真実は時として残酷なものだ。追い求めた先が必ずしも希望に繋がるわけではない。それでも錬金術師という奴は真実を追い求めてしまうのだ。そういう生き物なのだ。真実の先に、何かが、希望の光があることを信じて。
俺達が図書館に籠もって10日も経った頃だろうか。外ではゴーンと時間を知らせる鐘が鳴り響いていた。
それまで軽快に万年筆を動かしていたエルの手がピタリと止まった。目を小さく見開いて、そんなはずは、とパラパラと資料をまた始めから捲る。やがて止まった手と溜め息。言い辛そうに紡がれた、彼女の導き出した答えは俺達の希望をどん底へ突き落とすものだった。俺の、アルフォンスの、息を飲む音がやけにリアルな響きを生み出した。
「ッ、そんなわけねーだろ!」
エルの手から引ったくるように資料を取る。しかし俺達の希望を打ち砕くように、文字の羅列は真実をまざまざと見せ付けてきた。彼女は間違っていない。彼女の助力がなかったとしても、いくらもかからずに俺達もその答えに行き着いただろう。その事実は消すことが出来ない、真実だ。
「そんな…!」
アルフォンスの絶望したような掠れた声を背に俺の心臓はドクンドクンと大きく鼓動していた。
それは、その研究書は、まるで地獄への誘いのようだった。ふざけるな、という言葉が無意識に口内で小さく吐き出された。衝動的に机に投げつけた紙の束は重力に逆らうことなくバサバサと床に落ちた。
「ふっ…ざけんな!!」
ガツンと殴った机はぐらぐらと揺れるだけで、俺の気持ちを落ち着けてはくれない。マルコーさんの伝えたかった真実はこんなにも非情な物だったのか。
こんな悪魔の研究を俺に知らせて、元に戻ることを諦めろと、そう言いたいのか。罪を犯した人間に何の犠牲も伴わない希望などないと、そう言いたいのか。悔しさか、やるせなさか。ぎり、と手に力が入った。
俺の声を聞き、慌てたように部屋に入って来たブロッシュ軍曹とロス少尉にアルフォンスが答える。エルは無表情のまま無言を貫いた。そして俺は、1人床に座り込んで頭を抱えた。
悪魔の研究とはよく言ったもんだ。マルコーさん、恨むぜ。研究書が解読出来たんなら良かったじゃないですかと笑うブロッシュ軍曹に酷く苛立った。「良いわけあるか」、と吐き捨てた俺達にブロッシュ軍曹が怪訝な表情で訊ねてくるものだから、八つ当たりするように答えてやった。
「賢者の石の材料は、生きた人間だ…!」
酷く驚いたように声を荒げるロス少尉とブロッシュ軍曹。そんなもの軍が容認しているのか、そんなはずはない、と。軍内部の事なんて俺にはわかりっこない。
正直2人に構っている余裕はあまり無かった。とにかく、気持ちを落ち着けたい。
言葉少なに軍人2人に誰にも言うなと予防線を張り、気合いの入らない足を無理矢理に立たせようとするが俺はその場に座り込んだままだった。足場が崩れるってこういう事を言うんだろうか。
納得のいかなそうな顔をしてブロッシュ軍曹が何か言おうとする。が、エルが彼を呼んだ。それは酷く静かな声で。咎めるような響きがあったわけでもないのにブロッシュ軍曹は、ぐ、と口を噤んだ。
「頼むよ…。」
力の入らない俺の一言で部屋の中は完全に沈黙した。