「何で私なんですか。」
私は大佐に詰め寄った。この光景、デジャヴだ。大佐は頬杖をついて、涼しい顔で笑う。前回と同じく余裕のある笑みだ。そう毎回毎回彼の都合のいいように扱われてはたまらないと、私は目を細めて大佐を睨んだ。
ちなみに今回もエルリック兄弟絡みだ。これも完全にデジャヴ。
機械鎧が壊れたためアルフォンスを元に戻すことが出来ないエドワードは、彼らの田舎にいる機械鎧技師の元に修理に行くらしい。まだ傷の男が捕まっていない今、国家錬金術師である彼は未だ危険に曝されている。そして錬金術の出来ない彼はただの子供だ。
理解は出来る。理解は出来るけど。別に私が護衛に付かなくても大丈夫じゃないのか。いや、アームストロング少佐がモリモリキラキラ盛り上がってるから彼だけで十分じゃないのか。
「他に適任がいないんだ。しょうがないだろう。」
「いるじゃないですか。アームストロング少佐がやる気満々で今まさにすぐそこにいるじゃないですか。」
「いや、暑苦しすぎる!と鋼のが嫌がるのでな。」
「エドワードさん、私の同行も嫌がって下さい。さもないと今すぐここで殺しますよ。」
「護衛が殺人予告出してどうすんだよおい。殺されるのか。俺殺されるのか。」
「とにかく、私も仕事が山積みなんですよ。どっかの大佐が仕事しないから。」
リザさんがそれも「そうね」と言いながら首をうんうんと振る。
周囲を見ると、東方司令部の面子はうんうんと肯いていた。我が上司ながら威厳がないと思う。なんとも言えない表情で大佐を見るエドワードとアルフォンス。大佐は目を逸らしてコーヒーを口に含んだ。マースさんがゲラゲラと笑いながら大佐の肩に手を置く。「上司の威厳ゼロだな」、と笑うマースさんに大佐は歯噛みしながらじとりとした視線を送った。
仕事が山積みなのは本当だ。それに私なんかよりアームストロング少佐の方が地位もあるし実力もあるだろう。彼は非常に目立つ見た目だけど。確かに少し暑苦しいけど。そんなの多少じゃないか。我慢しろ。護衛される立場でワガママを言うな。
「まあまあ、じゃあエルは仕事が片付いてから合流すればいいじゃねえか!」
「マースさん、勝手なこと言わないで下さいよ。だから何でよりにもよって私なんですかと。」
「私がここを離れるわけにはいかんだろう。」
「大佐のお守りが大変なのよ。」
「俺は中央で仕事が山積みだしなー。」
「あんなやばいのから守りきれる自信なし!」
「以下同文!」
「私だって仕事が、」
「エル、あなた最近ほとんど不眠不休じゃない。息抜きがてらに綺麗な空気を吸って来ればいいわ。」
リザさんに言われて、私は押し黙る。確かに最近ほぼ不眠不休で傷の男の捜索や被害の復旧作業や報告書作成や被害者の遺族の護衛の手配や…上げたらキリがない。疲れが溜まっているのも確かだ。でもそれは私だけじゃない。リザさんだって他の面子だって、そうだ。
ちらりとエルリック兄弟を見ると、こちらをじいっと見つめていた。
エドワードに生きろと言ったのは私だ。それは確かに否定しない。
しかしそれは私が護りますからどうぞあなたは周りを気にせず前へ進んで下さいという意味ではない。決してそうではない。
目的を果たしていないのに、周りをも巻き込んだのに、自ら進んで死のうとするな、と、そういう意味で。
バチリと合った視線を、彼は逸らさない。強い瞳は未だに居心地が悪いけど前ほどではない。と思う。彼の真っ直ぐな瞳は子供の割には大人びて落ち着いている。強い意志を込めた瞳。それは、以前と変わらないまま。変わったのは、私の彼に対する見方、だろうか。
「エル。」
「(いつの間に呼び捨てに。しかも勝手に。)」
「頼むよ。」
「…。」
「傷の男をあそこまで追い詰めたお前がいたらあいつだって簡単に手を出せないだろ。」
「…はあ。はいはい。わかりました。わかりましたよ。行けばいいんでしょう、行けば。」
言っときますけどどうなろうと責任取れませんよ。
腕を組んで吐き捨てると、エドワードはニッと歯を見せて笑った。
仕事、早く終わらせなくては。山積みになった書類を見て私はもう一度だけ溜め息を吐いた。
ああ、面倒なことになった。