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ナンバー48。

空っぽの鎧はそう名乗った。双子の殺人鬼スライサー。胴体に魂を定着させられた弟は、俺によって破壊されて「ちくしょう!」と唸りながらジタバタと腕を動かした。気色悪!その動きの気味の悪さに思わずびくりと震えてしまった。情けない声を出す弟に兄は静かに自分達の負けを認める。そうだそうだ、お前らの負けだ!

弟によって切り裂かれた脇腹からは血が流れて息が乱れる。壁に寄りかかって、スライサーに全てを話せと言うも、兄にあっさりと否定された。あろうことか自分達を破壊しろと言う。俺は即座に断った。

人殺しは、嫌だ。

この空っぽの鎧を人間と呼ぶ奴はいないかもしれない。それでも、彼らを否定したら俺は俺の弟を否定することになってしまう。俺の弟は間違いなく人間だ。それならば、スライサーだって人間であるはずだ。血印を消すだけでスライサー達はあっさりと死んでしまうだろう。それをする勇気は俺には無い。きっとこれからもそんな勇気は湧かない。湧かなくて、いい。

スライサーは笑う。人としての心どころか、姿まで無くした今になって初めて人間扱いされるなんて、なんて面白いのだ、と笑う。
鎧の頭だけになった兄は笑い続けた。そして笑い声が止んだ頃、俺に言うのだ。「冥土の土産に石について教えてやろう」、と。ただし錬金術に詳しくないと言う兄は、勿論賢者の石の製造方法なんて知るはずも無かった。

…意味ねーじゃねーか!ちょっと期待してたっつーの!



「話になんねーじゃんかよ!」



兄に怒りをぶつける。まあ落ち着け、と俺を諫めてから、言葉を繋げた。石については知らない。しかし、それを作らせていた者、すなわちスライサー達に第五研究所の番を言い付けた者のことならば知っている、と。



「それは誰だ!?」



急かすように俺が叫ぶ。

ゴスン!

スライサーの頭部の血印があっけなく貫かれた。見開いた目に映ったのは、胸元と太股にウロボロスの印を持つ二人組、そして薄茶の髪の毛を持ち青い軍服に身を包んだ青年。何故、ここに軍人が?



「どうしたもんかね」



言う言葉とは裏腹に薄く笑みを浮かべたその表情はひたすらに気味が悪かった。
瞠目する俺を尻目に女が困った子ね、と口を開く。そして優雅な手付きで唸っている頭部を鋭い爪でスパンと叩き切った。確認しなくても解る。あの頭部が話したり動いたりすることは二度と無い。それだけは、火を見るより明らかだ。
弟が事切れた兄に向かって叫ぶ。ちくしょう、俺達はまだ闘える、新しい身体をくれ、と懇願する。太股にウロボロスの印を持つ少年?少女?は、ニコリと笑いながらスライサーの剣を拾い上げた。そして、身体をくれと叫び続けるその鎧の血印に躊躇無く剣を突き刺した。



「ぐだぐだとやかましいんだよこのボケが!」



先程までの笑顔とは一変。見下すように冷徹な瞳でスライサーを見下ろした。ガスガス、と金属音が絶え間なく響く。俺はただそれを見るしか出来ない。その内にもがくように動かされていた腕すら上がらなくなった。それでも血印を突き刺す事は止めない。どうやら弟が事切れたことに気付いていないようだった。



「エンヴィー。もう死んでる。」

「あ?…あらー、根性無いなあ。」



本っ当、弱っちくて嫌になっちゃうね。
至極楽しそうに笑った後。エンヴィーと呼ばれたそいつは思い出したかのように俺に近付きしゃがみ込んだ。初めまして、と呑気に挨拶をしてくるエンヴィー。ジリジリと近付く距離に、心臓が嫌な音を立てる。
ここにたどり着いたのは流石だ、褒めてやる。やはり見下すように言葉を紡いだ後にエンヴィーは静かに言った。



「でも、まずいもの見られちゃったからなあ…。やっぱりあんたも殺しとこうか?」