新堂ver.



「新堂さんっ!」

振り返ると、膝をつき衿元をきつく握り締める彼の姿があった。
背中を丸め俯く彼の顔から、ぽたぽたと汗が零れ落ちている。
駆け寄って目の前にしゃがみこむ。
きつく食いしばる歯の隙間からか弱い呼吸が漏れ、顔は真っ青になっていた。
普段の新堂さんからは考えられない様子に、ただ焦燥感に駆られる。
どうしたらいいかわからず、背中に手を回しそっと触れてみると、新堂さんは僅かに反応したようだった。

「……少し……休めば……大丈夫、だ」
「大丈夫じゃないです!」

言いながら再び彼の顔色を窺おうと向き直って、私は一瞬息を呑んだ。
先ほどまで月明かりに照らされていた艶やかな黒髪は、光を飲み込んだように真っ白に染まっていた。
私の強い口調に顔を上げた新堂さんと目が合う。
髪のことが喉まで出かかっていた私の瞳と、彼の深紅の瞳が交わる。

これが話に聞いていた、羅刹…

「新堂、さん…髪……あと、目が…」
「……ああ……もう少し…待っ…て、くれ」

私の震える声を聞いたからか、新堂さんは顔を上げ、ほんの僅か口角を上げた。
辛くて仕方がないはずなのに、それでも私を心配させまいとする振る舞いに、心がぎゅっと締め付けられた。
…私が、なんとかしなくては。
私が彼を助ける。楽にしてあげたい。
その一心で、私は小太刀に手を伸ばした。

「……っ、おい……お前…、それ…は」
「私の血を飲めば、新堂さんは楽になれるから」
「だめ……だ」
「新堂さんが苦しんでいる横で、何もしないで待つのは…嫌なんです」
「で、も……」
「…私の血、飲んでくれますか?」
「………」

いつもの新堂さんなら自分の意見を押し通して、私のわがままを一蹴する。
今はそれができないくらいつらいのだ。
反論したい表情で私を見つめているが、その息遣いは相変わらず弱々しく、最後には観念したように目を閉じた。

「……悪い」
「いいんです、新堂さんを助けさせてください」

新堂さんの返答を合図に、私は小太刀に力を込める。
どこの血ならいいのかわからないので、とりあえず左手の人差し指に刃を当てていた。
ぷつっと皮膚が切れた感覚とともに、痛みと痺れが指を覆っていく。
小太刀を離しじわじわと血が溢れてくるのを確認してから、新堂さんに人差し指を差し出した。

一瞬しかめっ面をしながら、そっと私の左手を両手で包む。
おずおずと口元に近づけ、指から滴ってしまいそうな血を、舌でゆっくりと掬い上げた。
ごくりとその血を飲み込む音が聞こえる。
新堂さんが血を飲んでくれた安心感で、思わず微笑んでいた。
指の血は止まることなく滲み続け、そのたびに新堂さんは遠慮がちに舌を伸ばしていた。

「新堂さん…遠慮しないでください」

羅刹は血を強く求める。
本当はもっと飲みたいのではないだろうか。
そう思っての私の発言に、新堂さんは怒ったように眉を寄せた。
それでも血が欲しい本能に似た欲望に勝てなかったのか、一旦舌を離すと、傷口に躊躇いなく唇を寄せた。

「………っ」

指を伝う血を舐めとりながら、溢れてくる血を吸い上げるようにする。
時々聞こえるリップ音と痺れるような痛みに、鼓動が早くなるのを感じた。
思わず吐息を零してしまうと、新堂さんは指から口を離し、私を見つめた。
まだ髪も瞳も元に戻っていないが、つらさは和らいだようで、血色が良くなったのを月明かりの下でも認識できた。

「恵美…」
「いっ……!?」

まだ傷口の閉じていない左手が強く引っ張られる。
突然の痛みに驚いていると、あっという間に新堂さんの胸の中に閉じ込められた。
その左腕でしっかりと抱き締められ、恥ずかしさと戸惑いで顔を上げた瞬間、唇が乱暴に塞がれた。
気づけば私の左手を取っていた新堂さんの右手は後頭部に回り、ほんのり血の香りの残る舌が私を捕える。

「んっ…、んぅ……」
「……はっ……恵美…」

息苦しさを覚えたころに唇が離れ、掠れた声が私の名前を呼ぶ。
大きく息をしながら彼を見上げると、頬をそっと撫でられ、触れるだけの口づけをされた。

「……ありがとな」
「…いいえ、お役に立てたなら」

真っ赤な顔を隠すように俯く私を、新堂さんは再び抱き締めた。
先ほどとは違って、優しく包み込むように。
視界に入る彼の髪は、元の色を取り戻していく。
そのぬくもりに身を預けながら、新堂さんがいつもの彼に戻ったことに安堵した。





新堂さんは○方さんっぽい。



EHL.