今宵の出会いに

氷をタンブラーに入れた時の、カラカラと清涼感のある音が響く。カンパリを注ぎ、次にスイート・ベルモット。炭酸水をしゅわしゅわっと注いでグラスを満たし、軽くステア。カラコロカラコロ、氷がグラスに当たり音を立てた。夏は風鈴よりもこの音の方がよっぽど涼しくなれるかもしれない。最後にまぁちゃんの綺麗な指でレモンをきゅきゅっと絞り入れて、コトリと目の前に置かれる。見た目は完全にレモンティーだ。

じい、と初めてのカクテルを見つめていると、まぁちゃんが忘れてたわ、と小さなパラソルを乗せた。



「はあい、ビールの美味しさがわからないお子ちゃまな美歌へのオマケよ。」

「わーい、ありがとう。」

「そこ喜ぶところなの?」

「アメリカーノはジェームズ・ボンドのお気に入りとか言われてるわね。」

「ジェームズ・ボンド・・・ゴッドファーザーだっけ。」

「あら、惜しいわー、正解は007ね。」

「全然惜しくないし全然話聞いてくれなくてれいちゃんカナシー。」

「ごめんごめん、れいちゃんってなんかこうついついいじめたくなっちゃうのよねー。」

「れいちゃんさん、アメリカーノ飲みやすくて美味しいです、ありがとうございます。」

「れいちゃんさん。」



自分を指差しぽかんと口を開けたれいちゃんさん。はい、れいちゃんさん。もう1度言うと、れいちゃんさんは右手で口を押さえて肩を震わせた。ぶっ、くくっ、と堪えきれていない笑いが聞こえる。まぁちゃんがカウンター越しにわかるわぁー、と頬に手を当てながら嘆息した。んん、また2人しかわからない話か。とりあえずまた愛想笑いをしておくことにした。



「この子さかなクンのこともさかなクンさんって呼ぶのよ。」

「ひーっ、ちょっと待ってボクもうお腹痛い!」

「馬鹿にされていることはわかった。」

「違うわよ、可愛いわってこと。」

「そうそう。」

「(腑に落ちない。)」

「ムスッとしないの。ブスになるわよ。ああ、そうそうれいちゃん、この子美歌。」

「美歌です。はじめまして。」

「美歌ちゃんね、ボクはれいちゃんさんこと嶺二です。よろしくマッチョッチョ!」

「よ、よろしくマッチョッチョ・・・!」

「れいちゃんやめてあげて、この子あれだから。そういうのじゃないから。」



まぁちゃんのその言葉に明るく快活な笑い声を返し、嶺二さんがハイボールの入ったグラスを差し出す。1口分減ったアメリカーノのグラスを差し出して、カチンと乾杯をした。今宵の出会いにー、と語尾に音符が付きそうなセリフに私は思わず笑いを零す。なんていうか、「ぽい」。

やっと笑ったね、と嶺二さんが微笑む。歯の浮くようなセリフだなと思ったけど、不思議と悪い気はしなかった。




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