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俺とアルフォンスは時計台の下で傘も差さずに座り込んでいた。正直いっぱいいっぱいだ。何から考えていいのやらわからない。昨日の夜からずっと考えていたのは、俺達の信じる錬金術はなんなのかということ。

錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り、分解し、再構築すること。この世界も法則に従って流れ、循環している。人が死ぬのもその流れの内。流れを受け入れろ。

師匠にくどいくらい言われたその言葉は、わかっているつもりでも、結局つもりでしかなかったのだ。だから母さんを錬成しようとした。

そして、今も、ニーナを。

頭でわかっていても、俺達は人間だ。可能性があったらそれに縋ってしまう。足を、手を、弟の体を失ってしまったあの時から、俺は何も成長していない。なんとも情けない。

あの女はどうだろうか。生体錬成を研究している、エル・マスタング准尉は。初めてあんなに感情を露わにする彼女を見た。彼女の悲痛な呼び声が、今でも頭の中に残響する。

彼女は今、一体何を感じているんだろうか。ニーナとタッカーが死んだ現場に、軍人である彼女は行っただろう。その遺体を見て、彼女は何を思っただろう。
無表情でも無感情なわけではない。合成獣にされたニーナを掻き抱いた彼女は、ニーナの遺体を見てどんな感情を抱いたのだろう。



「ねえ兄さん、マスタング准尉、大丈夫かな。」

「あー…、俺も考えてた。」

「後で司令部に顔出してみようよ。」

「はは、子供は帰って寝てなさいとか言われそうだな。」

「兄さんきっと銃向けられるよ。」

「それでこのもやもやが晴れるんならそれもいいかもな。雨に打たれても全然流れねーや。」

「…ねえ兄さん。肉体が無い僕には雨が肌を打つ感覚もない。それはやっぱりさびしいし、つらい。僕はやっぱり元の身体に…人間に戻りたい。…たとえそれが世の流れに逆らうどうにもならない事だとしても。」



アルフォンスの言葉は強い意志だった。

戻りたい。戻してやりたい。

その願いは傲慢なんだろうか。タッカーの言うように、命を弄ぶ行為なんだろうか。誰か俺の背中をぶっ叩いてくれと思う。そうしたらきっと迷わずに走れるのに。

何故か最初に思い浮かんだのは、あの無表情の准尉だった。彼女ならばきっと、俺達の望んでいる言葉でないとしても叱咤してくれるのではないかと、そう思ってしまった。

胸のもやもやは晴れない。雨も、まだ止まない。