僕が彼女に付き合っているのは、どうしてだろうか。
彼女は僕の腕に手を絡ませ、弾むようなスキップをするような足取りで、目的の喫茶店へ向かう。
今までの僕なら、どんな女の子とだって、もっと楽しく過ごせていたはずなのに。
不思議とこんな風に考えてしまうんだ。
どうしてこの子と一緒にいるんだろう?って。

その喫茶店は雑誌の特集で取り上げられた絶品のケーキがあるとかで、店内はかなり混みあっていた。
行列も覚悟していたが、運よく待ちのお客さんはおらず、すぐにテーブルへ案内された。
彼女はもう注文するものを決めていたようだったが、メニューを広げるとあれもいいなでもこれも、と笑顔で悩み始めた。
同じメニューを差し出され、眺めはするんだけど、内容が頭に入って来ない。
どのケーキが人気なのかチェックして、デートの時に勧めるなんてこと、普段やっていたことなのに。
僕は彼女の勢いに負けるように、おすすめのケーキとコーヒーのセットを注文した。

その味はよく覚えていない。
見た目より甘くて、果物の酸味とよく合って、コーヒーの苦さが強調されていた気がする。
お目当てのケーキを満面の笑みで頬張りながら、彼女は色々なことを話していたけれど、その内容も今となってはわからない。
…今までの僕ではありえない、こんなこと。
一緒にデートに来た女の子の話を聞いていないなんて。
それほどまでに僕を占めるものが大きいなんて。
自分で自分が信じられない。
けれども一方で、それに納得している自分もいる。
そりゃそうだ、だってあんなにも。

小さな決心を一つすると、僕は目の前の女の子の話を遮るように立ち上がり、伝票を手に出口へと向かっていた。

「え…ちょっと、風間くん?」
「ごめんね、行かなくちゃ」
「行くってどこに?このあと駅前に、」
「ごめんね」

彼女は必死な表情で僕を追いかけていたが、僕は有無を言わさず謝罪と支払いをし、そのまま別れた。
彼女の言う通り、喫茶店に行った後に駅前でショッピングをする予定だったのだが、とてもそんな気分にはなれなかった。
こんなこと、初めてだ。
女の子とこんな上の空でデートをした挙句、途中で帰るなんて。
でも今の僕には、彼女はこれっぽっちも映っていなかった。
初めてのことなのだけど、戸惑いも迷いもなかった。
なかったから、こうして今ここにいるんだ。



…恵美ちゃん。
僕は今、こんなにも君のことばかり考えてしまうんだよ。






EHL.