ガールズ・スイーツ

「はぁ……」

今日何度目のため息だろう。
ここ最近、ずっと『Knights』の特訓に付き合っていたせいで身体的疲労もひどかったが、精神的にもかなり参ってしまう。
まさか、泉が連れてきた新メンバーが……真くんとは。

「私が関わったからじゃないって、真くんは言ってくれたけど……ああ、でも英智のやったことだろうしなぁ……はぁぁあ……」

加えて、今日の昼休みに送られてきたこのLINE。

【『fine』に移籍することを決めました。
本当にすみません。
俺は、明星のように強くはなれなかった。
裏切り者と揶揄して構いません。貴女や朔間先輩、軽音部の力添えを、明星の輝きを、『Trickstar』の可能性を潰してしまった俺を許す必要などありません。

ただ、明星のことを支えてやってほしい。
お願いします。あいつ、今も一人で戦おうとしている。
昔みたいに、一人になっても……。
一人にした俺が言っても、説得力はないかもしれない。
でも本当に――これが俺の、貴方への最後のお願いだ。

今までありがとうございました。
感謝、しています。 】

今すぐ、北斗くんのところに行きたかった。
見事に英智にはめられている。そんなことを伝えたい訳じゃない。ただ、この文面からにじみでる悔しさと悲しさが、痛いほどだから。

少しでも話して、力になりたい……。

「千夜ちゃん? ほら、早く支度しないと、泉ちゃんに怒られちゃうわよ?」
「鳴ちゃん……うん、わかった」

こうして、昼休みと放課後、毎日3Bに『Knights』の誰かが迎えにくる為、自由な時間もほぼない。ハッキリ言って、明らかに拘束されている。
今まではこんなことなかったのに。これも全部、英智の策のうちだろう。

『Trickstar』も空中分解、私は『Knights』の専属プロデューサー化させられ、零さんとコンタクトすら取れない状態にされてしまった。この分だと彼や、彼の『UNDEAD』にも何かの制裁が行われた可能性があるが、知るすべもない。

「……千夜ちゃん、辛いのは分かるわ。元気を出してちょうだい。アタシだって、こんなの本当は反対よ」
「っ、ご、ごめん。『Knights』が嫌なわけじゃ……」
「わかってる。貴女と泉ちゃんが、誰より『Knights』を愛してくれてることくらいね。でも、困ったものだわ……愛がなきゃ嫌よ、とは一概には言えないものね。愛があるからこそ、こんな状態になっちゃった訳だもの……」

はぁ、と鳴ちゃんにまでため息が移ってしまった。
これじゃダメだ。アイドルの笑顔を曇らせてるようじゃ、プロデューサー失格だし。

「ごめんね! 今日なんかテンション下がっちゃってて」
「いいのよぉ。アタシもお肌のノリがよくないとテンション駄々下がりだもの。でもそうねぇ、最近練習続きで辛いし、気分転換でもする?」
「気分転換?」

なにをするつもりなんだろう。
首を傾げていると、鳴ちゃんはうふふと機嫌よく笑った。

「女の子の気分転換、もしくは自分へのご褒美と言えば、一つに決まってるじゃない♪」
「もしかして、甘いモノ!?」
「せいか〜い♪ 今日の限定メニューは、チョコレートケーキなのよ?」
「行きたいっ! あ、でもお昼の練習……」
「ちょっとくらいなら、泉ちゃんも許してくれるわよ。アタシが言っておくわね」

スマホを取り出し、手早く連絡をつけてしまう鳴ちゃん。こういう時、鳴ちゃんの優しさと強かさに甘えてしまう。まさしくお姉ちゃんで、時折どっちが年上か忘れてしまいそうだ。

「よし! 連絡も入れたし、準備はOKね! 行きましょっ、千夜ちゃん」

ぱちん、と飛ばされたウインクに思わず頬が緩んだ。



「鳴ちゃん、これ持ち帰りにしない?」
「え? どれどれ〜?」
「このクッキーが泉と凛月。で、こっちのクッキーは司くんね」
「ああ、司ちゃんの方はカロリー控えめにしてるのねえ。相変わらずみんなのこと考えてくれてるなんて、アタシ感激しちゃうわ」
「『Knights』の皆のこと考えない日なんて無いよ。まぁ、私たち割と協調性ない集団だけどさ……泉とかホントに頑張ってくれてるの、知ってるから」

だから、不必要にあの人を責めたくない。
真くんへのあの扱いだって、本当は不満だし、絶対間違ってるって思うけど。でも、泉がそれをしてるのは、なんとなく……私やレオに対する反省を、あの子で生かそうとしている気がして。

「泉ってさ、あれで誰よりも頑張り屋だから。あの頑張りに付き合うの、私は好きだよ」
「うふふ……今の言葉、聞いてたのがアタシでほーんと残念」
「だって伝えたら、照れ隠しにののしられるもんね」
「アレこそツンデレってやつなのかしらね?」

二人で一人の男子について語り合うなんて、ちょっとガールズトークみたいだ。

結局、クッキーを割り勘で全員分買って、私たちだけは別に、チョコレートまでいただくことに。カロリーが大変なことになってるかも、なんてぼやくと「じゃあ、今日はハードに練習しちゃいましょうか。シェイプアップしなきゃ!」なんて鳴ちゃんが笑う。

レッスンに対して少し憂鬱な気持ちになってたけど、彼のおかげで気分が晴れた。口の中で蕩けたチョコクリームは、少し甘すぎるくらいだった。