やりやがった。やりやがった!やりやがった!!
怒りがぐるぐると回る。答えを聞く前にタッカーを壁に押し付けた。奴の体は恐怖からか震えている。ニーナの恐怖はこんなもんじゃなかったはずだ。許せない。こんな所業、許されて良いはずがない。
2年前は自分の妻を。そして今度は血の繋がった娘と犬を。タッカーは自分の家族を使って合成獣を錬成したのだ。動物実験にも限界はある。「人語を理解する合成獣を創るなら、人間を使えば楽だよなあ!」と怒りをタッカーにぶつけた。
しかし、タッカーは怯えながらもまるでわからないとでも言うように俺を見た。
「は…何を怒る事がある?医学に代表されるように人類の進歩は人体実験のたまものだろう?君も科学者なら」
「ふざけんな!!」
許されるはずがない。赦されるはずがない。こんな、人の命を弄ぶような事が許されるはずがない。ニーナはただ純粋に父親を慕っていたのに、それをタッカーは裏切ったのだ。いくら親でも、娘の命を弄んでいいはずがない。
タッカーは笑う。「鋼の錬金術師!」と俺の二つ名を呼ぶ。瞳孔の開いた目で俺を見て、笑う。「お前の手足と弟は、人の命を弄んだ結果だろう?」と笑う。
違う!
否定をしたくて、タッカーの顔を殴る。鼻からも口からも血が出るのに、タッカーは笑うことを止めない。
違う!俺達は、違う!俺達はこんな悲しい合成獣を創ろうとしたわけじゃない、ただ、ただ母さんの笑顔をまたもう一度見たかっただけなんだ!
声は最後まで出てくれないで、否定は拳に変わる。ちがうちがうと子供のように繰り返す。
ガッと俺の拳を止めたのは、アルフォンス。そして、エル・マスタング准尉の手だった。
「エドワード・エルリック。あなたのその拳はニーナのために振り上げているの?それとも、自分のため?」
「…っ、おれは!」
「自分のためなら今すぐここから出て行きなさい。ここからは私の仕事、自分勝手な子供はいるだけ邪魔です。」
「エル・マスタング!あんただって俺と同じだろう?生体錬成を研究してる奴なら俺の気持ちがわかるはずだ!」
「ショウ・タッカー。あなたを裁くのは、私でもそこにいる彼らでもない。然るべき場所で然るべき罰を受けていただきます。」
「ははは!綺麗事だけでやっていけるかよ!あんただって所詮軍の狗だろうが!死ねと言われれば死ぬんだろ?!殺せと言われればころ、」
「ショウ・タッカー。分かり易く言いましょうか?私、これでも怒ってるんですよ。私が軍の狗で良かったですね。そうじゃなかったら…それ以上無駄な口訊けないようにその上顎、今この場で吹き飛ばしてるところです。」
そう言いながらタッカーの口にピストルの銃口を突っ込む彼女の目は、初めて見る冷たい目をしていた。まるで目だけで人を殺せるような、そんな。
ごり、と口内に擦れる銃口に、タッカーは怯えた目をギョロギョロとさせる。タッカーを蔑むように見下すように見ていた彼女は、チッと舌打ちを一つしてタッカーから手を離した。タッカーは壁伝いにずるずると座り込んだ。
ニーナが、彼女の上着の裾をくわえている。パパをいじめないでと咎めるようなその行動に、彼女は眉を寄せた。今までみたいな僅かな変化ではなく、少しだけ泣きそうに眉を寄せて、ニーナを勢い良く抱き締めた。
「ニーナ、」と、喉の奥から絞り出すように一度だけ呟いたその声は、悲痛な響きを孕んでいて、いつまでもいつまでも俺の耳に残響する。
横からアルフォンスがニーナの顔を撫でてやる。俺達の今の技術じゃニーナを戻してやることは出来ない。歯がゆい。悔しい。泣けない鎧の弟は、掠れた声で「ごめんね」を繰り返した。
ニーナは言う。壊れたラジオのように同じ言葉を何度も何度も。
あそぼうよ。あそぼうよ。
おねえちゃん あそぼうよ。
おにいちゃん あそぼう。
あそぼうよ。