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なんとも予想通りというか。

運転手として大佐と共に現れた私にエドワード・エルリックは、それはもう顔中のシワを寄せているんじゃないかというくらいクシャクシャにして「は?なんでお前が? 」という顔をして下さった。

「非常に、とてつもなく、とんでもなく嫌です。」という雰囲気を全開にした彼に、それでも気にせず歩を進める。私は仕事で、仕方なく、理不尽ながら、のっぴきならない事情で、ここにいるのだ。



「マスタング大佐から運転手を仰せつかったエル・マスタング准尉です。」



そう淡々と敬礼をすると彼は怒りはあるものの、チッと舌打ちをすると理不尽そうな顔で後部座席に腰を下ろした。どすんと大きな音も忘れずに。

隣にいた大きな全身鎧が「兄さん!」と咎めたが、エドワードはそっぽを向いてそれに応えようとしない。子供か?子供か。確かデータでは私よりいくつか年下だったはずだ。



「僕、アルフォンス・エルリックです。運転よろしくお願いします。」

「いえ、こちらこそ。」

「あの、マスタング准尉、"マスタング"って…。」

「ああ、エルは私の遠い親戚だよ。」

「ああ、そうなんですか。」



キーを回してエンジンを掛けながら、私は横目で大佐を睨んだ。そんなすぐにバレる嘘をなぜ吐くのか。大佐は別段気にするわけでもなく「早く出発したまえ。」なんて宣うので、少しだけイラッとした私はアクセルを少しだけ強く踏み込んだ。ガクンと揺れる車内。

エドワードが「てめー殺す気か!」と怒声を上げたのでとりあえず 「失礼しました。」とだけ返しておいた。これは私のせいじゃない。私とあなたの上司のせいだ。そこを勘違いしないで欲しい。あと後部座席だろうとシートベルトは締めろ。

車内には会話はほとんどなかったが、エドワードが足と手を組んで眉を寄せて窓の外を眺めるのを、バックミラー越しに見た。まだ15、6だろう彼がそんな神妙な表情が出来るに至った経緯は私が知る由もない。

ただ、あの真っ直ぐな瞳が私に一直線に向けられなければ、あの時の小さな恐怖感もなかった。その事に少しだけ安堵する。

タッカー氏宅に着くと、カランカランと大佐が玄関のベルを鳴らした。後ろの草むらから飛び出した犬にエドワードが襲われる、という光景を目の当たりにした後、大きな扉からタッカー氏とニーナと呼ばれた少女が出て来た。私は背筋を伸ばしてタッカー氏に敬礼を送る。

タッカー氏の実の娘であるニーナはおさげ髪を揺らしてエルリック兄弟を見やり目をパチパチとさせた後、私を見てニコニコと笑ってくるものだから、どんな顔を返せばいいのかわからずにひどく戸惑った。