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ナムリスがゆっくりと、ドレスの紐をほどいていく。
土鬼の高位の民のための民族衣装であり、閨のためのドレスであった。
羊毛を綴織にした一枚布で作られた、造りは簡素なものだが、高価な金糸を混ぜた糸で護符を意味する五本の指の文様が、雨が流れるように下向に向かって刺繍されている。閨は人間が最も無防備になる瞬間のひとつだった。その無防備な瞬間に、魔が襲ってこないよう、若い娘の閨には、閨を隠すための「手」や、魔を監視する「目」が刺繍された。西洋のガウンのように前合わせとなったドレスの紐をナムリスが解いていくと、絹織りで作られた薄手の貫頭衣のワンピースとなった下着が露出した。その繊細な品ゆえ、透けて見える下着の下で、夢子の柔らかな色をした乳房が震えるようにぎこちなく呼吸を繰り返す。
じっと目を閉じて、シーツを握りしめて耐える夢子の顔を見下ろしながら、ナムリスはその胸元に手を置いた。
「何も考えるな。ただ目を閉じていれば、こんなものはすぐ終わる」
そう特別なことじゃない、と言って喉で笑ったナムリスの言葉を今だけは信じたい、と縋るように夢子は必死に頷いて更に強く目を閉じた。
その様子を見て笑みを浮かべたナムリスの顔は、夢子には見えなかったが、どこか憐れみを感じているような笑みであった。だが本当に夢子の境遇に同情を覚えているのなら止めるべき手を、ナムリスは遠慮なく進めていく。夢子の未だそう肉感的ではない胸を持ち上げるように愛撫しても、性の喜びを知らない夢子はただ筋肉の動きを痛がるように眉間に皺を寄せるだけだ。まだ成長途中の青い肉体であることの証だった。
ナムリスは、下着となったワンピースをたくし上げて、息を呑む夢子の背中を抱いて持ち上げ、するりと脱がせた。向かい合った夢子の瞳が憎しみと羞恥でキラキラと燃えるように光っている。王蟲の攻撃色を帯びた燃えるルビーのような目にナムリスは掻き立てられるような征服欲を覚えた。
―――この、愚かで、無知な娘を屈服させてやりたい。
胸を隠す夢子の腕を掴んで取り払い、鎖骨の辺りに唇を寄せた。
夢子の肌に鳥肌が立ち、こみ上げる吐き気を堪えるかのように喉を震わせていることに苦笑にも似た笑みを浮かべながら、遠慮することなくゆっくりと乳房へ、乳房からへそへ、へそから太ももへと入念に愛撫をしていく。くすぐったさに飛び上がり、自分のまたぐらにあるナムリスの頭を掴んで引き離そうともがいたが、ナムリスが舌を出して秘所を舐めた瞬間に思わず悲鳴を上げた。
「こ、こんなことはして欲しくない!するならさっさとすれば良いじゃない!!」
腕で顔を覆っていたが、夢子の真っ白な肌が朱を吹いたように真っ赤に燃えているのを見下ろして、ナムリスは土鬼の宗教に基づいてアバヤの女が剃り落した無毛の秘所を撫でたが、濡れる気配などなかった。
処女を奪ったナムリスの暴力の塊である行為を、血でぐちゃぐちゃになりながら意識もうつろに耐えた記憶しかなかった。それが夢子の受け入れた性だった。それなのに、同じナムリスの手がまるで貴重品でも触れるかのように肌をほぐしていく事が耐えられなかった。殴るなら殴ればいい。そうすれば純粋に憎しみだけを感じていられる。でも、そんな風に触れてほしくはない。
ナムリスの乾いた大きな手は戦士の手をしている。
肉刺がつぶれた跡が固い皮膚のささくれとなって、すべらかな肌をチクチクと痛めた。今はまるで恋人にでもするかのような手が、いつまた気まぐれに暴力へと変わるか分からない、何が起こるのか分からない恐ろしさもあった。憎しみの象徴であるナムリスが触れる肌、再び穢される肉体への喪失感と、苛立ちに身体が燃えるように熱い。
殴るなら殴れば良い。―――――そうすれば、耐えられる。
「おまえは、若いな」
ナムリスは目を細め、彼女のみずみずしい肌を見下ろした。
そのまま夢子を抱き寄せて、ふかふかとしたクッションへと身体を押し倒して、夢子の胸の尖りをくるりと撫で繰り回したが、夢子はむずがゆさに身をよじっただけだった。まだ、性の喜びも知らなければ受け入れるという事も知らぬ娘。誰の手垢もついていない肉体。この身体が喜びを覚えるようになるまで、まだ時間が掛かるだろう。両腕で顔を覆って時が過ぎるのをじっと耐える夢子の身体。指を這わせれば内側から瑞々しさが弾けるような張りと弾力で指を押し返す。後宮での安念とした日々を送る女にありがちな、熟れた肉付きの良い身体ではない。夢子の肉体は、ここ後宮での飽食の月日を経ても未だ引き締まった筋肉を持っている。その肌に、筋肉に、匂いに、仕草に、今まさに栄光の頂点にあるような「若さ」をナムリスは覚えた。
――――自分が途方もない程昔に喪失したものだった。
引き裂いてしまいたい。
ふいに自らの凶暴な欲望が、むくむくと込み上げてくるのをナムリスは強く感じた。
だが、ここで張り手の一つでも与えれば、この娘は憎しみの矛先を得て喜ぶだろうとナムリスは知っていた。今、この娘に与えるもので最も耐えかねるものは、「快楽」だった。快楽こそがこの娘の誇りをズタズタに引き裂くことを知っていた。だからこそ愛撫の手を止めることなく、乳房を咥え、甘く噛み、柔く摘まんだりこねくり回したりしながら、夢子が悲鳴を堪える声を聞きながら、そっと手を秘所へと這わせた。熱を帯びたそこに指を無理やり挿入しようとしたが、湿り気のないそこはナムリスの全てを拒絶した。
夢子の文化には、女子割礼がなかった。
ナムリスの弟、ミラルパが帝位を継いだ時に民衆に強要した宗教の中の数多くの禁則事項の中に含まれていた因習だったが、かつての祖先の神と風習を密かに守り、婦女の姦通を避ける為や痛みに耐えてこその成人への儀礼として行う民族が稀にあった。だが夢子は幸いにしてそういった恐ろしい文化を知らずに後宮にきた娘であり、健全な陰核を持っていたことにナムリスは満足し、そこを指で押した時、夢子から上がった声の艶に笑みを浮かべた。
「こんなものは、千年も万年も昔から行われている事だ。お前だけが耐えられぬ道理がない」
ナムリスの言葉に反発を覚えたが、それを言葉にすることはできなかった。
だがナムリスは、夢子に跨ったままベッド脇の棚から小瓶を取り出し、とりみを帯びた薬液と共にぬるりと秘所を撫で上げたのには思わず声を上げてナムリスを見上げた。着衣に一切の乱れがないナムリスと、裸体となり、これから肉体の全てを暴かれようとする自分。ナムリスの顔に浮かんでいた雄臭い笑みに、夢子は圧倒され、息を呑んだ。
「夢子、これから俺はおまえを愛することにしよう」
言葉を発せようとした夢子の唇を自らの唇でふさいで、ナムリスは迷いなく指を挿入した。
逃げようとする弱い身体を強く抱きしめて、窒息しそうなキスの嵐の中、ナムリスは手を止める事はしなかった。
そうして夢子の肉体は、ナムリスを受け入れた。