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「この地上に生ける神の子らよ。祈り信じよ。されば救われん。」



生ける者には永遠を。
死せる者には復活を。

ラジオから聞こえる宗教放送はたまらなく退屈だ。グラスに付いた水滴を指ではじくことで時間を潰す。

グラスの中のオレンジジュースはすっかり氷が溶けてグラデーションを作り出していた。
味が薄まっているであろうそれを今更飲む気にもなれず、店主にグラスを下げるように言う。

しかし、ありがたい宗教放送を中断してまで商売をする気もないらしい。手を合わせていた店主は人の良さそうな顔で「悪い、あとでな。」と笑ってみせた。それに小さく溜め息を吐いたのは、言うまでもない。
未だに手を合わせている店主に「ごちそうさま」と声をかけるも、今の彼の耳にはきっと教主の声しか入っていないのだろう。

リオールは宗教に支配された街だ。いや、支配という言い方はよくないのかもしれない。彼らは宗教を心の支えとして生きている。それを生活の、人生の一部として受け入れているのだ。こちらがとやかく言う筋合いもない。



「(生ける者には永遠を…ね。)」



人は永遠の命を得たとき、どんな価値を見出すのだろう。終わりのない人生に、どんな救いを求めるのだろう。

私には、わからない。

祈り信じよ。さすれば汝が願い成就せり。

コーネロ教主の声が街中に木霊した。もう一度だけ、小さく息を吐いてその場を後にした。

*****

宗教パレードなんてものは、教主の力を見せつけ信仰心を煽ること以外に目的なんてものはない。その甲斐あってか、信仰心の強い住民達はパレードを見るために店を休み、皆がこぞってコーネロを崇めに行くようだ。

パレードの間は居場所がないのでしょうがなく毎回見に行ってはいるが、コーネロはどうにも胡散臭過ぎる。私は1人外れた家屋の壁に寄りかかり、腕を組んで遠目に見守る。

花びらが舞い、コーネロの手のひらに入った小さな花びらが一握りの後、大きな装飾に変わった。観衆はそれに感嘆し、歓びの声を上げる。わああ!という歓声。酷い茶番だ、と心の内で吐き捨てる。

リオールに潜入してから幾日経つが、今回のパレードだけはいつもと違い、何処かで聞いたことのあるような少年の声で冷静な分析が為されていた。
恐らく余所者だろう。万が一知り合いだった場合、姿を見られても面倒なのでフードを目深に被り直す。

彼らが言うように、"教主の奇跡の業"は恐らく錬金術に他ならない。しかし、彼の錬成は等価交換の法則を無視している。
本来であれば、一からは一を。植物からは植物しか錬成が出来ない。その法則が無視されているのだ。
それが、リオールの民が彼を神と崇める、理由。

くだらない、と小さく吐き捨てその場から去る為に背を向ける。何故自分がリオールへの潜入捜査へ駆り出されたのかは分からないが、コーネロのあの法則を無視した錬成が賢者の石由来なのであれば、軍への脅威となり得ると判断されているのかも知れない。
そして、賢者の石がここに存在しているのであれば、私の目的にも合致する可能性はある。酷くくだらない任務だとは思うが、もう少し様子を見てもいいかもしれない。

パレードの観衆の中にいた少女の輝く笑顔を思い出し、グイ、とフードを被り直した。