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マグネシウムを燃やしたような真っ白な光に包まれ、きつく閉じた瞼から赤い血管が透けて見えるほどの光を感じる。

なんだこれ!やばい!やっぱり何かの呪いが掛かってたんだ!!!と一瞬のうちに後悔した。
その瞬間、わたしは沢山の木の板が倒れる派手な音と一緒に埃臭く冷たい部屋に転がりこんだ。背中を強かに石畳で打ち付けて、息が詰まる。幸いなのかどうなのか、お尻から落ちたおかげで頭だけは無事だった。これ以上馬鹿になったら困る、と舌打ちしながら辺りを見回す。青く、暗い石造りの部屋には樽や木箱、古臭い布なんかが埃を被って転がっている。わたしが落ちた衝撃のせいだろう。


ここは一体どこ…?学校の中?

手の中にはしっかり手帳が握られていて、中は開いている。
暗いながらも僅かな明かりを頼りに眺めると全部白紙のページが広がっているだけだ。じゃあ一体誰が、なんのためにこんな呪いをかけていたんだろう。よっぽど見られたくない事が書いてあって、他人が読んだら他人をどっかにぶっ飛ばす仕組み?なんて神経質な…。っていうか、これ、まさかポートキー?でも学校内は禁止されていた筈だし…先生の忘れ物かなんかだったのかな?

『でも、こんな物騒な呪い駆けてあるものを、図書室になんか忘れていくなんて…』
むっとしながら手帳をローブのポケットにしまったとき、どやどやと慌てて誰かが駆け寄ってくるような音がした。
フィルチかも!それか監督生!?

『…下手すりゃ殺される』

あの頭のかたいフィルチがわたしの話を聞いてくれるかどうか…よし、被害者面しておこう。
さっとその場に転んだままのポーズをとり、足音が近づいてくるのを待つ。
あーあ、せっかくやる気になったところだったのに、まさか退学処分になったりしないかな…

ふいに明るい光が突き付けられて、目の前がくらむ。


「ここで何をしている!?」
「びっくりしまし…た?」

びっくりしました!急に手帳に飛ばされて!ごめんなさい!わたしは悪くないんですぅって主張をしようと思ったけれど、声がフィルチじゃない。
フィルチのイガイガとした声じゃなく、もっと力強くて乱暴な男の声。そんな先生いたっけ、と思いながら明かりに慣れていく目をゆっくりと開けて、わたしは驚く。見た事も無い大人の男がそこにはいた。背は2メートル近くもあり、毛深くて、顔中を手入れのされていない髭で覆った見るからに乱暴そうな大男。

まずい。学校を飛び出してホグズミードあたりまで飛ばされたのかもしれない!!!

「あ、あの、すみません、わたしホグワーツの生徒なんですけれど、ちょっと飛ばされてしまって……痛い!」
喋っている最中、男はわたしの腕を乱暴に掴んで引き上げた。最悪!人の話くらい聞け!!
力任せに掴まれた右腕が折れそうなほどに痛くて、声を上げて男の腕を押さえた時、男はぐいっと顔を寄せてわたしを睨む。
「痛い!痛い!離して!!」
「何わけのわからねぇ事言ってやがる。脱走者は容赦なく処断すると伝えてあった筈だ」
男の生臭い息が顔に掛かって、ぐっ、とわたしは息を止めて顔をそらす。アルコールとタバコの混ざった息がムッと臭くて、そらした体に更に密着するように男はわたしを引き寄せる。嫌だ!気持ち悪い!なんなのこの人!…もしかして、ノクターン横丁に飛ばされた!?なんで!?学校からそんな場所に飛んでしまうなんておかしい!

「やめてください!急に飛ばされてきた事は謝ります!でもわたしもう学校へ帰らなくっちゃ……!」

瞬間、弾かれたようにわたしの体は吹き飛ばされ、木箱にしたたかに体を打ち付けて、何が起こったのかわからないまま、口の中に血の味が広がり、びーんびーんと頬が緊張するように熱くなった。頬を張られたんだとわかった瞬間、ボロボロっと涙が出て、怖くて、動けなくなるわたしの腕を掴んでまた男は無理やり立ち上がらせる。殴られた。殴られたんだ、と理解した途端、ガタガタと体が震えて、足が縺れてうまく歩けない。衝撃で頭がいっぱいになって、脳みそがぐわんぐわんと震えるような感じがする。えっ、なに、なんで、こわい。なに、なんで、殴られたの?

こわい、と震える頭の中で、でもどこか冷静な場所で、(どうしてこの人、ランプなんか持っているんだろう)と思った。────魔法族だったら、普通、杖の明かりを使うのに…ランプを持ち歩いているだなんて、まるでスクイブか、そうじゃなけりゃ、マグルみたい…


「おい、どうだった?」
引きずられるようにして、明るい部屋に出た。男達が3人、机を囲んでお酒を飲んでいる。……なんなの、ここ?
「やっぱり一人脱走者だ。……おい、あの部屋からどうやって逃げられたのか言うんだ!」
ぐっと胸倉を掴まれて、グリフィンドールカラーのネクタイがくしゃくしゃに歪んでいく。男の目は血走っていて、怒りにも、この状況を楽しんでいるようにも見えた。……怖い。なに、ここ、なんなの?脱走者って一体何のこと?
口の中いっぱいにまだ鉄っぽい血の味が広がっていて、体は恐怖でガタガタと震えて、涙が後から後から流れていくのに、これは口内炎になるな、なんて間抜けな事を頭のどこかで考えている。腰が抜けてしまって、自分の足が自分のものじゃないみたい。しっかりと立つことができなくて、ぶるぶると震えながら、胸倉をつかむ男の力だけでようやく立っている。

