シャンパンコールは聞こえない

れいちゃんさんこと嶺二さんは私の5歳年上だそうな。み、見えない。どうやったらこんなに若々しくいられるんだろう。ただ、言葉の端々に昭和の香りを感じる。そう言ったら大げさに泣き真似をして見せたので2度と言わないと心に決めた。

こんな偶然の出会いに2度目ましてがあるのかはわからないけど。神のみぞ知るってやつかな。



「美歌ちゃんだからあだ名はみーちゃんだね!」

「うわあ。」

「その反応傷付くなあ。」

「距離の詰め方が手馴れてるなあと思いました。」

「英語の教科書みたいな言い方するわね。」



残り少なくなったアメリカーノが名残惜しくて未練がましくちみちみ飲んでいると、それに気付いたのか嶺二さんが二パッと笑ってくる。美味しかった?そう問い掛ける彼に、とっても!と返すと満足げにふふんと鼻を鳴らした。



「そういえばあんた終電大丈夫なの?」

「んー、あー、そういえばもうないかも。いいよ、タクシーで帰るから。今日はとことん飲んじゃうぞー。」

「そうね、今日くらいはいいかもね。とことん飲みなさいな。」

「みーちゃん、今日何かあったの?お祝い事?」

「れいちゃん、逆逆。」

「逆?」

「まぁちゃん、いいよ、お酒が不味くなっちゃう。」

「いいじゃないの、とことん飲むならとことん吐き出しちゃいなさい。れいちゃん、美歌ったらね、今日彼氏に振られたのよ。」

「えー!」

「振られたんじゃないよ。お互い合意の上で円満に別の道を選択したんだよ。合理的解決。」

「どの口が言うの。浮気された挙句浮気相手が妊娠だなんて今時の昼ドラでも無いわよ。ねえ、れいちゃんも言ってやってよ。この子ったら仕方ないねーとか言っておめおめ引き下がってきたのよ。」

「え、それで怒らなかったの?みーちゃん優し過ぎ。」

「でっしょー!」

「よーし!今日はお兄さんも付き合っちゃうからとことん飲もうか!シャンパンいこうシャンパン!」



シャンパンシャンパン〜♪と手を叩く嶺二さんはどこぞのホストのようだ。イケメンは何をしても様になるのが悔しい。

知ってる?シャンパンって音を立てないで開けるのが正解なのよー、と豪語したまぁちゃんが見事にポン!と軽快な音を立ててシャンパンを開け、私と嶺二さんは笑い転げた。

どうやら嶺二さんとまぁちゃんの奢りらしい高級そうなシャンパンはピンク色のラベルに黒いリボンが巻かれたようなデザインで、女子ウケ間違いなしだ。モエ ネクター アンぺリアル ロゼと言うらしい。苦い味があまり得意じゃない私のために甘口にしてくれたようだ。

スワロフスキーがキラキラと散りばめられたシャンパングラスにしゅわしゅわっと注がれたピンク色の液体は見るからに美味しそう。グラス3つで乾杯。チーンと涼やかな音がした。(本当は当てちゃいけないらしいけど、今日は無礼講だからマナーなんていいのよ、とのこと。)



「んんー、シャンパンって初めて飲んだけど美味しいー!」

「ボクとまぁちゃんの愛情がたっぷりこもってるからねー!飲んじゃえ飲んじゃえー!」

「私明日は朝からお客様とゴルフだから潰れても家には泊めないわよ。」

「いきなりの塩対応。」

「みーちゃんの家は結構離れてるの?」

「恵比寿です。」

「じゃあそこまで離れてないね!」



良かった良かったーと言いながら私のグラスにシャンパンを注ぐ。結構酔っ払ってきたかもしれない。潰れるのだけは阻止しなければ・・・。とはいえ、人生初のシャンパンは美味しくて、親友やイケメンに囲まれてこんなに美味しいお酒が飲めるなら失恋も悪くないな、と思った。どうぞ、現金な女と呼んでください。




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