発表

『私が投影された!』

うわあ。手紙を破ったらオールマイトが投影された、とか一々言ってられないレベルで驚いた。素で「はい?」と言い返しちゃったし。

そんな一周回って反応の薄い私を放って、オールマイトはどんどん話を進めていく。彼は雄英高校の教師になること、それから私の実技ポイントがゼロ点で不合格であること。

――分かってはいた。オールマイトがいくら「私はヒーローになれる」と言ってくれたとはいえ、攻撃も出来ない私は、やっぱりヒーロー科には入れないことくらい。

仕方あるまい、普通科に拾われることを祈るしか――それしかできない。そうやってニヒルぶって平静を装わないと、オールマイトの前で膝から崩れ落ちて泣き出してしまいそうだった。

『しかし! 君なら薄々感じ取っていただろうが、ヒーローってのは敵を倒すだけじゃないんだぜ!』
「へっ?」
『私もまたエンターテイナー! それではVTRどうぞ!』


投影されたのは、試験が終わった後の救護室だった。そこにいたのは、リカバリーガールと、プレゼント・マイク、それから……

「えっ、電気くん!?」

まさか電気くん、私が帰った後からまた体調不良になっちゃったのでは……と顔を青くしている私を無視して、映像はどんどん進んでいく。

『ヘイ男子リスナー! 具合はどうだい?』
『プレゼント・マイク……すんません、もう大丈夫です』
『そいつは良かった! 受験生のリスナー全員を五体満足でお家に帰すことが、今日の俺の目標だからさー! 怪我なくてよかったぜ! じゃあ、気を付けて帰って……』
『あのっ! ちょっと、お願いがあるんすけど……』
『お願い?』

プレゼント・マイクがきょとんとした顔で電気くんを見た。電気くんはベッドから立ち上がり、いきなりバッと頭を下げた。

『あの巨大敵を倒したとき、俺の隣にいた女子いますよね? あの子に、俺のポイントちょっと分けてあげられませんか!』
『へ? あのスイッチガールに?』
『あ、そう! そうです、俺あいつに電力上げて貰ったから、あのデカブツを倒せたし……それにあいつ、俺らの会場にいた記念受験っぽい生徒を端から全部逃がしてくれたんすよ! だから多分、ろくにポイント稼ぎする時間もなかっただろうって……』
『あの女子リスナーにポイントを分けたいってのは、何でだ?』
『それは――』

ふっと、下げていた頭を上げた電気くんが、一縷の迷いもなくプレゼント・マイクを見据える。

『皆を助けてくれたから……です。つか俺、ああいう人がヒーローになるべきだって思うんすよ。だってあいつ、自分が損するの分かってて人助けを選んだんすよ? 今までのキッツい受験勉強を棒に振ってまで! 赤の他人の為に!』

『んでもって、俺……実は、あの巨大敵を見て、最初逃げようと思ったんすよ。……けど、そんな俺を奮い立たせてくれたのもあいつなんです。だから、せめて1ポイントでもいいから――!』
『あー。あの女子リスナーに関するお願いは、今日でもう二回目だな! 心配すんなよ男子リスナー! 君のポイントは分けられねえけど、分ける必要がねえくらい、あの子はヒーローだ!』

そこで映像は止まった。続いて、オールマイトの姿が再び映し出される。彼の笑顔は、何だか喜びがにじみ出ている表情で。もしかして、と期待に激しく躍動する心臓が痛い。

『さぁ! もうわかったね、強極少女! 君の考えた通り、我々教師陣が見ていたのは敵の撃破数だけじゃない! ヒーローはただ邪悪を破壊するだけじゃ勤まらない、そんなものは戦車にでも任せておけばいいのさ! 我々がもっと大事にすべきことは、いつの時代だってブレちゃいけない!』

――人を救けずして何がヒーローか!

そう叫んだオールマイトは、今までのどの時の表情よりも晴れやかだった。もう涙腺がぶち切れそうになっている私は、無理やり口元に笑みを浮かべて笑った。ヒーローはいつでも笑っている、それがオールマイトの教えだったから。

『救助活動P! 巨大敵の足止めに、戦闘の意志を失った生徒たちへの適切な避難誘導! 諸々加味して73ポイント!』
「――ってことは、まさか――!」
『合格だってさ強極少女!』

もうムリだ。父さんも母さんも居ない現状、私の恥はオールマイトにしか晒されまい。赤ちゃんもかくやのうれし泣きをする私を、オールマイトはただただ笑って受け入れてくれた。そしてこちらに手を差し伸べるようにして、彼は最後にこう言ったのだ。

『さあ、君も来いよ強極少女。雄英ここが君のヒーローアカデミアだ!』