42





「兄さん…どうするの?」

「どうするもこうするも…。」



エルの姿が消えた高い壁を見上げる。彼女は、帰れと言った。これ以上邪魔をするなと。しかし、きっとこの第五研究所には俺達の求めている何かがある。賢者の石に纏わる何かが。



『これ以上、私の邪魔をするな。』



吐き捨てるように言ったあの時に、睨み付けてきた彼女の瞳に、ほんの少しだけ懇願の色が見て取れた。まるでわざと突き放すようなそれに、俺は閉口してしまったのだ。

表情の変わらない彼女は、それでも瞳だけは、きっと彼女自身も分からないくらいに感情を灯す。
それは俺にしか分からなかったのかもしれない。俺の思い違いなのかもしれない。もしかしたら、俺がそう望んでいるだけかもしれない。それでも、この長くはない付き合いでも、それなりに彼女のことを知ったつもりだ。

命の責任は取れないと、エルは言った。恐らく危険なのだろうと、予測して。それは、彼女にとっても同じ筈だ。そして、賢者の石はきっと彼女の探している物にも繋がる。そうであれば尚更、彼女1人に行かせる選択肢は無い、と思った。



「…行くぞ、アル。」

「!うん、行こう!でも、どうやって入る?」

「入り口作っちまおうか。」

「錬成反応の光で気付かれちゃうよ。」

「…と、なると。」



アルフォンスに思い切り投げ上げてもらい、エルが飛び越えて行った壁の上に座る。こういう時、生身の身体じゃなくて良かったと思うのは非常に皮肉なことだ。有刺鉄線を機械鎧の右手で引きちぎり、アルフォンスまで届くように伸ばしていく。無事にアルフォンスまで届いたそれで、全身鎧の弟もギシギシと音を軋ませながら壁の上まで到達した。

壁から降り立ち研究所の敷地に入るが、入り口という入り口はガッチリ閉鎖されている。周囲を観察してもエルの姿は無い。恐らく何処かから建物内部に侵入したのだろう。ぐるりと見回すと、格子の外れた排気口が目に入った。あそこか!



「アル、ここで待ってろ。」

「1人で大丈夫?」

「大丈夫も何も、お前のでかい図体じゃここ通れないだろ。」



「好きででかくなったんじゃないやい…」としょんぼりした弟の声を背に、俺は排気口をずり這いで進んで行った。エルが通ったであろうそこは、まだ僅かに埃っぽい。彼女が俺よりも細身な体躯だからか、全ての蜘蛛の巣が取り切れていた訳ではなく、残っていたそれは俺の体に容赦無く纒わり付いた。ああ、邪魔くせえ!

排気口は思ったより狭い。こりゃ普通のサイズじゃ入れなかったな、くそ、と1人ごちる。体小さくて良かった…とそこまで口に出して、自分で小さいって言っちまった!と身悶えした。

排気口の出口まではあと少しだ。もしかしたらそこには彼女がいて、ここに居ることを大層怒られるかもしれないが、それでも彼女が1人きりで危険に晒されるよりずっと良い。エル、待ってろよ、と小さく呟き、出口を目指した。