目覚め

「――君の個性は、さしずめ『調節』と言ったところか! まさに個性を強めたり弱めたりできるスイッチのようだ! 確かにそれだけ! 君に敵を倒す手段はない!」
「ええ、その通りですよ。だから――「だけど!」」

オールマイトは遮るように、大きな声で叫ぶ。目を見張る私をよそに、彼はふっと息を抜くように笑った。

「だけど――使い方によっては超強力な個性だと、君は今までで一度も思わなかったかな?」
「それは――」
「さっきは、『弱める』方向に個性を使ったね。あれは、君の加減一つで『個性を消す』という能力に変えることができる。それは、雄英高校の『イレイザーヘッド』に匹敵する能力だと考えたことは?」
「そんな……イレイザーヘッドと並び立てるなんて考えたこともないですよ……」
「あっはっは! 謙虚だなあ強極少女! まあ、彼は君とは違って身体能力もずば抜けているし、個性は人と比べるものではないか!」

――でも、オールマイトが何を言いたいかは分かった。

確かに……考えようによっては、この個性はヒーロー科にあってこそ役立つかもしれない。この個性は、味方の戦力増強も、敵の攻撃から身を守ることも、敵の個性を打ち消すこともできる。

この力は――前線ではなく、銃後でヒーローをサポートする力だ。だから、……前線で戦う子たちが集うはずのヒーロー科に入る資格なんてない。

「君は、轟少年に会いたいんだよね? 彼、十中八九推薦入試でヒーロー科に受かると思うよ」
「うん……分かる」
「轟少年の悲鳴を、願いを、君は無視したくない。そうだろう?」
「うん……だから、普通科で……普通科でいいから……」

いけない。なんでだ、何で勝手に涙が……。オールマイトに迷惑かけちゃう、早く泣き止まないと……。

「君は轟少年がヒーローになるには、邪魔な存在なのか? 轟少年は、君が居ると強くなれないのか? 本当に?」
「っ、わ、私……」
「違うって証明したい――それが、君たち二人の総意なんじゃないのかな?」

ボロボロと涙が落ちて、くすんだ廃材の上に滲んで消える。

嫌だな私――自分で思ってた以上に、エンデヴァーさんの一言が心に刺さってたらしい。すっごく痛い、すっごく悲しい。私は焦凍の傍にいちゃダメだって――あの時から無意識に、ずっと決めつけてたのかもしれない。

本当は、私だってヒーロー科に行きたい。普通科なんかじゃ会えないかもしれないこと、本当は分かってた。

会いたい、焦凍にちゃんと会って、手紙なんかじゃなくって、ちゃんと自分の言葉で話したいこと、本当は山ほどあるんだ――!

「あ、あぁぁ……っく、ううっ……会いたい! ほんとは! ほんとはっ――私も、ヒーロー科に行きたい……っ!」
「ああ。そして轟少年も、きっと君に会いたいんだ。剥奪された、君との時間を取り返すべく――ヒーロー科で会いたいって、君に伝えたかったんだろう」
「ううっ、焦凍……ショート……!」

オールマイトにすがるように抱き着いて泣いた。ヒョロヒョロで頼りない見た目かもしれなかったけれど、ぽんぽんと私の背中を叩いてくれた手は、きっと誰よりも信頼出来て、今の私には何よりもあたたかい手だった。

そうしてひとしきり泣いた私に、オールマイトはそっと声をかけた。

「さぁ――Plus Ultraだ、強極少女。君は今、ようやく夢を見る場所へとたどり着いたのだ!」
「はいっ……ありがとう、オールマイト――!」
「で、これが君のレッスンメニューね! 強極少女は筋力でどうこうするタイプのヒーローではないと思うから、とりあえず持久力つけるとこから始めよう!」
「えええ変わり身はやっ! 既に準備済みですか!」
「HAHAHA! ヒーローは何時だって時間との勝負! 君の約束もまた、時間との勝負だ!」

ヒーローフォルムに一瞬戻って、茶目っ気のあるウインクと共に手渡された大量の予定表。私はそれを大事に抱きしめて、涙をぬぐって頷いたのだった。