じい、と初めてのカクテルを見つめていると、まぁちゃんが忘れてたわ、と小さなパラソルを乗せた。
「はあい、ビールの美味しさがわからないお子ちゃまな美歌へのオマケよ。」
「わーい、ありがとう。」
「そこ喜ぶところなの?」
「アメリカーノはジェームズ・ボンドのお気に入りとか言われてるわね。」
「ジェームズ・ボンド・・・ゴッドファーザーだっけ。」
「あら、惜しいわー、正解は007ね。」
「全然惜しくないし全然話聞いてくれなくてれいちゃんカナシー。」
「ごめんごめん、れいちゃんってなんかこうついついいじめたくなっちゃうのよねー。」
「れいちゃんさん、アメリカーノ飲みやすくて美味しいです、ありがとうございます。」
「れいちゃんさん。」
自分を指差しぽかんと口を開けたれいちゃんさん。はい、れいちゃんさん。もう1度言うと、れいちゃんさんは右手で口を押さえて肩を震わせた。ぶっ、くくっ、と堪えきれていない笑いが聞こえる。まぁちゃんがカウンター越しにわかるわぁー、と頬に手を当てながら嘆息した。んん、また2人しかわからない話か。とりあえずまた愛想笑いをしておくことにした。
「この子さかなクンのこともさかなクンさんって呼ぶのよ。」
「ひーっ、ちょっと待ってボクもうお腹痛い!」
「馬鹿にされていることはわかった。」
「違うわよ、可愛いわってこと。」
「そうそう。」
「(腑に落ちない。)」
「ムスッとしないの。ブスになるわよ。ああ、そうそうれいちゃん、この子美歌。」
「美歌です。はじめまして。」
「美歌ちゃんね、ボクはれいちゃんさんこと嶺二です。よろしくマッチョッチョ!」
「よ、よろしくマッチョッチョ・・・!」
「れいちゃんやめてあげて、この子あれだから。そういうのじゃないから。」
まぁちゃんのその言葉に明るく快活な笑い声を返し、嶺二さんがハイボールの入ったグラスを差し出す。1口分減ったアメリカーノのグラスを差し出して、カチンと乾杯をした。今宵の出会いにー、と語尾に音符が付きそうなセリフに私は思わず笑いを零す。なんていうか、「ぽい」。
やっと笑ったね、と嶺二さんが微笑む。歯の浮くようなセリフだなと思ったけど、不思議と悪い気はしなかった。