夕暮れでお見送り

「マジで日が沈むまで解放されなかった……こんなの絶対おかしいよ……」

季節は春。日はどんどん長くなる時期に『日が沈むまで』とかいう条件を付けてきたのは控えめに言ってクレイジーだったのでは?
だいたいKnightsにプロデューサーとかいらないよ、とは思う。個人競技の得意な面々だから、あまり入り組んだフォーメーションもしないし。
そりゃ、向こうから注文を受ければそうするが、彼らも個々人の魅力で太刀打ちできると考えているらしいので、今のところその予定もないし。

「お姉さま、一緒に帰りましょう!」
「ありがと、司くん。でもまだ部活で校内に居るから大丈夫だよ」
「なんと……! Lessonのあとに部活まで行われるのですか? 千夜先輩の向上心には、本当に感心するばかりです……!」

キラキラとした目で見つめられて、なんだか恥ずかしい。えへへ、と年下にほめられて喜ぶ知能指数の低そうな先輩が出来上がってしまった。

「千夜さぁ、かさくんにデレデレしすぎでしょ」
「いや、この末っ子力の前には屈するしかない……」
「はぁ、顔緩みすぎ。ほんと好きだよね、かさくんが」
「お姉さま、私もお姉さまをRespectしていますよ!」
「かわっ……きゃわわ……」
「語彙力」

えっへんと胸を張る司くんに思わず偏差値を20くらい下げていると、上からバカにした声が降ってきた。ついでにぺしっとツッコミの叩きが降ってくる。

「あらやだぁ、泉ちゃんったらヤキモチ妬いてるの?」
「はぁ!?」
「もーだめよぉ、愛があっても暴力はよくないわぁ」

さりげなーく私の体を泉と司から引き離し、鳴ちゃんがウインクを決めた。何この子紳士……もしくは淑女!

「ええ、そうですね鳴上先輩。瀬名先輩はGentlemanとしての意識が足りません」
「よねぇ、朔間さんに喧嘩売るくらい好きなのにねぇ。素直じゃないわぁ」
「ちょっと、拡大解釈はやめてくれない? 単純に、千夜が盗られたら戦力的に痛いだけだから」

少し上ずった声の泉。さすがに後輩二人に募られたら狼狽えるらしい。いいぞ鳴ちゃんかさくんもっとやれ! と言えば泉の指で頬を引っ張られるのは自明の理なので黙秘します。

「でも、確かに……兄者に攫われるのは我慢ならないし。ていうか千夜さ、新学期から兄者のことは朔間さんって呼んで距離置けって、俺言ったよねぇ」
「うぐっ」
「どーせ千夜のことだから、『落ち込んでる零さんが可哀そうだった』とか言うんでしょ」
「ご名答。まぁ、零さんが今日来たのは、単純に凛月に会いたかったからだから。責任の割合的には私とリッツで3対7かな?」

さりげなく責任を擦り付けてみたけれど、

「アレが寄り付くきっかけを作ったのはあんたでしょ」

ばっさり正論で返されてしまった。にしても、お兄ちゃんをアレ呼ばわりと来たか。零さんは本当に泣いていいと思うし、だからせめて私だけでも優しくしよう……と思ってしまう。

「でも千夜ちゃんも罪な女よねぇ。あたしたちの女王様でいてくれるはずなのに、UNDEADの朔間さんにもべったり懐いちゃって!」

ぷんぷん、とわざとらしく怒った様子を見せる鳴ちゃんは女神だ。

「べ、べったり……私が?」
「それは兄者でしょ」

そこだけは凛月もフォローしてくれるらしい。……よほど普段からべたべたされるのが嫌なのだろう。

「ま、あんまり気を許しすぎるのはまずいんじゃない? 吸血鬼の養分にされても、俺は知らないからね。れおくんも居ないんだから、その辺の危機管理はちゃんとしなよねぇ」
「いや、零さんはそういうんじゃないからね。絶対大丈夫だよ」
「…………はぁぁ」

泉はなぜかため息をついて、私のカバンを持って部屋を出て行った。

「ちょ、ちょっと待っ、それ私のカバン!」
「はぁ? 言わせないでほしいんだけど」
「え?」
「部室まで送ってく。……言っとくけど、一応男所帯だから、気を遣ってるだけだからねぇ?」

薄く頬を染めて、泉が言った。
なんだかこっちまで恥ずかしくなって、しりすぼみな声で「ありがと……」と言い、彼の背を追いかけた。

「あらら……泉ちゃんったら本当に素直じゃないわね」

嵐の呟きは、きっと二人には届いていないだろう。