私が12歳だった頃〈ゾルフ・J・キンブリーの場合〉※夢でもBLでもないです
小さな炭鉱町でした。
大人も子供も、常に炭鉱から出るリンやアルミニウム、二酸化マンガン、石綿を含んだ有害な粉塵に塗れ、皮膚の皺と皺の間、爪の間、肺の中に至るまでまっ黒に汚れていた。いくら水道が整備されていたとはいえ、岩盤の固い山間の中の事。水は高価で、貧しい炭鉱夫の家では毎日のシャワーの習慣などなく、町をうろつく男たちの垢に浮いた皮膚にこびり付いた粉塵は肌の奥まで犯し、やけに白い歯だけが光っていた。病院も公立の学校も一件しかなかったが、酒屋や教会の数はやけに多かった。葬式の多さのせいでしょう。町の男たちは長寿ではなかった。薄汚い町。空には常に薄く雲がかかり、銀色に光る空から鈍い太陽の光は、アルコール中毒者の見る光のように黄色く、鬱々としながら町に刺していた。
私の潔癖が癖になったのはその頃からでしょう。今でも汚れる事が何よりも嫌いです。
────酷く、惨めに見える。
父は聖職者でした。
私は町では裕福な家庭の息子でした。
少年だけを集めたミッションスクールに通い、ミルクに蜂蜜を入れて飲む味を知り、つぎはぎのないセーターを着て、常に上等のインクを持っている子供でした。全て他の子供たちの知らない事を全て知り尽くした嫌な子供。
ただ、母は美しかった。
そして美しい女にそうあるように、丈夫な身体ではなかった。気管を患っていたらしい。
風が吹けば粉塵を含んだ風が洗濯物を黒く汚した町の風が、気管支の弱い女に良い訳もなかったので、母の記憶はあまりなかった。ただ、暖炉の上や、玄関や、父の寝室に飾られていた母の写真は全て若い頃のものであり、美しい女のままだった。母は幸福そうな顔をして、赤ん坊の私を抱いて微笑んでいました。 父は、私とどう接すれば良いのか戸惑いながら、仕方がなく子供にするようにというよりも、一人の大人の男に接するように私と接していました。頭を撫でて育てるのではない。理…社会や国家や人間生活の理を持って接している臆病な男でした。だが私は彼が嫌いではなかった。むしろ好いていました。顔はあまり覚えていませんが、今でもなんとなしに、殺風景な家の食堂で父と向かい合ってオートミールを口に運んでいた頃の夢を見ます。
あれは、18××年、12歳の冬でした。
ミッションスクールの課外活動で、私と24人の少年たちは炭鉱の近くの森に来ていた。少年たちはそれぞれに木々の間を走り回ったり、サイコロで遊んだり、虫をいじめたり、植物学者からキノコの話を聞いていた。昨年の冬にやってきたばかりの若い女性教師は、皆からミスバーリーと呼ばれ、牧師を悩ませる悪童たちでも彼女を愛していたし、私も彼女の生徒への愛情にも似た信念を少なからず愛していた。水曜日の聖ミサの日にはアイスクリームが出た。彼女の白い手から受け取るアイスクリームが、私はとても好きだった。
私は一人、皆の中から抜け出して、炭鉱のすぐ近くまできていた。丘になった小高い森から、炭鉱を見下ろしていた。
暖炉の燃えカスのような乾いた匂いの中に、掘り返した大量の土の匂いや、泥水の匂いが入り混じっている中、肌をまっ黒にして走り回り、いくつも連なった空っぽの滑車が真っ暗な穴倉まで消えたかと思えば、また山のように積んだ石炭を積んで穴から出てくる。その様子がまるで玩具屋のジオラマを見ているようで、私は草の中に座り込んだまま、飽きずにじっと男たちを見ていた。 ある男がシャベルを持って穴倉に消えていった瞬間、爆発が起こった。一瞬、穴の中が真っ赤になったかと思えば、うねるようなまっ黒な炎が噴き出し、地球が割れるような大きな音を立てて地面が揺れ、続いて何度も何度も花火でも打ち上げるように大なり小なりの爆発が起こった。滅茶苦茶だった。
────粉塵爆発だ。
粉塵爆発が起きるには三つの要素が必要となる。粉塵、火種、酸素…。
後で新聞の記事で知ったが、炭鉱では、酸素を供給するためのビニールのパイプが通され、粉塵の満ち溢れた穴倉の中を滑車が火花を散らして走り回っていた、起こるべくして起こった事故だった。穴倉の中にいた428人全員が死んだらしい。しばらくは生存者もいただろうが、岩盤倒壊により密封された炭鉱の中で一酸化炭素中毒により死んでいるのが確認された。救助には…もとい遺体発見まで何ヶ月も掛かったというが、中にはいまだ発見されないままの男たちもいたという。父は連日喪服を着てそういった死体のない葬式のためにミサを上げた。
泣きながら現れたミスバーリーは、草むらに座り込んだまま地獄絵図となった炭鉱を見つめていた私を抱きしめて、「見つからないかと思った」とその胸にぐいぐいと押し当てて、神の名を呼びながら泣いた。ミスバーリーが強く抱きしめれば抱きしめるほど、彼女の胸元にいつも光っていた琥珀のブローチが頬に当たってとても痛んだが、私はされるがままになっていた。この時初めて、私は女の腕に抱かれるという事を知った。 彼女は震える私を抱きしめながら何度も何度も宥めるようにキスをしたけれど、実際のところは彼女の尊い母性とは程遠い理由から私は震えていた。───あの音!
ああ、なんて表現したら良いのだろうか。心臓を破るような音が波動となって肌を突き刺す!
そして逆らう事のできない圧倒的な力で大地が引き裂かれる悲鳴!規則正しく単調な世界をぶち壊す力!
炎を前に血が高ぶる原始的な本能!確固たる意志を持った獣!ああ、あれをなんと呼ぶのだろうか!
神の啓示だった。
創造、そして破壊。 絶対的な力。そして、何ものにも支配されず、制御されない美しさ。
12歳の私の持って居ない全てのもの。
そうして、12歳の無邪気なときは終わったのです。