「言え!!」
男がまた腕を振り上げて、わたしは思わず頭を守った。
けれどいくら待っても拳は飛んでこないままで、ゆっくり恐る恐る目を開ければ、大男は警戒するように外の方を睨んでいる。


「今外で何かが光ったぞ」
「墓参りにでも来たやつか、それでなければ、合図だ。アントン、お前見てこい」
「ッチ、次はお前だからな、ガスパール」
アントンと呼ばれた男が盛大に舌打ちをして、酒瓶をテーブルに叩きつける。涙をぬぐってテーブルに置かれた酒瓶のラベルを見るけれど、見た事のないメーカーのデザインだ。────”Central Beer“?(セントラルビール)
アントンという男が出て行き、またわたしの腕を掴む大男の関心がわたしに向いたのを感じて、体が強張る。
掴まれていない右手をゆっくりとローブに差し入れて、ざらざらと乾いた肌触りの杖を掴む。

ここがどこか、わからない。でも、逃げなきゃだめだ。
いざとなったらこいつらみんな石にしてやる!
校長先生ならきっと分かってくれる!正当防衛だって、きっと、言ってくれる!
だけどこのまんまこんな訳の分からない場所にいたら、どうなるか分からない。


「さあ、言え!……それとも、言いたくなるようにしてやろうか?」


男が腕を伸ばし、薪に明々とした火が灯る暖炉から引き抜いた火かき棒を見せる。火かき棒の鉄は真っ赤に色付いている。真っ赤に燃える鉄の周囲があまりの高温に揺らいで景色が歪む。あんなものを押し付けられたらたまったものじゃない。怖い。怖すぎる。…お、おちつけ…おちつけ…隙を見て、隙をみて言うんだ。
授業みたいに、落ち着いて、おちついて…ゆっくりと真っ赤に燃える火箸がわたしの顔に近づいた、

「Stu…」

杖を取り出し、Stupefy!(麻痺せよ!)と唱えようとした瞬間、ドアが、宙を飛んだ。
あ…、と虚空をぶっ飛んでいくドアがどこかスローモーションに感じられたのはわたしだけじゃなく、腕を掴む大男も、ほかの男達も呆気に取られてドアを見送ったのも一瞬、すぐにドアが石造りの壁にぶつかり叩き壊れたのを合図にするかのように大男がわたしを突き飛ばして、壁に立てかけてあったライフルのような長い銃を構える。それも一瞬のことで、音もなく別の部屋から沢山の、揃いの青い服を着た男たちがなだれ込み、瞬きする暇もない俊敏さで男たちを取り囲み、銃を突き付ける。

「銃を捨てて、手を後頭部に当てろ!そのまま壁に向かって歩け!」

呆気にとられてそれを眺めていれば、数人の青い服の男の人たちがわたしと目線を合わせるように膝を折る。
「大丈夫かい?」「酷いな、口を切っているようだ。」「救護班をまわしてくれ、怪我をした少女を一人保護した!」そんな言葉が次々に聞こえる。呆気にとられて止まっていた震えがまた込み上げる。近くにはあの火箸が転がっている。

……よかった、助かった…助かったんだ…。

震えながら、みっともない声を上げて泣き出したわたしの頭を、抱いて、怖かったろうに、と落ち着かせるように警察官だろう男の人が背中を撫でてくれる。ふいに、隙間なく男達を包囲していた警察官達の間に、ぱっと道ができる。

「いいか、決して殺すんじゃない。彼らは重要な手がかりだ」

十戒のようにしてできた道から、物騒なことを言いながら現れたのは、黒髪に、黒い目、そしてどこか東洋人めいた容姿の若い男の人だった。
「マスタング大佐!地下牢からだけでなく、こちらでも少女を保護!殴られたようで怪我をしております!」
わたしを心配してくれていた警察官の人たちがぱっと立ち上がり、敬礼をする。今この人、「Colonel」って言った?
Colonelって、「大佐」って意味だったよね?じゃあこの人は……軍人?魔法界に軍隊なんてあったっけ?
マスタング大佐と呼ばれた人は、わたしと目が合うと、薄く微笑み、膝を折り、そのままその手をわたしの頬に当てた。
じんじんと熱を持った頬に触れられ、びくり、と体が震えると、マスタング大佐は痛ましそうな、辛そうな顔をした。

「突入があと10分早ければ、こんな怪我をしなくても良かったかもしれないのに…大変申し訳ない」
「あ、いえ…あ、りがとう、ございました」
「すぐに救護班が駆けつける。ゆっくり手当てしてもらいなさい」

彼はそう言って親切な、好感の持てる顔で軽く微笑むと、わたしにハンカチを差し出した。
え、とハンカチと彼の顔を見比べると、彼はまた少し微笑み、「もう泣かなくていいんだよ」と子供に言うように言って、軽くわたしの頭を撫でて、立ち上がり、わたしの肩に自分の軍服を掛けて、すぐに同じ軍服を着た人たちの中に消えていった。わたしは自分に掛けられたその青い軍服を握り、すっかり腰が抜けてしまう。女性の軍人さんがやってきてわたしに何かを話しかけてくれるけれど、もう頭がいっぱいで英語が聞き取れない。


何?なにが起こったの?ここはどこ?……って、いうか、“大佐”って?