無い草原へと捨てた。野犬にでも食わせれば良いと思っての事だろう、とアーサーは自嘲するように笑った。そして、アーサーはその老夫婦に拾われ、息子として愛されて育てられた。アーサーも、老夫婦は自分の親ではないと直感していたけれど、それでも、彼らを愛し、尊敬していた。


だけど成長するに連れて、己の能力に気がついた。
アーサーが怒れば、窓が割れる。全てが壊れ、部屋の中はまるで嵐でも通り過ぎたかのようになる。老夫婦はそれでも、「それは神様がくれた特別なものだから」とアーサーを愛した。しかし、アーサーを怒らせれば、呪われる、と閉鎖的な町の人間はアーサーを、老夫婦を迫害した。老夫婦はアーサーという悪魔の子供を地獄の底から拾ってきたのだ、と老夫婦までをも怖れた。何度も悪魔祓いの礼拝に参加させられたが、悪魔ではなく魔法使いなのだ。効果などある筈もない。やがて、アーサーは外へと出なくなったが、何がきっかけだったか、何も無い田舎に、突然現れた不思議な力の子供…超能力者、といってしまうには余りに恐ろしい力の持ち主であり、その力を制御できないアーサーに、村人たちのヒステリーは最高潮に達した。


徒労を組んで、アーサーの家を襲撃した。アーサーが10歳の時の事だった。
そして、老夫婦はアーサーを庇って死んだ。アーサーは怒りに震え上がり、するとまたポルターガイストのように部屋中のものが意志を持つかのように暴れ周り、村人を攻撃し、村人たちは、悪魔の子供だ!と叫びながら逃げ出し、家には火をつけられたそしてアーサーは一人、傷だらけになりながらも、逃げ出した。

人からの施しをたよりにいくつもの村を渡り歩いた。
そして、もう死ぬだろう、と思った時、ダンブルドアが現れた。

アーサーは自分の出自の全てを知り、知った上でホグワーツへと入学した。全ての費用は、アーサーの父親が出した。
手切れ金として。だけど、同じ能力を持った子供達の中へ入っていっても、力のコントロールの仕方を覚えても、どれだけ優秀な成績を収めても、アーサーに居場所はなかった。あいつは、xx家の子供だ。捨て子だ。愛人の子だ。そうして指を指され、生きてきた。そうして、アーサーは学校を卒業し、魔法省へと入り、神秘部でひっそりと仕事をして、生きていた。


「僕は、マグルも、魔法族も、全てを憎んでいる。本当は君すら憎い。だけど、君は黒髪なんだ。僕と同じ、黒髪だったんだッ!」



アーサーは呟き、叫び、憎々しげにわたしの肩を壁に押さえつけた。
ギリギリと力を加えられて痛む肩にわたしが苦痛の声を上げると、アーサー途端に慈愛に満ちたやさしい顔になって、心の底からわたしを心配するように、今度はひどく丁寧にわたしの肩を撫でた。アーサーは、自分の意思ひとつで、感情を全てコントロールしているんだ、とわたしは思った。今までは、やさしい顔だと思っていたアーサーの笑みが、途端に薄気味悪く思えた。だけど、わたしはどうしてもアーサーを突き飛ばすことができなかった。束縛されているわけでも、魔法を掛けられているわけでもないのに、アーサーを突き飛ばせない。アーサーから逃げ出せない。

だってアーサーが、アーサーがわたしに、たすけて、って言ってる。だから、だから、だから…、だから、


アーサーが顔を歪めて笑った。
その唇が、そのうち耳まで裂けていくんじゃないか、と思うほど、歪で、不安定な笑みを口元に浮かべる。今にも泣き出しそうなのに、今にも笑い出しそうで、頼りなく弱弱しくて、だけどどこまでも明確な意思の元に力強くて、でも、哀しくて、さみしくて、どうしてだかわたしが泣き出したくなった。アーサーは、笑いたくないんだ。もう笑いたくない。だけど、笑うしかないんだ。ずっと、そうやって、一人で、たった一人で生きてきたんだ。



だから、




「でも、この世界を見つけた。ここには魔法族も、マグルも存在しない。もう誰も僕を迫害しない。もう誰も憎まなくて良い、もう誰も僕を知らない、もう誰も僕を指差すことない、全く別の世界、」
アーサーに腕を伸ばして、もうアーサーの笑顔を見なくても済むように、わたしはアーサーを奪うように、彼に強くしがみ付いた。


