もう一通の正体

二通目。

なんのこと? と言われると、アレだ。雄英高校からの通知書――の下にあった、ドシンプルな茶色の封筒。その手紙の中身に従い、私はいま、ある家の前に立っている。

「――久しぶりすぎる…………」

荘厳な日本家屋。恐る恐る足を踏みいれ、インターフォンに触れる。押す勇気が、いまいち出ない。

「ほ、本当に大丈夫なのかな……」

二通目の手紙。

『もし、合格通知が届いているなら、俺の家に来てくれ。親父は、この日は出張で居ないからな。場所を忘れた可能性を考えて、住所も載せておく』

以下住所。――差出人は、轟焦凍であった。

っていうか、雄英高校でまた会おうぜ! みたいなノリかと思ってたんだけど。実際に再会する日付はずらすのか、というツッコミは野暮なのでぐっと堪えた。

でもまあ……入学式当日に再会したら、絶対号泣しそうだ。そのせいで『いきなり泣き出すヤベェ奴』みたいにクラスメイトに認識されたら嫌だし……そう考えるとさすが焦凍、私の性格をよく分かってるということか……?

とぼんやり考えていたせいで、周りが良く見えていなかった。

「ああっ! 涼花ちゃんっ、やっと来てくれたのね!」
「おぶっ!?」

だから、いきなり体がグイっと何者かに引き寄せられたのにさえ気づくのが遅かった。何事!? と目を白黒させていると、ふいに、赤毛交じりの白髪が私の肩に流れてくるのが見えた。

「ふっ……冬美さん!?」
「いやだ、冬美さんなんて! 昔みたいに冬ねえでいいのよっ!」

ぐい、っと肩を掴まれて、ようやく対面することができた。

轟冬美。焦凍のお姉ちゃん。焦凍と私が遊んでいると、たまにお菓子やジュースを内緒で持ってきてくれた人。私たちが遊んでいるところに現れる彼女はいつだって笑顔で、嬉しそうだったのをよく覚えている。

それにしても――エンデヴァーさんが私を拒否したとはいえ、姉である冬美さんにまで拒否されていなかったのは、素直に安心できた。

「ああ本当に、あの時はごめんね、ごめんね……! 私何もできなくて……とっても貴方を傷つけたと思う……」
「そんな……良いんです」
「本当に? お姉ちゃんのこと許してくれる?」

いつも笑顔を絶やさなかった彼女が、今はこうして目に一杯涙をためて、私に問いかけてくるから。一も二もなく、私はぶんぶんと頷いた。

「初めから、冬ねえは何も悪くないよ」
「――ありがとう、涼花ちゃん。その言葉で、私すっごく救われたわ。またこの家に来てくれて、すっごく嬉しい……!」

もう一度強く抱きしめられる。さっきは驚いて抱き返せなかったけど、今なら出来る。私より大きな背中に手を回して思いっきり抱きしめると、彼女はまた少し涙を零した。

ひとしきりそうしていると、やがて冬ねえが恥ずかしそうに涙をぬぐってそっと離れた。

「私ばっかが泣いてちゃダメね。さ、家にあがって……涼花ちゃん。私なんかより何倍も、何十倍も、涼花ちゃんを待ってたあの子に――会ってあげて」

開けられる玄関の扉。インターフォンからそっと指を離して、一歩踏み出す。五年ぶりに入った焦凍の家は、昔と変わらず畳の匂いがして、それがどうしようもなく懐かしかった。