「…何で、あなた達がここにいるんです。」
第五研究所の前で見つけたのは、赤と金のコントラストの少年と、青銅色の鎧の少年だった。どうやって研究所の中に入るか思案していたらしい彼らは、私の姿を見るなりちょうど良かったと言わんばかりに安堵した表情を見せた。
もう一度何故ここにいるのか問うと、マルコー氏の研究資料には更なる真実があると答える。それを確かめる為にここに来たのだ、と。
ロス少尉達は何をしているんだ。勝手な行動をしている彼らに沸々と沸き上がるのは怒りの感情。それを隠しながら、そうですか、と短く返答する。ここで彼らを怒っている暇はない。今の仕事は彼らの護衛ではないのだから。
入り口には軍人が銃を構えて見張っており正面から入れないのだと言ったのはアルフォンスだ。角から入り口を見ると確かに青い制服の軍人が立っている。第五研究所の不穏な動きには軍が絡んでいるのか。上層部絡みの反乱分子か?思わず舌打ちが出た。今日は出番がないだろうと思っていた愛用の銃にはサイレンサーが付いている。
門番に向けて静かに銃を構えた私にエドワードが驚いたように目を見開く。それを横目に冷ややかに見ながら私は吐き捨てた。
「疑わしきは排除する。それが例え同じ軍の関係者であったとしても。」
「…疑わしきは、殺すのか。」
「ええ。」
「お前はそれでいいのか。」
「言ったでしょう。私とあなた達は違う、と。」
改めて門番に照準を合わせる。側頭部を撃ち抜けばいいだけの話。銃声や痛みに気付く間もなく彼は事切れるだろう。カチャリと安全装置を外す。後はこの引き金を引くだけだ。それだけでこの銃弾が彼の頭を打ち抜き、彼の生命が終わる。
パン!
乾いた音がしたのは、銃口からではなくて私の右頬からだった。視線を移すと、憤慨したような表情のエドワードがいる。どうやら私はエドワードから平手打ちを食らったようだ。焦ったようにアルフォンスがエドワードを呼ぶ。エドワードはそのまま私の肩を掴み、壁へ押し付ける。ふざけんな、と小さな呟き。
「お前の言った誰かを犠牲にって、こういう事かよ。誰かを殺すって事なのかよ。」
「そうです。私の仕事は、軍にとって不利益な人物を排除する事。東方司令部にいる間はその限りではありませんが。」
「大佐や中尉は…中佐は、知ってるのか。」
「ええ。」
「…エルは、なんでそんな簡単に、人を殺せるんだ。」
「これが、私の決めた道だからです。私が迷えば、護れない。その為なら自分が死のうが誰が死のうが知ったことじゃない。」
「…そうまでして護りたいものって何なんだ…!護りたいものってのはお前がこうなる事を望んでるって言うのかよ…!」
「あなたには関係ない。」
「…っ!関係ない関係ないって、じゃあ、お前に関係してる奴って誰なんだよ!」
そんなの、愚問だ。
肩に掛かったエドワードの手にはもうほとんど力が入っていなかった。乱暴に振り払うと彼はよろりとよろめいて、アルフォンスがその背を支えた。それを見る私の眼は冷ややかなのだろう。少しだけ泣きそうに眉を寄せたエドワードは顔を俯かせて、誰なんだよ、と小さく繰り返す。
私が、彼に返せる答えは1つしかない。それが彼が求めている答えと違っている事も解りきっていたが、あえてそれを口に出す事で私はまた1つ感情を私の内側に閉じ込める。
「…誰もいませんよ。」
護りたいものはある。けれど、こんな私に関わって欲しくはない。血に塗れた私の手なんか誰にも掴んで欲しくはない。
俯いているエドワードを見やり、ブラッドレイ大総統の言葉が頭を過る。「鋼の錬金術師をくれぐれもよろしく頼む。」一瞬、怖気が走った。
怒りに任せて喋り過ぎた。このままではきっと、彼らを巻き込んでしまう。私はあくまで中央にいる間だけの護衛だ。これから先護り抜くことはきっと出来ない。それならば、突き放すしかない。
幸い、中央にはアームストロング少佐やロス少尉がいる。私1人抜けたところで大差はない。
今はきっと、一番いいタイミングなのだ。
「この仕事が終わったら、護衛の任は降ります。…もう、関わらないで。」
言うなり彼らに背を向けた。沈黙の空間に、反論は、無かった。