綺羅星と遭遇

 部室に入ると、そこにはひぃひぃ言って息を整える眼鏡くん、足ががくがくの黒髪くん、ぴょんぴょん飛び跳ねてるオレンジ髪くんが居た。一瞬オレンジ髪を見て反応する自分は、本当に重症だなぁと苦笑。
おそらくは彼らが『Trickstar』だ。そして、この状況は……先ほどまで零さんのレッスンを受けていたという感じか。
終わったのかも分からないし、集中力を切らさないようこっそりと部屋に入ったつもりだったが、黒髪の冷静そうな子がいち早く私に気づいた。

「お客人か、朔間先輩?」
「いやいや、我輩の愛し子じゃ」
「愛し子?」

怪訝な顔で黒髪くんが見つめてくる。いったいどういう関係を想像しているのか怖くなったが、追及するのはやめてご挨拶をすることにした。

「初めまして。『Trickstar』の子たちだね? 私は日渡千夜。この春からプロデューサー科に転科してきた三年生がいる、って聞いたことないかな?」
「えっ! そうなの!? 俺知らなかったな〜。ホッケ〜とウッキ〜は?」
かなり間の抜けたあだ名だな、とぼんやり思っていたら晃牙くんと目が合った。テメ〜のあだ名も大概だ、と視線で訴えている気がする。
「俺も知らなかったな……。遊木はどうだ?」
「ふっふ〜ん、僕は知ってたよ! 三年B組の日渡千夜さんでしょ! 部活は軽音部で、強豪ユニットの『Knights』と親交が深い!」
「お、せいか〜い」

ぱちぱち、と拍手を送る。眼鏡の子は照れくさそうにポリポリと頬をかいてはにかんだ。可愛いな、と素直に思う。

「ふむ、80点じゃな。朔間零の可愛い妹分である、と『UNDEAD』とも濃密な関係にある、とでも付け加えるとよいぞ……♪」
「の、濃密って……」
「えー何々? 2人はどういう関係〜?」

 顔を赤くする眼鏡君と、楽しそうにドストレート質問をぶつけてくるオレンジ髪君。どういう関係もなにも、同級生でクラスメイトで部活仲間。あれ、結構いろいろあるな。

「わわわ、零さんの言うことは無視していいからね、えっと……遊木くん?」

疑問形でそういうと、三人とも自己紹介がまだだったことに気づいたらしい。すみません、と謝ってきた黒髪くんは見た目の通り真面目な子だった。

「俺たち三人は全員、2年A組の生徒です。『Trickstar』は四人組なんですが、一人はちょっと来る時間がないので、後日紹介します。……で俺は氷鷹北斗。一応A組の委員長をやってます、それでこいつは……」
「はいは〜い! 俺は明星スバル! 好きなものはお金です! あっ、キラキラしたものも好き! だから好きなのは硬貨になるのかな?」
「おい、明星。もう少しまともな物言いで……」
「まぁまぁ氷鷹くん、僕の自己紹介終わってからお小言は始めようよ」
「む……それもそうか」
「うんうん、じゃあ行くよ! 僕は遊木真って言います! 放送部所属なので、情報が欲しい時は頼ってもらえると嬉しいです!」

元気のいい、かつ素直な挨拶だ。
思えば周囲には一癖も二癖もある人間しかいないな、と今になって自分の交友関係に驚いた。まぁ、長年一緒にいたのがレオの時点でお察しな面はあるのだろう。
それが嫌じゃないのだから、自分も類友の可能性もあるし。

「うんうん、皆よろしくね。私はプロデューサーの経験もあるし、あんずちゃんが忙しそうでお仕事頼みづらいって時は連絡してね」
「……驚いた。日渡先輩は、出会ったばかりの後輩である俺たちにも、そこまでしてくれるのか」

北斗くんがポロリと零すように言った。

「んー、まぁ基本的にはアイドルの為に居るわけだし。助けようってそんなに可笑しくもないでしょ? それに、君たちには特別期待してるの」
「期待している……?」
「革命、するんでしょ?」

余計な気負わせ方は絶対にしたくなかったので、あえて何でもないような風に言う。北斗くんはさらに驚いた顔をしたけれど、零さんが「案ずるな。この娘は我輩の仲間よ」と声をかけたので、どうやら敵とはみなされなくなったらしい。

「先輩の協力が得られて嬉しい。感謝します」

代わりに、少し嬉しそうな視線を送られる。そうか、彼らはまだ二年生だ。生徒会に……三年生の英智に歯向かうにはまだいろいろと足りない。そこを補うための訓練相手を、指導者を、彼らは探していたのだろう。
だとすれば、確かに私は『指導者』的な観点から見れば使える人材だろう。

「うん、そう畏まらなくていいよ? 私も、この一年間ずっと生徒会を嫌って生きてきたわけだし、協力は惜しまないし。零さんはタダでは力を貸してくれないだろうけど」
「ううむ、千夜は我輩のことをよくわかっておる。我輩ってば愛されちゃってるのう」

可愛い後輩君たちを喜ばせるつもりが、なぜか零さんを喜ばせていた。

「まぁ、そういう訳じゃ。我輩は『Trickstar』の諸君に試練を課そう。乗り越えた暁には、それ相応の武器と加護をやろうぞ」
「なら私も、しばらくは『Trickstar』のプロデュース最優先で行こうかな? 零さんがムチで、私がアメの方針」
「おお、それもよかろう。じゃが、変に『Knights』からこの子たちが目を付けられぬように、よく考えて動くことじゃぞ? あの騎士たちは過保護が過ぎるからのぅ」

零さんが言うのは、どうなんだろうか。

「「朔間先輩がそれ言うんだ」」

――あっ、双子と心の中でセリフが被った。