「この世界は、僕の、ニルヴァーナなんだ」










中尉とやってきた面子に、げっ、と思わず口元が歪む。
だが現れた鋼のも、アルフォンスもそんな私にお構いなしに、石化したハボックへと駆け寄り、「なんだ、なんでだッ!」と青ざめた顔で怒りを露にする。普段は飄々としているようで、それなりにハボックと仲の良かった二人が見るからにうろたえ、若者らしい怒りを露にするのを横目にみて、なんで彼らを連れてきたんだね、という意味をこめてむっとしながら二人を指させば、中尉が、はぁ、と溜息を漏らした。

「うっかり口を滑らせた者がいるようで、付いて来ると聞かなかったんです」
「…フュリーか?」

こくりと頷いた中尉に、私も溜息を漏らす。
フュリーめ、どうせ下手糞なポーカーフェイスでおろおろとしていたのだろう。そこへ私もいない、ハボックもいない、中尉も慌しく動いている、という軍の様子と、フュリーにカンの良い彼らが何かに気づくのも無理はない話なのかもしれん。そう考えた時、ぐいっと胸元をつかみ上げられる。見れば怒りにすっかり支配された鋼のが「誰だ!誰がやったんだ!」とすごろくで言うなら5つ、6つは前のポイントを喚く。だから、知られたくなかったのだ…。

「全く、騒騒しい子だな」
「…え、え、えが、絵が喋った…うごいた…」
いや、振り出しに戻る、か。
それまで岩に腰掛け、むっつりと黙り込んでいたミランドラに、鋼のが呆気に取られたように呟き、体中から力が抜けていく。その隙にぺしん、と手を振り払って、乱れが軍服を直す。その間にも、鋼のとアルフォンスは「ありえねぇ!!絵が、絵が動いて喋ってるぞ!どういう事だ!声帯はどうなってんだよ!脳は!?」「えええ!!なんで絵が動いてるんですか!!」とぴーぴーと喚き始める。大体、私からみれば平面か立体かの違いであるだけで、アルフォンスも似たような存在なのだが…。
中尉が頭が痛い、とばかりに額に手を当てている。


「もうここの説明は省いてもいいだろうかな?」
「ええ、お好きに。ちなみに、こちらの特に五月蝿いのは国家錬金術師です。弟も錬金術を心得ていますよ」

するとむすっとして、見るからに、五月蝿い子供が目障りだ、という“聖人”にあるまじき表情をしていたミランドラの表情がぱぁっと輝き、ようやく二人に興味を持ったようだった。しかしアルフォンスの姿を見て、こちらはまるで驚かないのは流石というかなんというか。もしかしたら、彼の言う“魔法界”とやらでは珍しくないのかもしれない。そういえば夢子も普段は見ないだろうこんな大きな鎧がいることに、別段驚いた様子はなかったしな。


「若いもんから名前を名乗るべきだろう」
「…エドワード・エルリック。国家錬金術師だ。二つ名は鋼。こっちはアル…」
「自分で名乗らんかい」
「す、すみません。僕は弟のアルフォンス・エルリックです」
まったく、偏屈な老人だ。むっと黙った鋼のの様子を気にすることもなく、またあの長々とした名前を名乗り出す。
はぁ、とアルフォンスは感心したような呆れたような微妙な声を出し、鋼のは「長いわ!」とずばっと突っ込む。誰も触れなかったことを…。だがミランドラは気にした様子もなく、品定めするように鋼のを上から下まで眺める。

「ふむ、素質はありそうだな」
「はぁ?」
「よし。時間も惜しい。エドワード、お前がマンドレイク回復薬を作れ」
「はぁぁ?」

アルフォンスは、残念ながら鎧のどの部分で音を拾っているのか理解できないため、留守番となった。





ミランドラは伊達に何世紀も生きていないため、アルフォンスの中身が空であり、魂だけだという事には気づいていたが、その彼がマンドレイクの悲鳴で死ぬかどうかまでは分からず、「無理無理無理!んなとこにアルを連れて行けるか!」との鋼のの一声で留守番となったのだ。本人はひどく残念そうだったが、私の大切な部下を守ってやってくれ、と言って頼むと、すぐに嬉しそうに、だが勇ましく返事をした。

中尉から二人分のプロテクターを受け取る。
私がついていくことに鋼のは不満げだったが、夜の絞首台に、それもマンドレイクなんてオカルトなものを探しにいくのだから、中尉が行くよりも、錬金術師である私の方が適任というものだ。中尉には、軍に戻ってもらい、例の事件を軍法会議所に引き継ぐのを遅らせるために動いてもらう必要がある。それからハボックの病状についての口止めだ。そして留守番組には夢子の捜索に行かせる必要もある。


ミランドラがざっくりと事のあらましを説明したが、流石のエルリック兄弟も「魔法」や「魔女」「魔法使い」「マンドレイク」「石化の呪い」なんていうオカルトでファンタジーな単語のオンパレードに、ぽかーんとしていたのが今思い出しても笑い出しそうだった。