後日談「ベッキーからの手紙」
親愛なる 夢子
そしてマスタング大佐とハボック少尉へ
あたしの夏休みは終わり、あたしはこの手紙をあたしの町、セントルイスシティで書いています。
空に伸びる煙突やオイルの臭いでいっぱいのセントルイスシティの町中にいると、フィディリスでの夏がとても恋しいです。結局火山は“すかしっぺ”みたいなもので終わって、ちょっと拍子抜け。夢子たちと一緒になって、灰だけの村で収穫祈願のお祭りで踊ったのはとても愉快だったわ。大人も子供もみんな灰だらけ。でもとっても幸せ。これもきっとみんなドラゴンのおかげ。ねぇ、ドラゴンって実は神様じゃないかしら?もしくは救いのヒーロー?そんなことを考えるあたしってちょっと変ね。
夢子とマスタング大佐とハボック少尉がセントラルへ帰ってしまってから、ボリス家はすっかり静かになって寂しいんじゃないかって考えたのならそれは大きな間違い。あの日生まれた子牛の世話でとっても忙しいのよ。トムは初めて自分が取り上げた命だから気になって仕方がないの。なんでも世話を焼こうとするの。あれで子供ができたらとんだ子煩悩だわ。きっととっても間抜けな顔で赤ん坊をあやすのよ。でもやっぱり蛙の子は蛙。牛の世話や稲の手入れをさせたらフィディリス2位の腕前よ。一位はやっぱりボリスおじさま。軍を辞めてせっかく訓練の日々が終わったのに、今度は立派な農夫になる訓練の日々よ。
でもあたし、ちっとも心配しやしないの。
きっと向いてるって分かってるんだもの。
今家の近くを車が大きな音を立てて、石畳の上を大騒ぎして通っていきました。うるさいこと!
この町も工場なんかなくなって、フィディリスみたいに緑でいっぱいの町になったら良いのに。でもやっぱり駄目。だって全部パパの工場なんだもの。でもパパに頼んだら、もっと子供達が遊べるような公園を作ってくれるんですって。失業者対策の公共事業にすると良いわ、とアイディアを出したのはあたし。あたしは結構な政治家になれると思わない?
あれからダグラス中佐は軍から表彰をされて、大佐に昇進したのよ。
もうマスタング大佐も命令できっこないわ、良い気味ね、と思ったんだけど、ダグラス中佐はそれを断ってすっかりただのおじいちゃんになっちゃったの。欲がない人なのね。でも本当はフィディリスを離れたくなかっただけ。だって大佐になったらよその町に飛ばされてしまうんだとか。やっぱり欲がない人ね。かと思えば村長の座を狙ってるっていう噂。あたしはもちろんダグラスさんに一票よ。
ダグラスさんの提案で、ドラゴンは村の守り主になったの。
あたしには決まった宗教はないんだけど、でもこれには賛成よ。だってあたし達はいつまでも忘れないし、忘れちゃいけないのよ。ドラゴンの忠誠を。…けど今の村長はだめね。頭の中は村おこしでいっぱいよ。今度は絵本を出版社に持ち込むんですって。ドラゴンが火山から村を救った話。懲りない人ね。でもあたしは好きだわ。
それよりこれは手紙みたいだけれど、手紙じゃないの。招待状よ。────あたし、結婚するの。相手はもちろんご存知の筈。
夢子、マスタング大佐、ハボック少尉、きっと来てくださるわね?
あたしが作ったバターで焼いた、とびっきりおいしいバターケーキを焼いて待っているわ。
追伸
マスタング大佐には意地悪をしたおわび。
トムが取り上げた子牛に「マスタング」と名前をつけました。
マスタングって野生の馬って意味だけど、ご利益あるみたい。難産がうそのようにとっても元気に育ってます。
きっとあなたのおかげ。ありがとう。
だからどうかきっと来てね。
来ないとパパに言いつけて左遷させてやるわ。
レベッカ・ボリスより 愛を込めて