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氷結の錬金術師、アイザック・マクドゥーガルを掃討した翌日、私は中央司令部の部屋を訪ねていた。コンコンとノックし、部屋に入ると既にリザ・ホークアイ中尉とマース・ヒューズ中佐の姿がある。



「…へっぷし!」

「なんだ、風邪か?それはそうとお手柄だったそうじゃねえか!」

「俺は錬成陣を破壊しただけだ。犯人は大総統が倒された。」

「その大総統がお前の手柄と言っているんだ。…なんだ、不満か?お言葉、有難く頂戴しとけ!昔から言うだろ?年長者の言うことは素直に聞いとくもんだって!」

「…むう、」



話の区切りで、改めて失礼致します、と声を掛けマスタング大佐の前へ向かう。腑に落ちないような微妙な顔をしているのは、恐らく昨夜の手柄に納得がいっていないのだろう。
聞いたところ、アイザックにずぶ濡れにされて半ギレ状態で最大火力で氷の壁をぶっ壊したとの事。
無能とか言われたんだろうな。その絵が頭に浮かんで消える。マスタング大佐にはリザさんという右腕がいる為何も心配はしていないが、きっと昨日も大佐のフォローに回ったのだろうということは想像に難くなかった。

マースさんが私の肩をバンバンと叩き、嬉しそうに顔を緩めている。そういえば士官学校卒業後に中央に仮配属されていたが、中々顔を合わせる機会が無かったな、と今更考える。



「エル、お前はどうしたんだ?ああ、そういえばお前も現場にいたんだってなぁ!ロイの指揮下じゃなかったから顔も合わんし、一応心配してた!」

「一応。」



未だに眉間に皺を寄せているマスタング大佐を後目に、マースさんが私に顔を寄せ頭をぐりぐりと撫でる。やめてください、と言っても止まらないのは知っているので何も言わずに為されるがままだ。

現場にはいた。それは事実だ。しかし、アイザックにトドメを刺した事を知るのは、あの場にいた私とブラッドレイ大総統しかいない。
ブラッドレイ大総統がそうである、と言った以上、私にはそれが事実の一部であろうとも否と言う事は許されない。



「…そうですね、私の出る幕も無く、大総統の見事な手腕でした。」

「…やけに歯切れが悪いな。何があった。」

「いえ、東方司令部へ向かう前に別任務を命ぜられた為、それが済み次第向かいます。先到着が遅れる旨をお伝えするのと、これからすぐに発つためご挨拶を、と思いまして。」

「そうか、わかった。君の席はゆっくり掃除することにしよう。まだしばらく不味いコーヒーを飲まねばならんのは残念だがね。」

「気を付けてね、エル。」

「また中央に寄ったら顔出せよー!」

「ありがとうございます。皆様もお気を付けて。」



一礼し、部屋を出ようとした時、コツコツ、と机を叩く音。背後から声が掛かる。マスタング大佐の声だ。
私は2度咳払いをし、振り返った後に何か?と首を傾げた。



「そういえば、アイザックの致命傷は両肩の深い傷だったそうだが、どうも大総統の剣の型とは違う刺し傷もあったそうだ。」

「ああ、鑑識の報告ではどうやら"心臓を真上から一突き"されていたような傷口だそうですね。力の無い"若い女子供"でも倒れ伏した後なら誰でも出来るかも知れません。」

「ははは、それが本当ならとんだ"狂犬"も居たものだ。」

「そうですね。飼い主にここ掘れワンワンとされたのかも知れませんね。」

「ここ掘れワンワンするのは犬が飼い主にではなかったかな?」

「そうでしたか?まあ、狂犬ですから、そういう事もあるでしょう。忠犬であれば、きっと今の飼い主より先にお宝を見つけていたかも知れませんね。」

「…東で美味いコーヒーを淹れてくれるのを待っている。」

「犬が東を向けば尾は西に。美味しい豆を仕入れて向かいますよ。」

「ああ、待っている。…くれぐれも無茶はするな。」



コツ、と机を叩く音がし、私はワン、とひと鳴きして部屋の扉を閉めた。

恐らく意図は伝わった。後の判断はマスタング大佐に委ねればいい。一度目を閉じ、再び開ける。次の任務さえ終われば私は中央から東方司令部へ配属される。

私は軍人だ。しかし、何があろうと、護るべき、見るべきものは、ただ一つだけ。