秘密をプレゼント

「という訳で! 私が来た!」
「ど、どういう訳ですかオールマイト!? ってか、何でこのドチャクソ汚い海浜公園で待ち合わせ!?」

いやあ、本当にビビった。

あの商店街のヘドロ事件から一か月――新緑の候、鯉のぼりが各ご家庭からちょうど撤去されたばかりの今日この頃。私のSNSアカウント(しかも趣味垢)からオールマイトの公式垢でDMがぶち込まれたときは本当に何事かと思った。エッ公式が乗っ取られた!? と思ったレベルだ。

「いやあすまないね! 連絡先聞いてなかったから、緑谷少年に聞いたんだよ! そしたらSNSしか知らないって言われちゃってさ! メールとかの方が良かった?」
「いやまあ、でも公式アカウントからでしたし……それに強極少女って打ち込んであったから、これはオールマイト本人かな……ってなりましたよ。事実ちゃんと来ましたし……」

――で、なぜオールマイトは緑谷くんに海浜公園を清掃させてるの……?

一段高いゴミの山の上から見下ろせば、緑谷くんが必死こいて洗濯機を運んでいる最中だった。かれこれ十分くらい、ずっとこの光景が続いている。

そもそも、緑谷くんとオールマイトがこんなふうに楽しく海浜公園を掃除する仲だったなんて、私全く知らなかったんだけど。なぜ当たり前のようにここに呼ばれたのだ。

「ああ、それね! あの商店街の一件から、色々私なりに考えたんだよ。その結果、私は緑谷くんを鍛えることにしたのさ! 彼を雄英高校ヒーロー科に入れる為にね!」
「予想外の超展開――!」
「HAHAHA! まあ、ちゃんと説明するさ。時間はかかるが、何……緑谷少年があの洗濯機を片付けるまでには終わるだろう!」



なんというか……オールマイトは結局、私に全部秘密を明かしてくれたのだった。

未公開の敵との戦闘で負った傷。
彼の個性――『ワン・フォー・オール』のこと。
緑谷くんに、その個性を引き継がせるつもりであること。

なんだか言わせてばかりで申し訳なかったので、私もオールマイトに一つ話した。焦凍のことと、手紙のこと。するとオールマイトは、実はエンデヴァーにその話を聞いたことあると答えた。そこまで知られてるならと思って、私は彼に手紙も見せた。雄英高校に入りたいんです、と照れながら語る私に、オールマイトは優しく頭を撫でてくれた。

そして――

「君にも、ぜひヒーロー科を目指してほしい!」

――今回の呼び出しの目的は、私の志望する科をヒーロー科にさせるため! だって! いや無理でしょ!

「お、オールマイト? 私の個性見ましたよね? あれじゃヒーロー稼業なんてやっていけませんよ」
「ふむ――確かに、人様の個性を増強させるだけしか出来ないなら、攻撃もままならないヒーローになるね」
「でしょう? だから――」
「しかし、本当に『それだけ』かな?」

オールマイトが、じっと私を見つめた。と思ったら、いきなりトゥルーフォルムからムキムキな彼へと姿を変える。えっ、なに? どうしたのいきなり?

「時に強極少女!」
「は、はい」
「私は今日、既に活動時間を超えている! このままこのフォルムで居続けたら、私は血を吐き臓器を壊しちゃうね!」
「は!? ちょ、ちょちょっとオールマイト!? 早く戻ってくださいよ!」
「いや戻らない! なぜなら君は! ヒーローになれるから!」

バン! と、これが漫画だったなら、背景に効果音が付いていたことだろう。オールマイトはまっすぐにこちらを見降ろし、私を見据える。――本当の姿を現せと、発破をかけているのだろう――。

「強極少女! 早くしないとマジでコレ死んじゃうから!」
「あーもう、分かりました! いきます!」

ぶっちゃけすぎだろうオールマイト。試練という感じはあまりないが、このくらいの緩さの方が緊張しなくて済むのでOKだ。

オールマイトの腕に触れる。彼の腕に触ったのは二度目だ。――意識を集中させ、個性の発動を促す。――イメージは、膨らみ過ぎた風船の空気を抜くように。もっと早く終わらせるならば、黒板に羅列してある文字を、一気に『消す』ように!

ぼふん! と目の前が真っ白な煙に覆われた。触れていた腕は既にヒョロヒョロのそれに戻っていて、ヒーローフォルムな彼ではないことは自明だった。

「げほっ、ごほっ……大丈夫ですか、オールマイト」
「ああ、問題ないよ。うんうん、思った通りの『個性』で安心した!」

とてもいい笑顔で、オールマイトは言い放った。ええと、一応説明すべきなのだろうか、私の個性を。