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小高い丘の上にあるそれは、長い間帰っていないと言う割には小綺麗にされていた。トリシャ・エルリックと書かれた墓石の前に花を添えて、エドワードは墓石を見下ろす。

彼が今何を思っているのかは、私にはわからない。長い前髪のかかった横顔は年不相応に思えた。

リザさんが「最近の子供はすぐに大人になろうとするわね。」と苦笑いしていた事を思い出す。彼女が指していたのはきっとエルリック兄弟のことだろう。もう一ヶ所いいかと訊ねる彼に私は二つ返事で了承した。

彼の後に続いて歩き、着いた先にあったのは焼け焦げた残骸、だった。跡形もないそこは、瓦礫から判断するに家だったのだろう。さっきの、母さんの墓なんだ。ぽつりと呟いた声に、そうですかと返す。



「家は、国家資格を取った時に焼いた。後戻り出来ないようにしたんだ。」

「そうですか。」

「エルって、俺達の身体のこと聞かないよな。」

「…私には、関係ないですから。」

「…そうか。」



エドワードはどこか遠くを見るような目で瓦礫をじいっと眺めていた。何を考えているのか、私には到底わからない。帰る場所が無い寂しさか、幼い頃の憧憬か、それとも。いずれにせよ、どれも私が感じることのない感情だろう。

私はエドワードに了承を得、胸ポケットから煙草を取り出し、火を付ける。ゆらゆらと揺らぐ煙は、エドワードの感情を形容しているかのようにも見えた。

少しして、彼はごくりと唾を飲み込んで視線を強めた。私を見る目は色々な色に満ちている。希望や疑問や不安を色々ない交ぜにしたかのようなそれ。

なんですか。

極力声を弱めて聞いてやるも、エドワードは口をもごもごさせて言うか言うまいか迷っている素振りを見せる。彼は一体、何を言おうとしているのか。

なんですか。

先ほどよりさらに語気を弱めて、もう一度だけ訊ねる。彼はこくりと一度息を飲み込み、意を決したように口を開いた。



「俺は、回りくどいのは得意じゃない。…俺達は、母さんを人体錬成しようと禁忌を犯して、そして失敗した。対価にアルの身体と俺の片足を持って行かれた。片手を対価にアルの魂を鎧に定着させた。今は元の身体に戻る為に賢者の石を探してる。等価交換だ。エルのことも教えてくれ。」

「…何を聞きたいんです?」

「エルは、何で錬成陣無しで錬成出来るんだ?もしかしてお前も見たのか、真理、を。」



エドワードの断定するような言葉尻に私は一度目を伏せる。錬成陣無しの錬成。いつかは聞かれると思っていた。彼は、錬金術師は、真実を追い求める生き物だから。

技術向上や研究に貪欲な錬金術師という生き物。私の技術は錬成陣を使う錬金術師から見たら素晴らしい技術だ。エドワードは錬成陣無しで錬成が出来る人物だが、そこに至るまでのプロセスはきっと私と彼とでは違う。

嘘を吐くつもりはない。私は私の真実を伝えるだけだ。それが彼にとってどんな結果をもたらすのかは、わからないけれど。



「隠していても意味はないですからね。はっきり言いましょう。結論から言うと、何故私が錬成陣無しに錬成出来るのか私にはわかりません。」

「わからないってなんだよ。」

「無いんですよ。」

「無いって、何が!」

「記憶が無いんです。大佐に拾われる前の記憶が一切。」



イライラしたように問い返していたエドワードは、私の言葉を聞いて息を飲んだ。そして直後に彼の目には動揺の色が映る。

目を閉じると思い出すのは、マスタング大佐がまだ若く、少佐だった頃の事だ。