「なぜ生体の錬成に興味を?」
そう問うタッカー氏。人の手の内を見たいのならば自分の手の内も明かせ、と。等価交換は錬金術師の基本だ。自分の研究成果は、時には莫大な価値があることを私達は知っている。だからこそ彼の言うことは間違ってはいない。
そして、子供とはいえ国家錬金術師であるエドワードも当然、それを十分理解しているはずだ。
大佐が止めるも、エドワードはその制止を振り切った。もっともだ、と外したボタン。ノースリーブの服から出て来たのは所謂義手、機械鎧だった。
ソファの後ろに立っている私からは後ろ姿しか見えないが、この出で立ちはどこかで見覚えがある気がする。しかし、そこまで重要でない、と判断しそのまま思考を閉じた。
ちらりとこちらを見る金の瞳と黒の瞳。エドワードと大佐から咎めるわけでもなく、ただ向けられた瞳に、私は静かにソファから離れ扉へ足を向けた。
「終わったら呼んで下さい。」
「ああ、すまないな。」
敬礼を返して扉を閉める。壁にもたれて話が終わるのを待つか、庭で煙草を吸わせてもらおうか、そんな一瞬の逡巡も、廊下の影からこちらの様子を見るニーナと先程エドワードを押し潰した犬の姿で立ち消えになる。
じぃ、と見て来る視線の言わんとすることはなんとなくわかる。小さく息を吐いて、私は小さな彼女に、小さく手招きした。
「おいで。」言うと、ぱっと明るくなる顔。居心地が悪いはずのそれは、その時はそこまででもなかった。
「ニーナはニーナだよ!この子はアレキサンダー!お姉ちゃんのお名前は?」
「エル、だよ。」
「エルお姉ちゃん!かわいいお名前ね!」
にこにこと笑うニーナ。苦笑いすら返せない表情筋を、少しだけ疎んだ。その気持ちを隠すようにぎこちなくニーナの頭を撫でてやると、彼女は更に笑みを深める。アレキサンダーが自分も自分もと言うように体を擦り寄せてきた。アレキサンダーの体も撫でてやると、気持ち良さげに喉を鳴らした。ほっとした。
ニーナは私の手を掴んではやくはやくと急かす。アレキサンダーもはやくはやくと私の青い軍服をくわえた。ニーナとアレキサンダーに同時に引っ張られ、転びそうになりながらもなんとか足を進める。大人相手なら文句の一つも言ってやるのに、無邪気に笑う顔を見ると何も言えなかった。私はしょうがないな、と肩を竦めた。
「エルお姉ちゃんは軍人さん?」
「一応ね。」
「わー!かっこいい!」
「ニーナのパパだってすごい人でしょう?」
「うん!だいすき!でも…最近研究ばっかりでパパ構ってくれないから、ニーナ、さみしいなあ。」
「…。」
「でもね!アレキサンダーがいるから大丈夫!」
「ニーナ、ちょっと目を瞑ってごらん。」
なになにー?言いながら素直に目を閉じるニーナ。手をパンと合わせて庭に咲いている花のつぼみに触れる。パチパチと錬成反応を伴って、成長ホルモンを活性化させたつぼみ達は綺麗に開花した。
もういいよ、とニーナの肩を叩くと、目を開けたニーナは「わあー!」と歓声を上げた。緑の庭に花が咲き乱れる。先程まで悲しそうな色を宿していた彼女の顔がぱあっと花が開いたように明るくなった。
よかった。無邪気な笑顔は苦手だが、悲しそうな顔はもっと苦手だ。
「相変わらず素晴らしいな、君の錬成は。華がある。」
「覗き見は悪趣味ですよ、大佐。話はもう?」
「ああ、君も資料を閲覧していいそうだよ。」
「わかりました。ご配慮頂きありがとうございます。」
「もう帰るの?」と悲しそうなニーナに、書庫に行くけど一緒に来るかと尋ねると元気良く返事をして、私の軍服の袖をちょこんと掴む。それを見た大佐が一瞬驚いたように目を開くと、すぐに面白そうに意地悪そうに、笑った。なんだか少しだけ恥ずかしくて、居心地が悪かった。
私はその視線から逃れるように、ニーナとアレキサンダーを引き連れて、そそくさと書庫へと足を進めるのだった。